下っ端くんは潜入捜査中!

九井一


「オマエ、まだ生きてたんだな。」

「はぁ、おかげさまで何とか…」

「三途に連絡入れとく。」

「ちょっっ!!?」


勘弁してください!と上がる悲鳴を無視し、九井は携帯を取り出すと件の番号を呼び出した。

そして、それを耳に充ててようやく邪険そうに手を振ってみせる。


「仕事中だろうが?さっさと持ち場に戻れよ。」

「くっ…!」

「一応言っとくが、仕事放って逃げたらどうなるか」

「解ってますよっ!」


食い気味に(噛み付くように)応えると同時に背を向けて駆け出す玄兎。

これから猛スピードで仕事を終わらせ、一刻も早くこの店からの脱出を図るのだろう。

あっという間に喧騒に紛れて消えていったその後ろ姿を見届け、一向に鳴り止まない呼び出し音に九井は舌打ちを漏らした。


『見付けたら知らせろ。』


玄兎が逃げた、との一報を受けて早数日。

ここ最近三途の玄兎に対する扱いが特に酷くなっていたことを思えば当然の結果だったが(何故か某相談役は「俺のせいじゃない」と頻りに繰り返していたが)、一度執着したら脅威の粘着力を見せるあの『梵天』No.2がそれを許す訳がなかった。

「知らせれば幾らか金を出す」とまで言い放った三途に正直呆れはしたものの、貰える物は貰っておくに越したことはないと九井も協力する気になったのだが。


それとは別にもう一つ、理由があった。


「…おい。」

「あ、はいっ!何ッスか?」


呼び出し音を聞きながら近くを通り掛かった従業員を呼び止める。

一応『梵天』に属する店だが、それを知っているのは経営者他数名のため、バイトらしきその男は九井の正体にも気付かず普通の接客態度で応じた。


「ここに玄兎ってヤツいんだろ。」

「玄兎?はぁ、いますけど…呼んできます?」

「いつからここで働いてる?」

「え?あー、いや?すんません。ちょっと自分には分かんないッスねー。多分オレより前からいると思うんすけど…」

「…分かった、もういい。行け。」


訝しげに眉を顰めながら離れていく男は九井も何度か見たことのある顔だったが、それより前から玄兎はここで働いていると言う。

いや、この店に限ったことではなく、何度か同じ話を別のところでも聞いた。


(……いまいち素性の知れねぇ野郎だ…)


その後もしばらく携帯を鳴らし続けた九井だったが、結局もう一度舌打ちしてそれを切ったのだった。






【九井一の疑惑】

(ワン・ミス・コール)

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嘘つき、ロンリー。