信じると誓って、誓ったのなら信じて





 ……ずっと覚えている。
 分かっている。
 頭でも、心でも。


「……飴玉、っスか?」
「はい。でも、ただの飴じゃなくて『元気が出る飴玉』です」
「……」
「それ、私はこの通りまだ食べられないので、浦原隊長が代わりに食べてくれませんか?」
「――……」
「甘くて美味しいですよ」


 (……ちがう、)


「——忘れないで下さいね。十二番隊の仲間たちは、浦原隊長のことが大好きだってこと」
「——どうでもいいことで笑い合うのに、対等である必要が、仲間である必要が何処にあるんですか? 『面白い、楽しい、嬉しい』を共有出来たなら、誰とだって笑い合えばいいじゃないですか」


 (……違う、ボクは、)

 ——ずっと見てきた。
 翡葉朝緋という女の生き方を。


「——面子を潰されたから。大人しく待ってるなんて許せなかった。一秒でも早く、取り返したかった」
「……私、もっと強くなりたい、です。……いや、なります。強く、なります」
「だから、見てて下さいよ、浦原隊長。もっと強くなって、絶対に、誰よりも強くて格好いい女になって見せますから」


 (……ボクは、ただ、)

 ——ただ、あの子の味方で居てあげたかった。
 師じゃなくたって、隊長じゃなくたって。
 ただ、信じて見届けたかった。





「——まだ疑ってる? ええ、当然でしょう。どうしてそんな当たり前のこと訊くんです」
「!」
「まさかアナタが忘れるはずないっスよね。——朝緋サンは瀞霊廷に突然現れた、身元不明の侵入者なんですよ」
「……」
「たった数年何も怪しいことが起きなかっただけで、疑いを完全に捨て切るなんてボクがするわけないでしょ」


 強がりなあの子を護ってやりたかった。泣かせたくなかった。
 そう約束を交わしたのが、他ならぬ彼女が護った少女だったから。……その約束を、守りたかった。


「……ボクはもうずっと、あの子が何者なのかを探り続けています。……それが彼女にとって触れられたくないものだというのも理解した上で、ずっと」
「……」
「経歴や出身。どこで生まれたのか、家族はいたのか。……彼女は一体あの時、どうやって瀞霊廷内に侵入したのか。あらゆる手段を尽くして調べ続けてきましたが、未だに情報は何ひとつとして見つかっていません」
「……!」
「……正体が分からないものを危険視するのは当然でしょう。……相手が虚だろうが死神だろうが、それは同じことです」
「……でもお前、朝緋のことはもう信用しとるって、」
「ええ。……ですから、疑っていると言うのは少し語弊があります。ボクは……朝緋サンは誰かを犠牲にしたり傷つけたりはしない人だと、信じてますから」
「……」
「——ただ、信じることと警戒を辞めることは違う。確証を得られない限り、彼女が怪しいという可能性は最後まで残しておく。……それがボクのやり方っス」


 たとえそれで、彼女に重大な秘密が見つかったとしても。危険だからと瀞霊廷を追われることになったとしても。
 ——部下じゃなくなったって、弟子と呼べなくなったって。また、居場所を作ってあげればいい。また一から始めればいい。……それで、彼女が恋い慕う男と幸せになれるよう、見守っていけばいい。

 (……違う、)


「……何が“ボクのやり方”や。そんなんどっちも同じやろ」
「……外れてくれるならそれでいいんスよ。……ただ、可能性があるとどうしても無視は出来ない、というだけで」
「……」
「……」
「……はあぁぁぁ、」
「……」
「……今のを聞いて、ひとつだけよォ分かったわ」
「……なんです?」
「——お前が信じとるんは朝緋やない」
「!」
「喜助が信じとるんは、ただの朝緋の“優しさ”や」


 (——ただ、ボクは、)

 ……味方で居てあげたかった。
 彼女が危険人物なんかじゃないことなんて、とっくに分かりきってる。この目でずっと、あの子の生き方を見てきたんだから。心の底から、紛れもない本心で。違うと信じているのに。

 ——それでも、可能性を捨てきれない自分を認めたくなくて。早く、そうじゃないと証明したくて。

 味方で居ることしか、
 そう在りたいと願う事しか、出来なかった。


「……だからじゃないっスか」
「……なんやと?」
「——朝緋サンの優しさを信じているから。だからボクは彼女を四席に今選んだんです」
「……」
「今までよりも多くのものを背負い、十二番隊を護る立場になった彼女なら……ほぼ確実に、他者を巻き込んで犠牲にするような行動は取れなくなるでしょう」
「……」
「——……朝緋サンは、十二番隊のことが大好きですから」
「……自分が何かをしたら、隊のみんなに迷惑がかかる。四席になった今なら、その責任感は今までよりも更に強くなる。……だから、その“優しさ”を利用して、アイツには怪しい行動を取らせない。——それがお前の目的か」
「……ええ。理解が早くて助かります」
「……」
「……最初に言ったでしょう。“ボクはあの子の優しさを利用しているだけ”だと」


 そう言って、もう一度窓の外へ目を向けた。——向かいの窓辺に佇むあの花は、先程と変わらず見たこともない暗い色に染まっている。

 ……頭と心は、全く違うことを叫び続けていた。
 もし、この胸に宿る激しい熱が『名も無き花』をあんな色に染めてしまったというのなら。この感情に名前を付けられてしまうことが、途端に恐ろしくなった。いつでも見えるようにと隊首室から近い場所へ飾ったことを、少しだけ後悔する。

 (……心を映す花、か)


「……ハァァ〜〜〜……」
「……」
「……まァ、せやな。お前の理屈を通すんやったら、そら確かに今すぐ四席にせなあかんかったんやろな」
「……」
「……せやけどなァ、喜助」
「……はい」
「お前が腹ん中で疑ってるだけやったら、そんなんはまだええわ。満足するまで調べ尽くすなり、好きなようにしたらええ」
「……」
「やけど、それで朝緋を縛るんやったら、嘘でもええからアイツが納得出来るようにしたれよ。なんで朝緋にお前の気持ちまで汲ませてんねん」
「——!」
「建前なんてなんぼでも使つこたってええから。——強いからでも、仕事熱心やからでも、なんだってええ。朝緋が必要なんやって、たった一言、それぐらい言葉にしたれよ」


 ——アイツの居場所を作れるんは、お前にしか出来へんのやから。

 平子サンはそれだけ言い残すと、一枚の書類を置いて隊首室から出て行った。


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