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7:ならば私は


「ほう、そなた眷属を得たのか?」
「眷……いえ、いえいえ、得ていません」
「だが、その貧乏神はそなたの神気を辿りその者のところへ着いたのであろう?少々の気ではそうはならん。眷属くらいになれば、そのようなこともなくはないが」

つまり、その坂田とやらは眷属並みの神気をその身に受けたとなるだろう。もちろん、その神気はそなたのものだ。
ポチポチと買ったのだろう扇風機のボタンを押しながらそう言う、縁切り様を呆然と見る。『どうじゃ、そなたの為に用意してみたぞ』と嬉しそうに言う縁切り様に『あ、はい……とても、涼しいです』と返しながら昨日のことを思い出す。

あの後、ご老人が見えるらしい坂田さんは『あ、もしかしておたくも見える感じ?』と言ってきたので『……はい』と返事をした。だが、どうやら声までは聞こえないらしい。というより、所々は聞こえるそうで、『微妙に聞こえんだけど、微妙に聞こえないんだよねぇ』とあははは!と笑っていた。ご老人は『え?聞こえておらんのですかな!?え!?』と驚いていたが、私は正直ほっとしてしまった。
【地主様】、私がそう呼ばれていたことを坂田さんが聞いてこなかったことに……。きっとその部分は聞こえていないのだろう。

下手に聞いて此方のことを知られれば坂田さんに迷惑を掛ける可能性もなくはない。それに、なんて説明したらいいのかもわからない。こういうことになるとは思ってもみなかったが、いざこうなると怖いものなのだと感じた。
この一年、危険なことが無かったわけではない。今回だって地主神様の神気を感じたと言って貧乏神様が万事屋に来てしまったくらいだ。私が地主神の代理と知ったことで彼らをもっと危険な位置に置いてしまうかもしれない。
そう、一瞬だけ感じた恐怖というものは尾を引くらしく、私はそれ以上のことは聞かなかったし、坂田さんも聞いては来なかった。

「まぁ、互いに変なもん見えちまうけど、何か困ったことがあったら言ってこい。見えるもん同士ってことでマケてやっからよ」

その言葉に『はい』と言う。その時の私の唇は少し震えていたように思う。
坂田さんを此方側に引き込んでしまうかもしれない恐怖もあったが、その言葉が嬉しかった、ただ単に。
地主代理が嫌なわけではないし、大変な時もあるが放り出したいと思ったことはないけど……でもどこかで気を張っていたのだろうと思う。人間が神の代理をするのだ。よくよく考えれば気も張るはずだ。今までそのことに気付く余裕もなかったんだな、と少し笑えた。
その突っ張るくらいに重かったのだろう気を、坂田さんが下から支えて緩めてくれたようなものだ。

「して、その貧乏神はどうしたのだ?」
「今、万事屋に居ます。なんでも居心地が良いそうで、事が解決するまでそこでお世話になると」
「なんと、貧乏神にそこまで言わせるとは……その坂田とやら余程の怠け者であるのだろうな」
「どうでしょう……ただ、優しい良いお父さんだと思います。貧乏神様の影響を少しでも抑えられるかと思って髪の毛を結んできたのですが……」
「良い判断だ。どこに結んだのだ?」
「お……お手洗いに、流石に坂田さんの目の前でするのはおかしいので、お手洗いをお借りして……解決した後取りにも行こうかと」
「まぁ、無いよりは良いであろうな」

髪には神気が溜まりやすいと五穀の神様が言ってことを思い出し、トイレの見えない部分に私の髪の毛を結んできたのだが、どうやら良かったらしいことにほっとする。

「そなたに知識を与えたのは五穀の神か?私が先に教えようとしておったのに、あ奴め。それでそなたに気に入られようとしておるぞ、気を付けよ」

縁切り様がふんっと少しだけ眉を寄せる。口に出しては言えないが、その表情が少し子どもっぽくて笑ってしまう。

私には頼りになる神様が二柱居る。一柱はこの縁切り様だ。たまたま地主神様に用があり、呼んだところ代理の私が来て、それ以来気にかけてくれている。そして、二柱目は五穀の神様。名前の通り五穀をつかさどる神様で、猫が集まる神社のお爺さんである。腰痛に悩まされており地主神様に出雲の薬を取り寄せてもらっている。その薬がなかなか届かず様子を見に来たところ、私が居たというやつだ。
どちらの神様も地主神様と仲が良いらしく、地主神様の力を得た赤子のような私を心配し知識を与えてくれる神様達。
この神様達がいなければ、私は今頃自分の身に起きている全てに怖がって気がおかしくなっていただろうと思う。

神様が生まれることは稀で、新たな神様が誕生したとしてもその神様は既に知識を持っているらしい。そんな中、私のような者が現れたものだから、この神様達は育てるというこが楽しいそうだ。そのせいか縁切り様は五穀の神様……お爺さんに対抗心を燃やしている。どちらが私を立派な神様に育てられるか、なんだとか。
いや、私は神様にはなれないんですけどね。この力は地主神様のものですし。
でも、我が子のように気にかけてくれる二柱に感謝しない日は無い。

私が持って来た西瓜をかぷりと食べた縁切り様が神使に手で合図をする。すると神使のお一人が私の傍にあるものを置いて下がって行く。

「これは?」
「守りだ」

置かれた袱紗を解けば、中にお守りが一つ。

「その坂田とやらに持たせておけ。そなたの考えることはこの一年で熟知しておる。巻き込まぬよう縁を切るつもりであろう。違うか?」
「………」
「だがな、それは止めておけ。直接見てはおらぬのでな、断言はできぬが……その坂田とやらは地主の眷属に近いものになっておる。貧乏神が神使かと言うほどだ」
「でも、いつ」

坂田さんが地主神様の眷属、つまり配下、従者のようなものになっているという。
眷属という言葉は教えてもらってはいるが、代理である私にはそれほど重要ではないと縁切り様も言っていたそれ……。眷属にする方法などは教えてもらっていないというのに、どうしてそうなってしまったのか。
でも、もし本当に坂田さんが眷属になっているのだとしたら……私が原因だろう。

「これ、そう悲しい顔をするでない。大丈夫だ。少し地主神の力を持ってしまっただけぞ。そなたに比べればほんの少しだ。ちょっと神の類が見えてしまうだろうが、その坂田とやらも元々見る力が強かったかもしれぬ、今更かもしれんだろう?」

私が肩を落としたことに気付いたのだろう。あわあわとしながら慰めようとしてくれている縁切り様を見る。縁切り様が控えている神使様達にも『そなた達もそう思うであろう!?』と聞けば、神使様達がうんうんと力強く頷いている。

「だが、そうなった原因を知っておくのはよいだろう。これでそなたが他の者と関わるのが恐ろしいと周りとの縁まで薄れてしまうのは悲しい。知っておけば怖くはないであろう。人の子にしか出来ぬ縁というものもある。大事にしてくれ」
「はい。あの、神様」
「なんじゃ?」
「ありがとうございます」

お礼を言った私を見て、縁切り様はやんわりと微笑んでくれた。

「うむ。まぁ、原因は私にもわからぬのだがな」


***


縁切り様と眷属にしてしまった原因について話し合った後、私は万事屋に向かって歩いていた。
万事屋に居る貧乏神様に会う為だ。
訪問することは昨日決まっていたことで、坂田さんには『こういった時に頼りになる知り合いが居るので、貧乏神様のことを一度相談してきます』とだけ話してある。

こういった類を見るのは坂田さんだけのようなので、神楽ちゃんと新八さんが居なくなる時間帯を教えてもらい。先ほど坂田さんに電話で確認してみたところ行っても大丈夫とのことだった。

縁切り様からいただいたお守りを入れている手提げかばんを持ち直す。
はっきりとした原因はわからなかったが、縁切り様が言うには坂田さん自身にその素質があったのだろうということだ。

「あ、居た」

本来、眷属にするにはその者に直接触れて神気を流し込むそうだ。他の神域に持って行かれないように、他の神気を取り込まないように。
それを聞いて、貧乏神様と会った際、私は坂田さんに抱えられたまま結界を張ったらしいという話を縁切り様にしたのだが、『何!結界を張ったのか!?凄いではないか!まだ教えてもおらんのに!』と感動していた。でもそれはただの結界であって原因ではないらしい。

「あれ?無視?え?俺、何かした?」

例えば、その場に私以外の神様が居て、その神様の神気をその者が取り込まないようにした。とか、そんな感じなら、その気持ちが反応してそうなってしまったなどは考えられるそうだ。
五穀の神様の社で猫が神域に持って行かれないように抱えたことはあるが、坂田さんとそんな状況になった覚えはなく。
そこまで話し合った結果、元々坂田さんに素質があり、地主様の神気と相性が良いのか自ら取り込んでしまったのだろうということになった。

「あのぉ〜、もしもーし」

縁切り様は『普通の人の子が神気なんぞ取り入れれば狂うというのに……そなたが居なかったら、その坂田とやらが江戸の代理地主になっていたかもしれぬな』と笑っていた。
狂うってそんなこと私は教えてもらっていないんですけど、と私は笑えなかったが、眷属から外すには地主神様が戻って来ない限り難しいとのこと。

「俺の声聞こえてますか〜」

だから坂田さんとの縁を切るより、それまで出来るだけそばで守るほうがいいと言われた。
『代理を人の子にしたうえ、神使も持たぬあの地主神の初の眷属が人の子とはな。つくづく人が好きな神だな、あ奴も』
そう言っていた縁切り様の言葉を頭の中で繰り返す。
『神として己の眷属を守るのは義務だ。しっかり守るのだぞ』

坂田さんを守ると言っても、おかしな行動はできない。とりあえずお守りを渡そう。
坂田さんの中にあるだろう地主神様の神気を少しでも誤魔化せるようにと縁切り様が用意してくれたお守り。さぁ、これをどんな理由で渡そうか。
あと、五穀の神様の社で出会った猫も探さないといけない。
もしかしたら、あの猫も知らず知らずのうちに眷属にしてしまった可能性がある。

「山田さーん、山田鈴さーん…………鈴ちゃーん、鈴」
「え?」
「やっと気づいた」

ふ、と名前を呼ばれたような気がして周りを見渡せば、すぐ隣に坂田さんが立っていた。

「坂田さん」
「はーい」

つい名前を呼べば、まるで教室で先生に呼ばれたような返事をする坂田さんに少し笑うと、坂田さんが『お迎えにあがったんだけど、鈴ちゃん気付いてくんねぇんだもん』と言う。

「すみません。少し考えごとを」
「ん、そうだろうなとは思った。危ねぇからそれは家に着いてからな………いや、うちに来たら考え事が増えんだけどね」

増えるとはきっと貧乏神様のことを言っているのだろう。
昨日は聞けるような状況ではなかったが、貧乏神様は地主神様の力を頼りに来たのだろうと思う。

「おーい、考え事すんなって、転びますよ〜」
「す、すみませんつい」
「階段あんだけどさ、なんか鈴ちゃん落っこちそうだから俺後ろで待機するわ。先上がって」

万事屋の前に着き、先に階段を上がろうとしていた坂田さんが振り返り、私の後ろへと回る。私、そこまでぼんやりしていただろうかと思いながら『では、先に失礼します』と一歩階段を上がり少し振り返れば、坂田さんが両手を差し出していた。………私が落ちた時用の手だろうか。
なんというか、本当に心配症なのだろう。それにしても、私のことをいつの間にか名前で呼んでいるが、それがいやに馴染んでいる。名前で呼ばれることってなかなか無いから、最初は少し違和感があるものだけど……、と優しくも面白い人だと小さく笑い階段を上がれば、後ろで『今笑った?銀さん本当に心配してんだからな!』という声が聞こえてきた。
何となく、私が代理にならなかったら坂田さんが代理になっていただろう、というのはわかる気がする。
どことなく、地主神様に似ているのだ、この人は。
いつの間にか人の心の中に入っている感じが。


坂田さんがカラカラと玄関の戸を開ければ、頭を下げてまるで旅館のお出迎えのようなことをしている貧乏神様が現れて身を一歩引いてしまった。

「おい、爺何やってんだ」
「ようこそおいでなさいました。地主様、ささ、お上がりくださいじゃ」

さぁ、さぁ、と部屋に案内してくれようとしている貧乏神様について行きたいが、ここの家主は坂田さんだ、と視線を向ければ『まぁ、上がってくれや』と坂田さんがブーツを脱ぐ。

通されたのは、はじめて依頼に来た日に通された居間で、坂田さんは定位置なのだろうソファーにどかりと座る。そして私にも座るように勧めてくれたので向かい側のソファーに座れば、坂田さんが腰を上げて私の隣に『よっこらせ』と座り直した。

「地主様、お茶ですじゃ」
「どうも、ありがとうございます」
「何自分家みたいに茶ァ出してんだ、爺。俺のは?」
「ほんに来ていただきありがとうございます地主様。どうか儂の悩みを聞いてもらえんじゃろうか」
「俺の茶がねぇんだけど」

私にお茶を出してくれた貧乏神様が向かい側のソファーに正座した。私の隣に座っている坂田さんが『ねぇ、俺のは?』と言っていて、なんだか申し訳なく思い、出されたお茶を坂田さんの前にそっと動かす。

「地主様はもうご存知か思うんですが、儂は怠け者に憑く神でございますじゃ」
「いや、いいって、これは鈴ちゃんのだろ」
「いえ、家主である坂田さんが飲むべきかと」
「ここ数年、それはもう、大層怠けた男に憑いておりましてな。この男ほど住みよい家はねぇと思うほどの男でしたじゃ。ですが最近出来ちゃった結婚?というのですかな。まぁ、嫁御ができましてな」

話し始めた貧乏神様の言葉を聞き逃さないように耳を立てている私に気付いたのか、坂田さんが『じゃあ、半分こな』と溜息交じりにお茶を飲んだ。
坂田さんには貧乏神様の声は聞こえていないからまだいいが、私が返す言葉は聞こえるわけで……返事をする言葉に気を付けながら話すのは少し大変そうだ。

場所を変えようかとも思ったが、折角話す場を設けてくれた坂田さんにも悪い。
どうしようかな……と悩んでいても貧乏神様の話は進むわけで、その話を聞きながら頷く。

「毎日寝るか食うか酒を飲むかしかなかったあの男が、嫁御ができ赤子ができた途端……それは良い男になりましてな。こりゃ、住み心地が悪いとなったわけですじゃ。ですが、いざ去ろうにも儂の渋団扇が無いことに気付きまして、アレは儂の一部。あれも一緒に持って行かんかぎり去っても意味がないのですじゃ」
「……その渋団扇を探してほしいということでしょうか?」
「それもあるんですが……もし、もし……見つからん場合、地主様に儂を消していただきとぉて」
「………消す、とは」
「言葉の通り、儂を消してほしいのですじゃ……あの男はよい男になりました。もうすぐ赤子も生まれようとしております。まだあの家には儂が居るゆえ、運が逃げておりましてな、それでも男と嫁御のあの幸せそうな顔を見ると……早く家を出て行きてやりとぉて」

渋団扇が見つからない、その時はどうか。と、頭を下げる貧乏神様に言葉が詰まる。『何度探せど見つからんのです。赤子が生まれる前に去りとぉございます、どうか』と何度も何度も……。
神様を消すなんてことを聞いたことはないし、できれば聞きたくない。だから、この貧乏神様は地主神様を頼ったのだろう。
はじめから、自分もろとも渋団扇を消す為に此処に来たのだ。

口の中が乾く。
座っているという感覚さえわからないほど、自分が動揺しているのがわかる。
人に忘れられ、消えかける神様もいれば……人を思い消えようとする神様がいる。
目の奥がじわりと熱を持つ感覚。あの山神様の時と同じ感覚だ。地主神様が悲しんでいるような、苦しくなるそれに思わず胸を掌で押さえる。
どうしたらいいのだろう。私が判断していいものだとは到底思えない。神様の世界ではどうか知らないが、私にとっては人を殺すのと同じだ。
ぐるぐると考え込んでいた私の視界いっぱいに湯飲みが入る。

「鈴ちゃんも茶ァ飲む?俺の飲みかけだけど」
「え、あ、はい」
「ん」
「あ、りがとうございます」

呆然としながら差し出されている湯飲みを受け取れば、陶器越しに生ぬるいお茶が掌をじわりと温める。私の手が冷たくなっていたことを感じた。

「話は済んだの?爺、ずっと頭下げたままだけど」
「え、あっ、貧乏神様、頭をお上げください。その……まずは渋団扇を探しましょう」
「はい、茶ァ飲む」
「え、え、はい」
「んで、深呼吸な」
「は、はい?」
「んで、もう一回茶ァ飲め。一気な」
「はい」

坂田さんから次々と出る言葉に従って、お茶を飲み干した時には私の気持ちは落ち着いていた。

***

「では、私は貧乏神様のことを知り合いに再度相談してまいります。今日は場を御貸しいただきありがとうございました」
「いや、元はと言えば俺が爺に憑かれてんだから、むしろこっちの台詞なんだけど。なんかワリィな、任せちまって」

あれから貧乏神様の憑いているという家の場所など少し情報を貰い、私は帰る為玄関まで出てきた。
お見送りまでしてくれる坂田さんにお礼を言えば、坂田さんの後ろでまた頭を下げている貧乏神様が見え、少しだけ悲しくなる。

「見える者同士、なんですよね?それです」
「……あーー、その、なんだ……なんか手伝えることある?」
「え?……では、坂田さんにお願いが」
「おう、なんだ?」
「少しの間になると思いますが貧乏神様をよろしくお願いいたします」

私がそう言い目を合わせれば、少し間が開き『しばらくはパチンコ行けねぇわ』と溜息を吐き出した坂田さんに口元が緩む。

「貧乏神様」
「はい!なんですじゃ!」
「次来る時は、手土産に渋団扇なんていかがでしょう?待っていてくれますか?」

目の前に立つ坂田さんから少し体をずらして後ろの貧乏神様を見れば、ハッと私を見上げて言葉なく何度も頷いて、そしてまた深々と頭を下げてしまった。

さっきは神様を消すという言葉に動揺し判断力が欠けていたが、落ち着いて考えれば、その渋団扇さえ見つかればこの貧乏神様が消えることはないということだ。
渋団扇を見つけられるかはわからないため約束はできないが、でも諦めるのはまだ早いのではないかと遠回しに伝えたのだけど、伝わっただろうか。

「あ、そうでした。あの、坂田さんにお渡ししたいものが」
「あ?」
「見え過ぎるのは何かと大変でしょうとのことで知り合いからお守りをいただきまして、身を守ってくれるものだと思うますので、良ければ」
「………ありがたく受け取っとくわ」

縁切り様からいただいたお守りを掌に乗せて差し出せば、坂田さんの少し大きな手が合わせるよう私の掌に乗ったその時、玄関の戸が開いた。丁度帰って来たのだろう新八さんが私と坂田さんを見て顎が外れるのではないかと思うくらい驚いた顔をしている。

「え、ええ!!ちょ、ええ!?手繋っ」
「新八さん、こんにちは」
「こ、こんにちは」
「なんだよ、オメェもう帰ってきたの?」
「ちょ、銀さん。ちょっ、ええ!?僕を外に放り出したのって……この為……ええ!?まだ出会って数日ですよ!?え、エエ!?」
「新八さん?」
「どうしたー新八、何騒いでんだオメェは。いいですねェ、楽しいことが沢山あって」

あの丁寧で好青年の新八さんがえらく動揺していることに心配になっていたのだが、坂田さんが『暗くなる前に帰れよ、気を付けてな』とお守りを受け取り送り出してくれたので、気になりつつも『では、これで』と一礼して階段を下りて行く。

「銀さん、今の山田さ、山田さ……」
「鈴ちゃん以外誰に見えんだよ。なんの為に眼鏡かけてんだ。ファッションか?」
「鈴ちゃんンン!?一線を越えた距離感でしたよ!?腐ってる!腐ってるよアンタ!!」
「おお、俺と鈴ちゃんは一線どころかゼロ距離だかんね。それより飯」

と、なんだかとても賑やかな声が聞こえる。
新八さんが言う、一線を越えるとはきっと友人になるのが早いとかそんな感じのニュアンスで使っているのだろうな。
見える者同士だからこそ話し合えるという点ではゼロ距離なのだろうか?と坂田さんの言い得て妙な返しに笑いながら階段を下りた。

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第七話終わり