下っ端くんは潜入捜査中!

明司武臣


「…まぁ、とりあえず座れ。」


明司がそう声を掛けてようやく、部屋に入ってくるなり頭を下げたまま動かなくなっていた相手が動き始めた。

シツレイシマス、と分かりやすいほどガチガチに固まった声で断りを入れ、恐る恐る近くにあったソファーに浅く腰を掛けたその姿に明司は思わず眉を顰める。


天下の『梵天』幹部(それも相談役)を前にしたそれは決して間違った態度ではない。

むしろごく当然の光景であり、常ならば明司も全く気に留めなかっただろう。

だがそうならなかったのは、今回明司が目の前の下っ端構成員、玄兎をわざわざ呼び付けた理由にある。


そして、同時にそれはたった今、なくなった。


「あの、すみません。それで、自分に一体どういったご用件でしょうか…?」

「…………」


事務所に出入りしているからといって調子に乗るな。

『梵天』No.2に目を掛けられているからといって大きな顔をするな。


上に立つ人間としてそう注意したかったのだが、大きな顔をするどころか、どこか疲れた顔をしている玄兎を見て思い直した明司は何も言うことが出来なかった。


いや、代わりに一つ。


「…春千夜のやつが迷惑掛けてるみたいだな。」

「え、」

「何か困ったことがあれば言ってみろ。聞いてやる。」

「あ…そ、そういえば、相談役は三途サンの実のお兄様だと風の噂で聞いたような…?」


あちらが兄と思っているかどうかは怪しいが、という言葉を飲み込み、誤魔化すように軽く咳払いをする。

そんな明司の様子に気付かなかったのか、玄兎はしばらく考え込んだ後、「あの人、何とかなりませんかね…?」と気まずそうに視線を逸らした。


兄として、は無理でも、ここは相談役としての威厳を見せなければならないだろう。


「物でも貢いで機嫌を取ったらどうだ?」

「物、ですか?例えば何を…?」

「例えば、そうだな…」


正直何も思い浮かばないが、明司はソファーにより深く座り直し、ついでに足も組み直して勿体付けて見せた。


と、不意に思い出したのは、今は亡き年下の幼馴染みのこと。

確か弟は昔、あの幼馴染みの髪を褒めていた、ような気がする。


そして、幼馴染みが使っていたのは確か―…






「え?石鹸、ですか…?」

「あぁ。」

「えっと、相談役が言うなら間違いない、ですよね…?分かりました。今度それ、三途サンにプレゼントしてみます。」


残念ながら、明司はそのせいでかつて幼馴染みが弟から殺意を持たれていたことを知らなかった。




明司武臣の助言

(ごめん、で済むなら警察は要らない)

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嘘つき、ロンリー。