「新八、飯」
「あーもう、わかりました。作ります」
帰ってきたばかりの新八が居間に入って行く、その足音が台所辺りで止まったのを確認して、まだ玄関で頭を下げ続けている爺を見下ろす。
「おい、もう行ったぞ」
鈴が帰ったというのになかなか頭を上げない爺に声を掛ければ、ゆっくりと頭を上げた。
「あんさん」
「なんだよ」
「やっぱり、儂の声、聞こえとるやないですか」
「………聞こえてるって知りゃ、鈴ちゃんが動きづれぇだろ。それよりもテメェ、なんつーこと頼んでんだよ。自殺志願者って知ってりゃ会わせなかったつーの」
日が暮れ始めたのか、鈴が出て行った玄関に入る日の光が半分紅葉色になるのを、眺める。あと少しすりゃあ腹を空かせた神楽が帰ってくるだろう。
「地主様は大丈夫じゃろか」
まだ正座したままの爺がぼんやりとつぶやく。
「テメェが弱気でどうするよ。アッチは良い目してたぜ。……町娘ができる目じゃねぇよ」
爺の話を聞いた瞬間はえらく不安定に見えたが、帰り際、俺に爺を頼むと言ったその目は凛としていて、どこまでも綺麗で力強い流水のような目をしていた。ちょっとやそっとの人生では到底できないような、それこそ国一つ背負う覚悟を決めているような……いい目をしていた。
あんな目を見せられちゃ、もう俺に出来るのは見守ることだけだろう。今まで、助けてほしいと叫びたそうにしながらも強がる奴の目は何度も見てきたが……。
「出る幕はねぇって思わせるたァ、すげぇよな。鈴ちゃんが代理なの、わかる気がするわ」
「江戸は安泰でございますな。よい地主様をお持ちでございますじゃ」
「違いねぇ」
すぐ近くの便所をちらりと見る。
昨日、鈴が帰った後、爺が言っていたソレ。便器裏にある配管に一本の髪が結んであった。なんでも、これで爺の力が少し抑えられているらしい。
極めつけは先ほど渡されたお守りだ。
ズボンのポケットに突っ込んではみたが、身を守るものだっつうなら俺より鈴が持つべきだ。既に持っているかもしれないが、そんなのいくらでも持たせりゃいい。
「銀さん、せめてお皿とお箸くらい準備してくださいよ!」
「へーい」
台所から玄関まで響く新八の声に返事をして、頭を掻く。爺は頭こそ上げたが、まだ玄関の戸に向かって正座したままだ。
「おい、爺。次の移住先でも考えとけよ」
***
「ちょっと神楽ちゃん、邪魔しないでよ」
鈴が貧乏神の話を聞いてから三日が経った。
今のところ入っている依頼が山に饅頭を持って行くこと以外無い俺達は、家で思い思いのことをして過ごしている。
俺はジャンプを読むので忙しく、新八は家事に精を出し、今掃除機をかけている。その掃除機が床の上を動く度に、まるで猫のように手で押さえて行く手を阻んで邪魔をしている神楽。そんな神楽はソファーに横になるのではなく床の上に寝転んでいる。
普段なら新八に怒られれば言い返すのだが、どうやら元気がないように見える。
「も〜神楽ちゃん。掃除機かけられないよ。家がゴミ屋敷になってもいいの?」
「元々ゴミみたいなものアル」
「おーい神楽、そこにお前も入ってんだからなぁ」
神楽に元気がないのは一目瞭然で、新八が困ったなぁと言いたげに息を吐くのをジャンプ越しに見る。
この三日、鈴がいない。
いつものように神楽は毎朝あの甘味屋に行くのだが、饅頭を用意してくれているのは店主であるオヤジらしい。
オヤジが言うに、鈴は五日程休みを取っているらしく、神楽が病気か何かかと心配したそうだが、オヤジが旅行か何かだろうと言ったそうだ。
たかが三日、だが、懐きに懐いていた神楽は鈴に会えないこの三日でかなり元気がなくなっているし、明日こそは居るかもしれないと前よりも早い時間に寝るようになった。
今も何を考えているのか、床にうつ伏せになり掃除機から伸びる電源コードを指でくるくるしている。
神楽ほどではないが新八も心配はしているようで、何を言うわけでもないが何かあったのだろうかと思っているような顔を時折する。
テメェらが心配している鈴は今、渋団扇探しに出てんだよ……と言いたいところだが、言えるわけもなく。コイツらほどではないが、流石に三日姿が見えないと聞くと心配になるわけで……。
ジャンプを片手にズボンのポケットからお守りを少しだけ出す。
やっぱ、これは鈴に持たせておくべきだった。
そのまま視線を動かせば、俺の近くにある窓から外を眺めている爺。爺も三日前からこの調子だ。ずっと外を見ている。
夜中に水を飲もうと居間に行く度、この爺が暗闇の中ぼんやり映り何度叫びそうになったことか……正直一回ちびったし。ほんと勘弁してくれよ。
あーあ、鈴ちゃん、早く帰って来ねぇかなぁ〜とジャンプのページを捲ったと同時に、今まで一歩も窓から離れなかった爺が玄関へととと、と走って行く。
その姿を目で追いながらジャンプを机に置き、やっと帰って来たのかもしれないと腰を上げて俺も玄関へ向かった。
玄関の戸の前でそわそわしている爺を通り過ぎ、戸に手を掛ける。
すり硝子の戸の向こうに人影はなく、どうやら客は客でも人の客では無さそうだと開ければ、玄関前に栗鼠がちょこんと座っている。
「は?リス?可愛いじゃねぇかオイ。オラ、此処に夢の国への入り口はねぇぞ。他所行け、他所に」
「地主神様の使いで参りました。貧乏神様はいらっしゃいますか」
「うわ……」
栗鼠が喋ってやがる……。
***
「なるほど、あの男の家は元々檀家だったのですな」
「はい。ですからまずわたくしめの主に檀家である男の家に入る許可をいただきに参ったようでございます」
「なぁ、おい、俺の頭に乗るのやめてくんない?銀さんが頭にリス乗っけて歩くファンシー野郎だと思われんだろうが……、なんで俺まで」
「そして昨夜、ようやく主から許可を得まして地主神様から貧乏神様をお呼びするように使わされた次第でございます」
「………地主様はご無事で」
「少し疲労が見えますが、お体に傷はございません。あのお体に傷を付けようものなら罰があたります」
俺の隣を貧乏神が歩き、栗鼠が俺の頭に乗っている。
玄関先に居た栗鼠は鈴に頼まれ爺を迎えに来たらしく、後はソッチ側の話だろうと居間に戻ろうとしたのだが、俺の裾を爺が掴んでおり、ついでに新八が『あれ?誰か来たんですか?』なんて玄関を覗くものだからパチンコ行くフリをして出てきてしまった。
道案内をする栗鼠に従いながら未だ俺の着物を掴んだまま歩く爺を見る。
どうやら、思いの外この爺に懐かれているみたいだ。嬉しかねぇけど。テメェだけで行くのが不安なのか掴む手を離さない爺を無下にはできず、俺も歩く。
鈴はこの三日間、栗鼠の主という寺の神さんに男の家に入る許可を得る為かくれんぼをしていたらしい。山ん中で……。栗鼠から聞いた瞬間、は?どんな状況?となったが、その寺の神さんが遊んでくれたら許可をすると言ったそうだ。
つまりこの三日間、鬼役であった鈴は山の中を駆けずり回ったというわけだ、そりぁ疲れんだろうよ。
かぶき町から出て暫くすれば、通行人もまばらになってきた。
周りに人がいないことを確認して頭の上に乗っかる栗鼠に話し掛ける。
「その檀家ってやつだと許可がいんのか?」
「はい、神使様。我が主の檀家、つまり寺に属する家ということになります。我が主の領域となりますので、他の神様でしたら許可を得ていただく必要がございますが、地主神様には関係ございません。この地の神でございますので、ですがちゃんと許可を取りに参られた。よいお方です」
「ふぅーん、めんどくせぇのな……でも、その檀家とやらに爺が居たんだろ?それはいいのか?」
「それは……その家の者が怠けており憑かれたことでございますので」
「自業自得だから守る必要はねぇって、そういうことね」
「あ、神使様、その分かれ道を左に」
「へいへい……オラ、爺置いてくぞ」
爺が足を止めれば、着物を掴まれている俺の足も止まるわけで。
少し先にある公園を見て足を止めた爺を引っ張るようにして歩き出す。
ちらりと視界に入った公園にはまだ寺子屋にも行けないだろう年齢の子どもが砂遊びをしている姿だった。
***
「なぁ、オイ。鈴ちゃんは怪我してねぇって言ったよな?…………ここ病院なんだけど……もしかして疲労で入院してんの?どんだけ本気のかくれんぼしたんだよ、お宅の主」
栗鼠に案内されやっと着いたところは総合病院だった。
ただ、建物に入るのではなく、敷地内の庭へと案内され歩いていく。
「いえいえ、地主神様ではなく、あっ、地主神様があちらに!あそこでございます!」
「いでで、髪を引っ張んな!可愛いから許してっけどなテメェがリスじゃなかったらぶん投げてるところだかんな!」
「ハッ、申し訳ございません。つい、もふもふで」
「オイ!!誰の髪がもふもふだってか!!」
栗鼠が俺の頭を巣と錯覚し始めた恐ろしさを感じつつ、周りを見渡せば日当たりのいい広い庭のベンチに鈴が座っていた。
『おー、いたいた』と声に出せば、アチラもコッチに気付いたようで、俺も居ることに一瞬驚いてはいたが控えめに手を振ってくれた。それに小さく手を振り返す。
「地主様――!!」
「おっ、おい」
俺が久々に感じる穏やかな気持ちをブチ壊すかのように、爺が俺の着物を掴んだまま鈴に向かって走り出す。
爺といっても名前に神が付くからか力が強く、足で踏ん張って止めようにも引きずられるようにして鈴へ近づいていく。この感覚、定春の散歩してる時の感覚だわ!!!!
「おいおいおいおい!!止まれェエエエくそ爺!」
一向に落ちないスピードと徐々に近づく鈴との距離に焦るも止まらず。俺の努力は虚しくそのまま鈴へと突っ込む。
胸元に何かがぶつかる衝撃と俺の背中に回った腕の感触にハッと瞑った目を開ける。
「な、ナイスキャッチ」
絶対勢い余って押し倒すと思っていたが、どうやら鈴が踏ん張ったらしい。突っ込んできた俺を避けるのではなく受け止めた鈴の両手が俺しっかり抱えていて、胸に顔を埋めていた鈴がそっと俺を見上げる……。あの状態の俺らを受け止めるたぁスゲェな、と思っていると、鈴の鼻からつっ、と血が垂れた。あ、鼻血。
「地主神様!?血が!!」
「え?あ、本当だ」
「ギャアアアア!!血!!鈴ちゃん鼻血出てんぞ!!俺!?俺の胸筋のせい!?」
「大変でございます!!地主神様がお怪我を!地面は!地面は割れておられませんか!?」
「地主様〜!!お会いしとうございましたじゃ」
「爺泣いてる場合か!!チリ紙!!チリ紙持ってこい!いや!!医者だ医者!あ!ここ病院だわ!!」
やべぇ!!江戸が滅ぶ!!とあたふたする俺と栗鼠とは違い爺は鈴の足にしがみ付いているし、その鈴は冷静に自分のハンカチを取り出して鼻に当てていた。
「すみません、トイレットペーパーを持って来ていただいて」
「いや、ティッシュじゃなくてワリィな、それもそこの便所のだし……どうだ?血ぃ、止まったか?」
「はい、もう大丈夫です」
「よ、ようございました。……ではわたくしめはこれで。くれぐれも安静にしてくださいませ」
鼻血が止まったことに俺と栗鼠がほっと安堵の胸を撫で下ろす。
俺の頭に乗っていた栗鼠がベンチに座っている鈴の足元に降り立ち、ペコリと頭を下げた。頼まれごとが済んだ以上帰るのだろう。
「栗鼠様、このようなことをお頼みしてすみませんでした。ありがとうございます」
「いいえ!また何かございましたら申しつけください。ではこれで」
「気を付けて」
とととッと軽い走りで消えて行った栗鼠を見送ってから隣に座る鈴を見れば、鞄からボロい団扇を出している。
これが爺の言う渋団扇なのだろう。
ちゃんと見つかったんだな、とは言葉には出さず、成り行きを見守る。
爺はというと、俺に怒られたことと自分のせいで地主神に怪我を負わせたことに反省中とのことで、ベンチの近くには居るが地面の上で正座をしている。怪我の原因は俺の胸に鼻を強打したことなのだが、発端は爺だ。次がねぇようにしっかり反省してもらわねぇと。
「貧乏神様」
「はい!」
「これを」
地面に座る爺に鈴が団扇を差し出せば、爺の震える指がそれをゆっくり受け取る。そして、そっと胸に抱いた。
泣きそうな面をして『ありがとうございます』と何度も礼を言う爺に俺の口許が緩む。
「これで消える必要がなくなりましたよね?」
「はい!はいですじゃ!……これであの家を去ることができますじゃ。地主様、なんとお礼を言えば……ぜひ礼を、何か儂に出来ることがありますじゃろか」
「そうですね……貧乏神様は極まれに幸運を授けたりもすると耳にしたのですが」
そんなことを話す鈴に、え!俺にも幸運という名の礼しろよ爺!と耳がピクリと動いてしまう。そんな聞こえないフリをする俺の耳に爺の『地主様の幸運を祈るのはもちろんですじゃ、他に何かごじゃいませんか』と言っている。
「実は此処に貧乏神様をお呼びしたのには理由がありまして。坂田さんが来てくれて助かりました。これなら貧乏神様とお話ししても独り言ではなく、坂田さんに話し掛けているように見えますね」
「………え?俺?」
「坂田さん、すみませんが少しだけお付き合いいただけますか?」
「まぁ、いいけどよ」
そう言い立ち上がった鈴に俺と爺が首を傾げる。
立ち上がり『こっちです』と歩き始める鈴の隣を歩く。
場所は庭から病院内に。独特の匂いがするその廊下を歩いているのだが、またしても俺の着物を掴む爺。しかももう片手で鈴の着物も掴んでいるもんだから歩きづらいったらねぇ。
「おい、歩きづれぇつってんだろ」
「わ、儂、が此処に入ってもいいんじゃろか……死、死が近くなったりせんじゃろか」
「大丈夫ですよ」
俺と鈴の間を歩く爺は自身の影響が周りに出ないか心配らしいが、鈴のその一言で安心したみたいだ。さきほどより着物を握る力が弱くなった。
「あ、ここです、ここ」
「ここ……って……」
歩いて暫く、鈴が足を止めた場所を見て内心笑ってしまう。
どこまで考えたんだか……と看護師を見つけて向かって行った鈴の背中を見る。あらかじめ許可は得ていたのか看護師が笑顔で頷いている。
「爺、わかるか」
「………」
「テメェが憑いてた男の赤ん坊、こん中にいるらしいぜ」
少し先にある分厚いガラス、その向こうには生まれたばっかの猿みたいな顔をした赤ん坊達が寝かされているのが見える。
此処に来てやっと、そういや、子どもが生まれそうだって言っていたなと思い出した。
「無事生まれたみてぇだな……良かったじゃねぇか」
俺にはどれがその男の赤子かはわからねぇが、分厚いガラス越しにちまちまと動く赤ん坊に思わず目が行く。しわくちゃでチンパンジーみたいな面だし、うるせぇし、テメェの下の世話もできねぇがどうにも赤ん坊というものは可愛らしい。
「お待たせしました」
「おう。で、新生児室の前で何するってんだ?もしかして俺を此処に連れて来たのって赤ちゃん欲しいアピール?気付かなくてごめんね?今夜頑張ってみっか」
爺の声が聞こえていないという設定の為、ちゃかしてみたが、今から鈴がしようとしていることはもうわかっている。なかなか粋なことをするじゃねぇーのと笑えば、鈴が笑う。
「私でいいなら」
「え、まじで?冗談のつもりだったんだけど、銀さん本気にするけど?」
「すみません。私も冗談のつもりだったんですけど、え?本気なんですか?あ、呼ばれましたね」
看護師に呼ばれ、鈴と俺、あと爺が個室へ案内される。そこにはまたしても大きなガラスがあったが、そのガラスの向こうから一人の看護師が赤ん坊を抱いて近づいてくる。
この赤ん坊がそうなのだろう。
「憑かれていた男性にお話ししました、貧乏神様のこと。信じてもらえるかわからなかったのですが、檀家であったので寺の住職様にもお手伝いいただいて……その方も一緒になって探してくれたんです。団扇」
『発見された団扇が見えなくて残念がっていました』と鈴がくすくすと笑う。
「そして奥様にお話ししたところ面会する許可をいただけました。男性が貧乏神様に感謝を伝えてほしいと、せめて去る前に一目見て行ってくださいと、見えますか貧乏神様。貴方が長年見守った男性の赤ちゃんです」
「……おら、爺のその背じゃ見にくいだろ。俺の背中よじ登れ」
背中に重みが掛かったことで、爺が背に上ったことがわかったが一言も喋らない。自分の命と引き換えにしても守りたいと思っていた命が目の前にあんだ。そりゃ感極まっていることだろう。
鈴も俺も何も話さず、ただガラス越しに看護師に抱かれる赤ん坊を眺める。すると、ほんの少しだが赤ん坊の目が開いた。
そして、小さな手を此方に少しだけ伸ばす。その仕草に頬が緩む。
「ちゃんと見えてんのかねぇ」
「見えているんだと思います、貧乏神様が」
「は?そうなの」
「七つまでは神の子って言いますから」
「へぇ」
此方に手を伸ばす赤ん坊に小さく手を振る鈴の横顔を見ていれば、肩に冷たい何かが落ちた。
ぽたりぽたりと降ってくるそれは冷たいようで温かい。
「ほら、爺も手ェ振ってやれ」
俺も紅葉のような手に、小さく手を振り返した。
「こりゃあ、幸福な顔をした赤子ですじゃ」
赤ん坊にとっても爺にとってもこの別れは幸せへ続くのだろう。
鈴が小さく『私へのお礼もこの子に足しておいてください』なんて言うもんだから少し笑ってしまった。
はなから爺がこの赤ん坊に幸運を授けるとわかった上での言葉だ。
***
「うわっ、まじで?え?夢?え?嘘!まじかーーーー!!」
「銀さん煩いですよ!!」
「見て見て新八!銀さんなんか知んねぇけどケーキバイキングのチケット十枚綴り当選してんだけど!」
郵便受けから取り出した封筒を持って台所へ走る。
出した覚えもねぇそれに当選していたが、誰の仕業なのかはなんとなくわかる。
昨夜旅立った神さんの仕業なのだろう。
「え、銀さんもですか?実は僕もさっきスーパーの福引で牛肉が当たったんですよ!だから今日はすき焼きにしようかと」
「新八―!新八新八!!」
「あ、神楽ちゃん帰って来ましたね」
壊れそうな音をたてて開いた玄関と同時に此方へ走ってくる音。
「神楽テメェ玄関はそっと開けろって言ってんだろ!テメェのせいで何回修理してると思ってんだ!」
「聞いてよ銀ちゃん!鈴居たアル!今日居たネ!!」
「おお、良かったな」
「あっ、山田さん居たの!良かったね神楽ちゃん」
俺の腰に抱きつくようにしてぴょんぴょん跳ねる神楽の頭を押さえるが、その嬉しそうな顔に、ちょっとこれは元気がありすぎるなと笑ってしまう。
「急用でかぶき町を離れてたみたいアル。うちに連絡も入れずすみませんってコレ貰ったネ」
「わざわざいいのに、うわっ、美味しそう。山田さんにお礼言わなきゃ」
「おーし、食うぞ〜」
「私コレがいいアル!」
「僕コレがいいです」
貰った和菓子に喜ぶ神楽と新八の声を聞きながらソファーへ腰かける。
「銀時は居るかい?ウナギを貰ったんだけどねぇ。食べきれないからアンタ達で食べな」
「おいおいババア、スゲェ数じゃねぇか」
「うわぁ!鰻ですか」
「こんだけあるんだ。アンタも家に持って帰って姉に食べさせてやんな」
「ありがとうございます!」
幸運はしばらく続きそうだ。
「そういや、鈴ちゃん、鰻が好きって言っていたような、言っていなかったような」
「私鈴連れてくるネ!新八!ウナギ焼いとけよ!!」
「えっ、ちょっ、神楽ちゃん!僕鰻のさばき方なんてわかんないよ!」
「俺すっから、新八タレ買ってこい」
「ええ!?銀さんさばけるんですか!?」
今回一番頑張った人物にも幸運は分けるべきだろう。
鰻が好きかどうかは知んねぇけど。
まぁ、爺が居なくなったうちの便所にも用があるだろうから丁度いいだろう、と鼻歌混じりにエプロンを首にかけた。
web拍手
第八話終わり
貧乏神編のあとがきもどきは【memo】に、もしご興味がございましたら。
お読みいただきありがとうございました。