もしかして:喜劇?

場地と弟


※原作軸過去。
※βな場地兄弟の話。










ここ数日、不機嫌である場地はどうやら弟の玄兎と喧嘩したらしい。

らしい、というのは何となく場地の言動から千冬が勝手にそう推測しただけで、だがこれまでの経験上まず間違いないと確信していた。


が、何となくいつもとは少し様子が違うようにも感じている。


喧嘩と言ってもこの兄弟のそれは「じゃれ合い」の延長で、最長でも一日、翌日にはすっかり通常運転に戻るほどあっさりとしたもの。

だというのに、今回やけに尾を引いているのは何故か?


そう周囲に話してみたところで、特に場地との付き合いの長い創設メンバーなどは「どうせいつもの痴話喧嘩だろ」と言って放置を決め込んでしまい、千冬の焦りはますます募るばかりだった。


果たして本当にこのままでいいのか?

東京卍會壱番隊副隊長として、場地圭介の片腕として、自分は何か行動を起こすべきではないのか?


(でも場地さんのことだから、多分オレには相談してくれないだろうしなぁ…下手したら殴られちまう。となると、ここはやっぱり―…)







「…それで?あの馬鹿兄貴、今度は何やらかしたんですか?」


思った以上に事は深刻な状態らしい。

そう千冬が思ったのは、もう一人の「当事者」に話を聞きに来てすぐのことだった。


どちらかと言えば社交的な部類に入る玄兎にしては珍しく、「先輩」である千冬を前にしてもその不機嫌さを隠す様子がない。

下手すれば、兄よりもこちらの機嫌の方が悪そうだ。


ヒリヒリと焼け付くような緊張感が漂う中、突き刺さる鋭い視線を真正面から受け止めながら、千冬は「本当によく似た兄弟だなぁ…」なんて少し場違いなことをしみじみと考えてしまった。


「別に何があったってわけじゃないんスけど…」

「いいんすよ、気を遣わなくても。何もなかったら千冬くんがわざわざこうして一人で俺に会いに来ることないでしょ?」

「いや、ホント!何もないッスから…!」

「………」


千冬の言葉に玄兎が眉を顰めるが、ここで火に油を注ぐ訳にはいかない。

不機嫌な場地がやたらと他のチームに喧嘩を吹っ掛けたり東卍内で八つ当たりを繰り返しているなど、絶対に言う訳にはいかなかった。


「ぎゃ、逆に玄兎くんの方こそ、場地さんと何かあったんじゃないッスか?」

「え?」


誤魔化すように問い返せば、不意を突かれたのか、玄兎からの反応があった。

これはチャンス…!とばかりに「オレで良かったら話聞くッスよ?」と畳みかけるように続けると、玄兎はしばし迷う素振りを見せたものの、「まぁ、千冬くんになら言ってもいいか…」と溜め息を吐いた。


「それがなんか最近、兄貴がやたらと噛んでくるんですよね…それもうなじを。」

「え、」

「昔から噛み癖はあったんすけど、それがあまりにもひどかったんで、流石に俺この間ちょっとキレちゃって…」

「は、はぁ…」


どうやら総長を始めとする隊長格が言っていた通り、結局「いつもの痴話喧嘩」だったらしい。

赤裸々な玄兎の言葉に少し戸惑ったが、千冬にとってはこれぐらいの惚気話は慣れたものだ。


むしろ、大事なのはここからである。

問題を解決するためにも、もう一歩深く踏み込む必要が



(……って、あれ?)



ふと今の会話の流れで、千冬は引っ掛かるものを感じた。

そして、次の玄兎の一言が決定打となる。


「そしたらあの馬鹿兄貴、何て言ったと思います?『噛まねぇと番になれねぇだろうが?』ですよ?」

「…………」

「俺も兄貴もβだっつーの。小学校の授業で習うことなのに、あんなんだから留年とかしちゃうんですよ。」


そうぶつぶつとぼやき続ける玄兎をよそに、千冬が思い出していたのはつい先日のこと。

場地が仲間の一人と交わしていた会話だった。


『なぁ場地、知ってるか?』

『あ?』

『αでもうなじ噛まれたらΩになるらしいぞ。』


相手は千冬の一つ上で、チーム内でも有名な雑学好き、もとい噂好き。

虚実入り混じるそれらを常に同じテンションで淡々と語るために判別が付きにくく、仲間のほとんどが話半分で聞くようにしているのだが、中には一部鵜呑みにしてしまう者も。


『ふーん…?αがなるんならβもなんのかぁ?』

『さぁ?それは知んねぇけど、なるんじゃねぇの?』

『へぇ…』


場地も、その一人だった。


「それで『いっそ幼稚園から出直してこい、しばらく近寄んな』って言ってやったら兄貴の方もキレちゃって…って千冬くん、聞いてます?」

「え、あ、ハイ!」

「…やっぱ何かあったんじゃないですか?すみません、馬鹿兄貴がいつも迷惑掛けちゃって…」

「いや、そんなことは…!」


むしろ今回、迷惑を掛けられたのは玄兎の方だろう。

が、そのことを本人に伝えるべきかどうか千冬が悩んでいる間に、玄兎の中で兄に対する『お触り禁止令』がひっそりと延長されたことなど、この時は未だ知る由もなかった。




そして状況は悪化した。

(…でももし二人が番になって、子どもが出来たら…やべ、ちょっとソレ見てーかも…?)
(…千冬くん、何か変なこと考えてません?)

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嘘つき、ロンリー。