もしかして:喜劇?

佐渡と同級生


※『落書き』。








俺は、佐渡が嫌いだ。

鈴蘭入学初日に喧嘩で負け、奴の下に付いて以来、その気持ちは日に日に増すばかりだ。


特に奴が常に身に着けている、その間抜けな鼻眼鏡が最悪だった。


隙あらば奪うか壊すかしてやりたいが、今のところそれは叶わずにいる。

ならば…と他の奴らに賭けていた時期もあるが、あれから三年、今や鈴蘭トップとなった佐渡を相手に期待するだけ無駄だろう。


ということで、今日もまた気に入らない奴を見つけては、八つ当たりをしていた訳だが―…





「玄兎−、その辺で止めとけよー。」


その声が聞こえてきた瞬間、振り上げた拳がぴたりと止まる。

ついでに胸倉を掴んでいた手からも力が抜け、どさっとその場に崩れ落ちた相手が小さな呻き声を上げた。


思わず舌打ちした。


「おお、さすが佐渡。あの狂犬が一発で止まった。」

「玄兎ってホント、佐渡の言うことだけは聞くのなー。」


感心半分、呆れ半分、笑いが少々。

そんな周りの空気に構わず、「腹減ったし、コンビニ行こうぜー」と相変わらずのマイペースさで誘ってくる佐渡に苛立ちが増す。


そして呼ばれるがまま動き出せば、また誰かが笑った。


俺だって、好き好んで佐渡の野郎に付き従っている訳ではない。

それもこれも全て、SCMのせいだ。


『負けたら何でも言うことを聞く』なんて、ただの口約束だったはずのそれに「強制力」を持たせる装置、通称SCM。


今では携帯ゲームと同じくらいお手軽で、最近少々下火に入ってはいるが、その試作品が出回った当時はかなり話題になった。

用途が用途であったため、トラブルも続出し、噂によると関係者に死人まで出たらしい。まぁ、あくまでそれは都市伝説だが。


それに改良を加え、人数制限や自動リセット機能等の条件を付けることで、ようやく現在の形に落ち着いたという話だ。


形状も様々あり、従来のマウスピース型よりアクセサリー系の方が主流で、俺のイヤーカフもその一つだ。


そして恐らく、佐渡のあの鼻眼鏡も。

だから今、俺はそのせいでこんな目に遭っている。


勿論SCMの使用には両者の合意が必要で、俺のそれに気付いた佐渡から話を持ち掛けられた際、確かに俺は了承した。

負ける気はなかったし、仮に負けたとしてもそれは自分が弱かったせいだ、罰ゲームぐらい甘んじて受ける覚悟もあった。


だが、まさかそれが三年も続くなんて一体誰が思うのか。


最長でも一日というのが暗黙の了解で、そうでなくてもSCMには「主人側」がある一定期間外していれば自動的にリセットされる機能がある。


それが途切れることなく、三年。


四六時中、件の鼻眼鏡を掛け続ける佐渡の根性は、ある意味尊敬に値する。

鈴蘭生の中には佐渡の素顔を見たことない奴もいるはずだ。


まさかSCMにあんな安っぽいパーティーグッズタイプまであるとは知らなかったが、それ以外で佐渡が常に身に着けているような物は見当たらないため、間違いないだろう。

不人気のマウスピース型を使用しているのかと考えたりもしたが、奴の口の中にそれはなかった。


…どうやってそれを確認したかは、思い出したくもないので聞かないで欲しい。


「ピザまん、まだあっかなぁ?」

「……さぁな。」

「玄兎はあんまん派だよな。」

「………あぁ。」


あれから何度「解放してくれ」と佐渡自身に直訴したことか。

だが、いつも今のように笑ってはぐらかされるだけ。


「意外と可愛いところあるよなぁ、お前。」

「………」


俺は佐渡が嫌いだ。

特に奴が常に身に着けている、その間抜けな鼻眼鏡が大っ嫌いだ。




そして今日もまた俺は奴の犬である。

(前に同級生らに向かって「俺達には上も下もない」と偉そうに言い放っていたのは、どこのどいつだ?)

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嘘つき、ロンリー。