一緒に終末を過ごしませんか
睦月。太陽が顔を出している時間は日に日に短くなり、見慣れた隊舎の中庭は白銀の雪景色に様変わりしている。死神修行に明け暮れる慌ただしい生活をしているうちに、気がつけば年が明けてからあっという間に数週間が経っていた。
降り積もった雪は朝日を反射して、いっそう眩しく鋭い光を放っている。直視すれば目を焼かれそうなのに、目の前に広がるまだ誰の足跡もついていない雪景色を眺めるのが私は好きだった。――雪が積もるなんて、そんなに珍しいことじゃないのに。何故か心が浮き立ってしまうのは、いくつ歳を重ねても変わらない。
そしてそれは、世界を跨いでも変わることはなく。翡葉朝緋は、雪が降っただけで心を弾ませる、ただの、どこにでもいる、ごく普通の人間だ。
(――いや、今は死神見習い、か)
「おやぁ?今、考え事してませんでした?」
「っ、ちょっと気が散った、だけです……よ!」
「ダメっスよぉ〜、その一瞬が命取りになるんスから。……ホラ」
――パシン!
「うっ、!」
絶賛、『ただの人間』から『死神見習い』へ這い上がってる最中だ。竹刀を使った斬術の稽古は日を追うごとに容赦がなくなり、手加減こそされていても、打ち込まれる勢いは本気そのもの。毎日どこかしら筋肉痛だし、怪我が治るよりも早く新しい痣やら擦り傷やらが増えていく。
「――おお。今の、よく受け止められましたね」
「打ち込んでくるのは、見えてましたよ……っ!」
「……相変わらず、動体視力と反射神経は格別っスね。だけど――」
「っ!」
一瞬、気を抜いたその隙を逃さず打ち込まれ、崩れた体勢のまま重い一撃が飛んでくる。なんとか竹刀で受け止めたものの、その体勢では当然力も入らず――鍔迫り合いの形になったのも束の間、力の差は歴然で一気に弾き飛ばされた。受身?なんてものを取る余裕もなくて、私の体が床に叩きつけられる鈍い音が道場に響いた。
「力も体格も劣る相手との鍔迫り合いは不利なんスよ。そうならない為に、間合いはきちんと把握しておくこと」
「……はい。すみません」
「さ、もう一回いきましょうか」
「――お願いします!」
気合いを入れ直してもう一度、竹刀を握りしめる。手のひらにはいくつもの豆ができていて、柄に触れるたびにじん、と痛みが走る。けれどその手は、事務ばかりだった頃の雑用係の手ではなく、力を手にするためにもがいている、自分の意志で戦う人の手に変わっていて。それが何だか誇らしくて、痛みなんてどうでもよく思えた。
ふと窓の外を見れば、いつの間にかまた雪が降り始めている。あの積もった雪のように、失敗も積み重なっていくのなら。――私はその上に、何かを築いていけるだろうか。
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