黒い楽園へようこそ

ユートピアへの羨望


怪我の回復に合わせ、転院を繰り返すこと三回。

順調にいけば次で退院だろう、と教えてくれたのは顔馴染みになった監視役の一人で、続けて相手は「これでやっとお守りから解放される」と上機嫌に笑った。

それに愛想笑いを返しながらルイはそっと視線を落とし、自身の両手に目を留める。


手錠を外されるようになったのは、一つ前の病院からだ。

その時点でもうすっかり自力でベッドから起き上がれるようになっており、確かに拘束などルイにとって煩わしいものでしかなかったが。


『いや、だって飯とかトイレの度に一回一回付けたり外したりすんの、面倒だろ?というか俺達が面倒くせー。』

『バレなきゃいんだよ、バレなきゃ。あ、これ、玄兎さんには内緒だかんな?絶対チクったりすんなよ?』


監視の役目を放棄し、上からの命令も軽視するかのような言動。

末端とはいえ、裏の世界の住人にしては「ぬるま湯のように甘っちょろい」それらに思わず呆れてしまった。


(父さんならこんな奴ら、「組織に邪魔だ」って言うところだろうなぁ…)


その父は死に、仲間達も全員警察に捕まった。

その上、ルイを瀕死の重傷に追いやったあの「悪魔」だけが、恐らくこの国では例外的存在だったのだろう。


アレに遭遇した自分達は、よほど運がなかったに違いない。



『君はその「悪魔」に報復したいですか?』



不意に穏やかに問い掛ける男の声を思い出し、ルイはそっと自分の胸に手を添える。


「そういや玄兎さん、退院前に一度ここに顔出すって言ってたっけか?」

「あぁ、確か明日の昼過ぎぐらいに…手錠、忘れないようにしねぇとな。」

「そうだな。おい、前にも言ったけど、玄兎さんには絶対言うんじゃねぇぞ?お前だって心証悪くしたくねぇだろ?」

「………」


退院後のルイの処遇は処刑か、それとも消耗品のように使い潰されるだけか。


今なら監視役二人、殺して逃げられる。

見た目日本人で日本語も得意なルイはすぐにでもこの「黄金郷」に溶け込めるし、裏ルートを使って自国に戻ることも出来るだろう。


(でも、戻ったところで―…)





『生きたいですか?』





「おい?聞いてんのか?」

「…聞いてるよ。大丈夫、あの人には言わないから。」










そして、翌日の正午頃。


「こんにちは、ルイくん。」


予定通り、いつもの穏やかな口調と共に現れたスーツ姿の男はルイの両手にはめられた手錠を見つめ、すっとその目を細めたのだった。




【ユートピアへの羨望】

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嘘つき、ロンリー。