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16:咲かないで

カラフルなクリームに熟して甘そうな苺が乗ったケーキをじっと見つめる。
私が今居る場所は、最近若者の人気を独り占めしている洋菓子店のイートインスペースだ。スペースと言ってもただ食べられればいい、というような内装ではなく。道に面したテラスで草花の手入れも行き届いているイートインスペース。この力の入れよう。こだわりに妥協が無い。甘味屋で働く私にとってはあっぱれなスイーツ店だ。

「あの、鈴さん」

最近オープンしたばかりだから物珍しくて人気というわけではないらしい、と、隣のテーブルで『可愛い〜!』とケーキの写真を撮っている女性達をチラリと見る。ケーキといえば単色、多くても二色だが、此処のケーキは何味なんだ?と問いたくなるような、赤、青、黄、ピンクにオレンジといった虹色ケーキ。これが今、世の女性達の心を射止めている。

「なるほど、可愛いかぁ」
「あの、鈴さん?」

こういうのがウケるのか、うんうん良い勉強になった。さて、お味はいかがなものか、とフォークを手に取った私を呼ぶ声にハッとなる。

「す!すみません!」
「いえ、楽しそうな顔をされていたのに、僕こそすみません。やはり菓子職人ですね。女性なら喜んでいただけるかなと思ったのですが、鈴さんには別の意味で楽しんでもらえているようで何よりです」

まるで幼い子に微笑むような優しい表情の男性。その男性はテーブルを挟んだ向かい側に座っている。つまり、私と共にこの洋菓子店に来ている人だ。
名は喜助さん。名は体を表すなんていうが、とても喜ばしいという表情ではなく、落ち着きの中に悲しみがあるような雰囲気を醸し出した二十代後半の男性だ。

ついつい偵察気分になっている心を落ち着かせようと小さく深呼吸をする。

「来てみたかったお店だったので……誘っていただけて嬉しいです。それで、目撃情報なのですが、すみません。今のところ一つも」
「………そうですか。僕も鈴さんからいただいた情報を元に聞き込みをしたのですが、手掛かりはありませんでした」

しょんぼりと肩を落としてしまった喜助を見て、私も眉を下げる。
私と喜助さんは今、ある女性を探している。
その女性とは喜助さんの恋人で、二週間前に突如消息を絶ってしまったそうだ。その行方不明者を何故私が一緒になって探しているのかというと、それは偶然からなのだが、道を歩いている時に喜助さんに声を掛けられたことから始まる。

その女性と私の香りが同じだった。ただそれだけだ。

『その香をどこで買われていらっしゃいますか!?』と必死に聞かれた時は何事かと思ったが、理由を知れば必死になる気持ちもわかる。
一緒になる約束を交わしていた人がある日突然、会う約束をしていた場所に来なく、家に行ってみればそこはもぬけの殻。もぬけの殻と言っても家具などはそのままで、ただ恋人だけが居なかった。
最初こそフラれたのだと思った喜助さんだったが、三日、五日、一週間が経っても部屋がそのままなことに不安が膨れてきた。
何か事件に巻き込まれたのではないか、と。
そして探している時に出会ったのがこの私だ。
恋人と同じ匂いがすると、何か手掛かりになるのではないかと。
ただ、私は口にする物を作るので、そうそう香は使わないのだけど、あまりに必死に聞かれるものだから偶に使っている香を購入したお店を教え、そしてその理由も聞いた。それなら人手が多いほうがいいだろうと和遊で探し人のビラを配ることにした。……今のところ良い報告は無い。
そんな出会いで、こうして二日に一度空いた時間に報告会をしている。
喜助さんは私と出会ってからも諦めることなく、恋人――お瀬戸さんを必死に探していて、見ていてとても切なくなる。早く見つかってほしいと心からそう思う。

「今回も警察は……」
「駄目でした。事件性があるとはっきりわからない限り動けないと」
「………そうですか。ですが私達は動けます」
「………鈴さん。ありがとうございます。鈴さんが居てくれて良かった。一人では、とても」

心が押しつぶされそうで……そう言い、私の両手を包んだ喜助さんの手は微かに震えている。お瀬戸さんが行方知れずとなって二週間、最悪な結末も考えてしまうのだろう。前よりも隈が濃くなっているように思う。その震える両手に大丈夫です!とはとても言えない。でも、喜助さんも私も諦めてはいない。

なにより……。

喜助さんの足元で心配そうにうろうろする緑の物体も気になる。
草花の精か何かなのだろう。親指くらいしかない緑の体に頭から三つ葉を生やした小人。その小人はいつも喜助さんの傍に居る。
悪い感じはしないが、もし、お瀬戸さんが消えたことと関係があった場合、力になれるかもしれない。それも喜助さんに関わっている一つの理由だ。

『ありがとうございます』と何度も小さな声でお礼を言う喜助さんに『その言葉はお瀬戸さんが見つかった時に』と励ましていると、視線を感じてテラスから大通りに目を向けてみた。

少し先で青い袴に黒髪、そして眼鏡の青年が口をあんぐりと開けたまま此方を見ていた。

あ、新八さん、と手を振りたいが、今その両手は喜助さんに握られていて、目が合ったのに反応しないのは失礼だろう。どうしよう、と思っていれば、新八さんが此方に背を向け見えないところに走って行き、そしてすぐに戻ってきた。
坂田さんを引っ張って。

そして、此方を指さして坂田さんに何か叫んでいるのだが、坂田さんは頭を掻きながら首を傾げている。一体何の話をしているのだろう。それに神楽ちゃんは一緒じゃないのだろうか。
声なんて聞こえないのでわからないのだが、首を傾げていた坂田さんが新八さんに背中を押され、前のめりになったかと思えばそのまま気怠そうに此方に歩いて来る。
そして、溜息を零しながら『よっこらせ』と私と喜助さんの間にあった椅子に座り、私の両手を握る喜助さんの手に坂田さんも両手を乗せた。

「銀さんもま〜ぜて」
「さ、坂田さん、こんにちは」
「こんにちは〜。なんか知んねぇけど新八が行け行けって煩くてよ。あいつ何がしたいの?もう銀さんわっかんねぇよ。あ、お姉さん〜。ショートケーキ一つね」
「……鈴さん、こちらは」
「あっ、すみません。こちら坂田さんです。坂田さん、こちら喜助さんです」

丸いテーブルで大人三人が手を重ね合う姿は少々異様なのだろう。なんだこの人達というような目で動揺を隠しきれていないウェイトレスの女性が注文を聞き足早に去って行く姿に手を離すタイミングを探しながら、坂田さんの『おいおい、どうしちゃったのそのケーキ。病気みたいな色してっけど』という声に『虹色ケーキと言うんですよ』と返した。

***

「八城山に行ってみようと思っています」
「何か手掛かりが?」
「いえ……以前彼女がそこから見る景色が綺麗だったと言っていたので……出会ってから彼女が言っていたことを一から思い出していたんです。どこが綺麗だったとか、何が見たいとか、もうこのくらいしか思い当たらなくて、手掛かりになるかどうかはわかりませんが」

眉を下げて笑う喜助さんに返す言葉が見つからない。思い出を振り返る。思い出の中の二人は何よりも美しく、幸せだっただろう。だからこそ、今、喜助さんの悲しみをより濃くしているように思う。

「綺麗だって言ってんだから、見に行きゃいいじゃねぇか。んで、本当に綺麗だったって言ってやりゃいいんじゃね?」

はぐはぐとショートケーキを頬張っていた坂田さんの落ち着いた声に私も喜助さんも坂田さんを見る。
そうだ。そこに手掛かりがあるかないかわからないが、彼女が見つかった時『綺麗だった』と言ってあげればいい。
坂田さんが見つかる前提で話していることに頬が上がる。喜助さんもそんな坂田さんの言葉に一瞬止まったが、すぐに『そうですね』と微笑んだ。

「八城山といえば、ここから電車で一時間程でしょうか?もし喜助さんさえ良ければですが、山にお一人で入るのは危険ですし、私でよければお供しますので」

本当なら一人で行かせてあげたほうがいいのだろうけど、やはり山に一人で入るのはおススメできない。途中まで共に行くだけでもしたほうがいい気がする。
そう申し出た私の言葉に喜助さんが『ありがとうございます』と安心したように微笑む。一人より二人のほうが心強さも違うだろう。大切な人が傍に居ない今、喜助さんを少しでも支えられればいい。お節介だと思われるかもしれないが、それは私に出会ってしまったことに文句を言ってもらおう。

では、山に行く日時を決めなくては……と口を開いたのだが、私の言葉は口許をやんわりと覆う手に遮られて出なかった。

「鈴ちゃん、こういうのはコッチに回してもらわねェと、餅は餅屋、人探しは万事屋ってな」

その手の持ち主がニッと笑った。

「喜助さんだっけ?それ依頼してみねェか?今なら鈴ちゃんのお友達割引で安くしとくぜ?」



***


「今日も、これと言って情報はなし……か」

仕事の疲れをお風呂で癒し、濡れた髪を拭きながらテーブルを見る。
テーブルには今までの情報を書き込んだ紙があり、そこに新たに書き込まれる文字は無い。
喜助さんが万事屋さんに依頼という形で人探しを頼んでから五日が経ったが、未だ手掛かりは見つかっていないらしい。
先日、神楽ちゃんと新八さんが八城山に行く喜助さんのお供をしてくれたそうだ。山神様に捧げるお饅頭を取りに来てくれた神楽ちゃんが教えてくれたのだが、八城山から見る景色は綺麗だったと、『次は鈴も連れて行くネ!』とそれは可愛らしいことを言ってくれたのを思い出す。
そして、人伝に情報を集めてくれているらしい坂田さんはというと、お瀬戸さんの情報がなく手詰まり状態らしい。神楽ちゃんが『おかしな話アル。あの天パ、手ェ抜いてるネ』とぷんぷんしていた。

万事屋という看板を掲げているだけあって、坂田さんの情報網は馬鹿にならないとお店の常連さんが言っていたが、その坂田さんでさえ手を焼いている。
坂田さんは神楽ちゃん達には言っていないようだけれども、人が生きた痕跡というのは必ずしも残るもので。それが丸っと消えたように一切の情報が無いのは、確かにおかしい話だ。

「縁切り様に相談してみるべきかな……」

いよいよ、此方側という線が濃くなってきたように思う。あの小さな三つ葉の子も気になるし……と机に肘をつき目を閉じる。
今回の件で相談するなら縁切り様だろう。五穀の神様より神使様の数が多い。その分情報も耳にしているはず。ああ、でも五穀の神様は自然の声を聞く耳を持っているし……。どちらの神様にも相談したいところだけれども、それは避けたい。
有難いことに、私の力になりたいと張り切ってくれる二柱はよく争ってしまう。どちらの神様も十分すぎるほど私の助けとなってくれるのだが、どちらのほうが私の為になったのか勝敗を決めたいソレがある。今回、人間側の問題かそうでないかも曖昧であるのに、この件で二柱が動くと大事になってしまうだろう。

うーん、うーん、と悩んでいるうちに、私は頬杖をついたまま少しうとうとしてしまっていたらしい。

ふ、と瞼を薄らと開けたと同時に、ぱたり、と何かが紙の上に落ちた。
ぽたり、ぽたり、と落ちるものは涙で、それは私の目から落ちている。

「そんな……」

何がそれ程に悲しいのか、自分でもわからないというのに体は悲しんでいるのか涙が止まることなく落ちてきて、慌てて手で拭う。
あの山神様の件があってからというもの、神様が消えるということにならないよう、より注意するようにしてきた。今のところ、そのような神様はいないと神使様に使いを出して調べてくれた縁切り様達からもそう報告があった。
なら、この涙はなんだろう、と拭っても拭っても零れる涙に困惑しながら立ち上がり、寝巻きから着物に慌てて着替える。
行かなきゃいけない、何故かそう思うのは二回目で、それが私をより悲しくさせた。


***


乾かさずに出てきた髪が、頬を流れる涙が夜風に触れて冷たくなるのを感じながら、夜の街を走る。
深夜を指しているこの時間、歓楽街は避けてなるべく住宅街を走って来た。どこに行けばいいのかはわからないはずなのに、足は迷うことなく、行くべき場所へと動いている。まるで自分の身体ではないような感覚が気持ち悪い、と感じるのも二回目だ。


「湖」

私が辿り着いたのは、かぶき町から少し外れた山だった。
きっとちゃんとした名前はあるのだろうが、なんという山なのかはわからない。大きくも小さくもない、その山を登った体が大きく息を繰り返す。
はぁ、はぁ、と運動不足の体は既に息が上がって、吐き出された息が白い。
走ったことで心臓が活発に動いているのを耳の奥で感じながら、足が止まったことで周りを見渡せば、そこには湖が広がっていた。

「どこかに居るはずなのに……」

此処に来なければいけなかった理由が此処にあるはずなのに、神様らしいものを感じない。
山神様の時は、微かだったが強い神気を感じられていた。

山の上にあった湖の周りを集中して視線を巡らせていると、私から反対側の湖の端に、森に似つかわしくない物が置かれているのが見えた。深夜とあって、月明りでしか物を見ることができないこんな薄暗闇でも、その特徴的な黄色は嫌に目立っている。
それはかぶき町ではよく見かけるもので――でも、この自然には必要のない物。

「……ショベルカー」

黄色と黒のそれは、作業途中で置かれているようだ。そして、色の違う土が、湖の一部を染めていた。

この湖を埋め立てようとしているように見えるそれから視線を逸らせなかった。
きっとこれが原因だ。
でも、肝心の神様が見当たらない。弱っているとしても、相手は神様だ。それなりに強い神気を持っている。それさえも感じ取ることができないほど、もう消えかけているのかもしれない。

「……へ、返事をしてください。私はこの地の代理をしている者です。居るなら返事を」

ぼろぼろと流れる涙で辺りがぼやけて、声なんて震えてしまっていて、とても頼りになる地主神には見えないかもしれない。
もう……消えてしまったのかもしれない。そんな最悪なことを思う私の耳に、微かに『地主神様』という小さな声が聞こえた。
ふわりとこの季節に咲くはずがない金木犀の香りがして、自然とそちらを見れば、立派な木の根元に横たわる小さな体が見えた。慌てて駆けよれば、私を呼んだのは小学生くらいの女の子で、その体はもう半透明になっている。

なにより、神気が弱い。いや、神気というにはまだ早い。
神様になりかけていた存在だったのだろう。

「来るのが遅くなってしまい申し訳ありません。今からこの湖を守れるよう最善を尽くします。だから」

その続きを言うことが出来ず、言葉が詰まる。安心してほしいなんて、そんなことは言えないところまで来ているように見える。
そんな私の心境を見抜いたのか、横たわる少女がくすりと微笑む。体は少女でも、その微笑みは落ち着いていて、私よりうんと年上なことがわかる。

「地主神様、お会いできて光栄でございます。ようこそお越しくださりました。わたくしはこの湖の亡霊のような者でございますれば。そのような改まったお言葉、わたくしには勿体のうございます」

横たわらせていた体を起こし、私に頭を下げるその姿に『起きてはお体に障ります』とその体を支える。重みを感じない少女が、支えた私を見上げた。

「お優しいとお聞きしておりましたが、ほんに、お優しいお方で……まさか、わたくしめの為にお山を登り、涙まで……これほど嬉しいことはございませぬ」

そう言って、にこりと微笑んでくれた少女が、私の頬を撫で、涙を拭ってくれたその小さな手に重ねるようにして自分を手で触れる。

「すぐ、すぐにこの湖を守る策を考えます」
「地主神様、どうかこの湖はこのままで……このまま消えてなくなるほうがよいのでございます」
「ですが……神様が」
「神様でございますか……草木もわたくしめをそう呼び始めておりましたが、慣れぬものですね」

そう言って笑う少女が、湖を眺める。今は土で濁ってしまっているが、きっとこの湖は少女の瞳のように、澄んだ青だったのだろう。
その澄んだ青を懐かしむように目を細めた少女が、ぽつりぽつり、と、この湖のことを話してくれた。

この湖は今でこそ、ただの湖だが、昔はよく大雨で氾濫しては山の下にある村を飲み込んでいた湖なのだそうだ。ここ百数十年、そのような災害はなかったが、またいつそのような惨事が起こってもおかしくない状態らしい。そのことに気付いた江戸の役人が、この湖を埋め立てることに決めたそうだ。そして、山の麓にある村を飲み込むくらいなら、埋めて無くなったほうがいいのだと、少女、湖の神様も言う。だから、このまま何もするなと言う。

「人柱としてこの湖に沈んで幾つ時が巡ったのかわかりませぬが、ようやくお役御免でございます」

湖に命を捧げて、村を守ってもらう。人柱という役目があった昔に目を瞑る。今でこそ神様であるが、元は人である少女の亡骸は湖の底で眠っているのだろう。昔の行いを非難するわけではないが、それでも、こんな小さな女の子が神となるほど、この湖の底にいるのかと思うと涙が止まらなくて。泣くことしかできない私がその小さな体を抱きしめれば、少女が『温かいですね』なんて笑う。
神様が消えてしまうのは悲しい。でも、湖が消えることで、神様ではなく、この少女がゆっくり眠りにつけるのなら、私が選ぶ道はもう決まっている。

「わかりました。この湖が無事になくなるまで見守ります」
「地主神様……感謝いたします」

湖が消えることが寂しくもあり、嬉しくもあると言った少女の気持ちに答えて、この湖が消えるまで見守ることにした。地主神様がこの神様をどうしたかったのかはわからないが、一人で行かせてしまうようなことをしたくなかったのだろう。今はそう思う。

「わたくしも持ってあと一日やそこらでございましょう。埋め立ても着実に進んでおりますれば……湖に生きるもの達も人の手によって保護されました。後は作業をする者達が怪我無く無事に終わることが、今のわたくしめの願いでございます」
「……作業はお昼間でしょうから、深夜なら人目も無いですね。また明日、此方に参ります。お供え物をお持ちしますね。他に何か欲しいものはございませんか?あ、もしよければ、この時代の町をご覧になりますか。お連れ致します」

湖の神様が消えるその時まで、なるべく共に居よう。それにしたいということをなるべく叶えて、旅立ちにそなえよう。そう思って、アレやコレやを提案する私を見て、神様がおかしそうに笑う。

「実はもう、町は拝見いたしました。消える前にせめて一度、と町に行く力を使った為、残り少ない力も使ってしまって、この通りでございます。へんてこな物が溢れている世の中ではございましたが、みな思い思いに笑う、よい世でございますね」

よほどこの時代の町が面白かったらしい神様が楽しそうに見たもの、行った場所の話をしてくれる。

「あ、そうでございます。地主神様」
「はい?なんですか?」
「実は共に町に下りたこの森の精の一つが帰って来ぬのです。わたくしが消えた後、よろしければ見つけて此処に連れて来ていただけませんか」
「迷子ですね。わかりました。町の神様達にもお伝えしておきます。特徴をお聞きしても?」
「愛らしい精でございまして、頭に三つ葉が生えているのでございます」

そう言って、指でサイズを表してくれている神様を見て『三つ葉……』と声を零す。その特徴で思い浮かぶのは喜助さんの足元にいた小人で……、もしかするとあの小人かもしれない。

「三つ葉、ですね。すぐに見つかると思います」
「そうでございますか……その言葉をお聞き出来て安心いたしました」

どこか、もやもやとする心を落ち着かせようと湖を眺めていれば、神様が『美しい湖でございましょう』と話し掛けてくれる。

「この瀬戸湖を描きたいと参った絵師もいたほどでございます」
「瀬戸湖……お瀬戸さん」

ぽつり、と私の口から出た名を聞いて、その澄んだ青に私が映った。

「ご存知でございましたか……地主神様のお耳にも入るほど、わたくしの名は神の輪に入っているのでございますね」
「三つ葉とお聞きしてから、こう、何かが引っかかっていたのですが……今ようやくわかりました」
「地主神様?」

不思議そうに私を見る神様……いや、お瀬戸さんを見て微笑む。

いくら探しても見つからないはずだ。
ただ、見つかったことが嬉しいはずなのに、心のどこかで違っていてほしいと思ってしまった。

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第16話終わり