【誰かの好意を踏みにじってしまいました。文字通り。】01


「なんか今日の岩ちゃん、変じゃない?」

「うるせぇ!クソ川!」


どつき漫才よろしく、一撃で及川を教室外へと蹴り出した岩泉。

その容赦ない光景を見て「またやってるよ」と笑うクラスメイト達は、すっかり感覚が麻痺してしまっていると俺は思う。


いや俺だって、昨日あんなことがなければ今頃一緒になって笑っていたんだろうが。


(すまん、及川…!)


俺はただ一人、岩泉の暴挙の理由を知っていた。






遡ること、昨日の放課後。

いつものように普通に帰ろうとしていた俺は、下足箱から靴を取り出して足元に放るまで、自分が『何か』を踏んでいることに気付かなかった。


そして、その『何か』には見覚えのある名前が書いてあり、


「うおっ、やっべ…!」


慌てて足を退けるも時すでに遅し。

『岩泉一様』と書かれた封筒にはばっちりと俺の足跡が付いてしまっていた。


(岩泉、って俺のクラスのだよな…?その手紙が何でこんなところに……はっ!これが噂に聞く『ラブレター』というヤツか…!)


何かの拍子に落ちたのだろう。

自分とは無縁のその存在を恐る恐る拾い上げ、汚れが拡がらないように軽く埃を払ってみる。


思ったより簡単に払えたものの、一度付いた跡を見たせいか、綺麗になった自信が持てない。


それからもう一度、もう一度と丁寧に払い続け、半ば自棄になっていた。


とにかく俺は頑張ったのだ。

見知らぬ誰かの、恋路のために。


(………いいか、もう。)


結局、最終的には疲れてしまい、「汚れてない汚れてない…」と自分自身に言い聞かせて宛名通りの下足箱に突っ込んだが、やれるだけのことはやった。はず。


(誰だか知らないけど、上手く行きますように。)


上手く行かなくても、俺のせいになりませんように。







…そんな俺の祈りは通じなかったらしい。

いや、上手く行かなかったのかどうかは分からないが、とりあえず今日の岩泉の様子を見る限り、汚れは残っていたんだろうと思う。


「白兎?帰んねぇの?」

「あ、いや…帰るよ、うん…」

「?今日のお前、なんか変じゃね?いつにも増して。」


何だか聞き覚えのある言葉に思わず体が強張った。

勿論友人のそれは純粋な疑問で他意はなく、流石に岩泉の真似も出来なかった俺には「…いつにも増して、ってどういう意味だよ」と言い返すのが精一杯だった。




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(どうか俺が踏んだことがバレて、岩泉の怒りの矛先がこっちに向きませんように。)
(………本当にすまん、及川。)

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嘘つき、ロンリー。