信じると誓って、誓ったのなら信じて
「……」
「(……あれは……朝緋、か?)」
目線の先、遠くの方にアイツと同じ色を見つける。陽の光を受けて幾分明るく、撫でるような風にさえ靡くあの
しかし、久しぶりに見たその後ろ姿は、記憶に残っているものと比べて随分と雰囲気が変わり——それでいて懐かしいものだった。
「(……あーあ、買われへんかったんか)」
お昼時。昼休憩に合わせて急いで足を運んだのだろう。朝緋は人気銘菓店の列に並んでいた。……アイツ、ほんまに甘いもん好きやな……なんで昼飯より甘味が先やねん……。しかし、なんと間の悪いことか。惜しくもお目当ての人気商品は朝緋の前で売り切れてしまったようで、列に並んでいた人達がぞろぞろと通路へ流れていく。気の毒に思った店主が朝緋に声を掛けているのが目に映ったが、アイツはその気使いにすら気を使って、まるで「大丈夫、気にしないで」とでも言うように。眉を下げてへらりと笑う横顔が、遠くからでもハッキリと見えた。
——そして。店の前から立ち去り店主にはもう見えない位置まで進んだところで、がっくりと肩を落としてため息を吐く姿も。通りの向かい側で
……その姿を見て、鮮明に思い出す。
かつてアイツが、まだ技術開発局の雑用係として働き始めたばかりだった頃。周囲に馴染もうと必死になっていたあの時の、一人になった途端に見せる哀愁漂う疲れきった様子と——今の姿はとてもよく似ていた。
「……なァんや、えらい疲れた顔しとるやんけ。具合でも悪いんか? って、具合悪いやつは昼間っから菓子のために並んだりせえへんか」
「…………いきなり声を掛けてきたくせになんか馬鹿にされたような気がするんですけど。失礼な人ですね、誰ですかあなた」
「……お前はほんっっまに、俺に対する態度を改める気は微塵もないんかいな」
「先に喧嘩売ってきたのはそっちじゃないですか。売られた喧嘩は倍にして返す、それが翡葉家の家訓です」
「なんやねんそれ、お前ん家の教育どないなってんねん。恐ろしいわ」
「じゃなきゃこんな負けず嫌いの偏屈に育ちませんよ。まあでも安心して下さい、受け継いでるのは私だけですから」
「ああそうかい、ほな安心やな。お前みたいなんがまだ他にもおるんやったら俺の胃が穴だらけになってまうわ」
「はは、大丈夫大丈夫。私にはもう家族なんていませんよ」
「…………」
「……え、何」
「……ビックリしすぎてなんも喋られへんくなったわ」
「は?」
「いや……お前がそうやって冗談でも自分のこと話してんの、今まで聞いたことなかったから」
「……あー、そうでしたっけ? ああうん、そうだったかも。はは、気にしないで下さい。てか、普通にいまの忘れてください。疲れてるんですよ私」
「…………」
「……んじゃ、失礼します。さよなら、平子たい——」
「菓子。食いたいんやったら、今なら奢ったるけど」
「……」
「つか、なんでこの時間にあないな店並んでんねん。普通は定食屋とかやろ。昼飯は菓子だけとか言うんちゃうやろな」
「……質問が多すぎます。そんないっぺんに聞かれても困るんですけど」
「おお、そらすまん。今の一瞬でお前に聞きたいことが山ほど出来てしもたからな」
「……」
「しゃーから、話聞く代わりに茶奢ったる言うてんねん。まだ時間あんねやろ?」
「…………真子さんって、」
「?」
「超がつくほどのお人好しでお節介で厚かましい人ですよね。正直そういうの迷惑だしうっとおしいです、」
「——なっ、」
「でも嫌いになれないから。私、あなたには放っておいて下さいとしか言えないんですよ」
「……」
「……せっかくですけど、お菓子を奢っていただくのはまた今度にさせて下さい。さっきはただ、あのお店の人気商品を差し入れとして贈りたくて並んでただけなので」
「……」
「ついでにいえば、お昼ご飯はまだです。んなもん食べてる時間なんて今はないぐらい忙しいので」
「……どうしてそんな時間ないん」
「あれ、知らないんですか? 私、この春から四席に昇格したんですよ」
「——!」
「ああ、そうそう。……だから、そうですね。真子さんが言った通りでした」
「……なんや、言った通りって」
「ほら、この前のあれですよ。浦原隊長が十二番隊の戦力を立て直すために、私の力を当てにしてたって話」
「!」
「どうやら、私を四席へ押し上げるために、わざと噂が立つように実戦の任務ばかりを任せてきてたみたいですね。はは、ほんと、どこまで先のこと考えて生きてるんですかねー、あの人は。怖い怖い」
「……朝緋」
「だから、私いま、こう見えてとんでもなく忙しいんです。午後には技術開発局への資金援助を募って、お偉いさんたちへ挨拶回りしに行かなくちゃいけなくて。その為に手土産を買いに来てるんですよ」
「……」
「はは、心配しないで下さい。別に忙しいのも悪くないですよ。ぶっちゃけ、四席になってから今まで私の事舐めてた人たちが手のひら返して畏まってんの見るの、気分いいですし。いやー、どれだけ忙しくても清々しいってもんですよ、あっはっは!」
「……」
「あ、そうだ。どうせお菓子買ってくれるなら、昇格祝いでなにか贈って下さいよ。うん、それがいい。——ああでも、食べる時間はそんなにないから、なるべく量が少なくて日持ちするやつでお願いしますね」
「…………考えといたるわ」
「はーい、よろしくです。んじゃ、失礼します。ばいばい、真子さん」
春の日差しの下、疲れきった身体を引きずるようにしてその背中は遠ざかっていく。
——どこか、無理やりにでもこちらを遠ざけようとするその背に、手を伸ばすことが出来ないまま。いつの間にか地面に落ちていた、自分のものではない
「——……確かに俺は顔色窺ったらあかん、とは言うたけど」
「……せやからって、お前が気持ちを汲まれる側になってどないすんねん、喜助」
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