思い出す度に心が痛みますように
あの日から三日。そう、あの日。え、あの日とは何かって?それを自分の口で言葉にするのは些か傲慢な気がするので、明言は避けさせてもらうが。あの日から三日が過ぎた。
『無謀』な挑戦の結果、真っ黒に焼け焦げ赤く爛れていた私の右手は、驚くほど綺麗に元通りになった。あの時、心の方が焼け焦げて灰になりそうな私へ「ボクが治した方が早いでしょ?」と宣った、他でもない彼によって。
得体の知れない薬を見せびらかすように私の目の前へ掲げ「新薬っス!」と嬉々として見せた彼の顔は記憶に新しい。ご丁寧に麻酔を含む薬液を垂らされ、感覚の無くなった右腕に様々な種類の塗り薬が重ねられていく。その様子を見ながら「私が回道を覚えたら、被検体が減ってしまいますね」と苦笑をこぼせば「何言ってんスか、朝緋サンにも回道の才はありませんよ」と真顔で返されてしまった。え、そうなの?と驚いて戸惑っている間に、治療と呼ばれる新薬の試行は終わったようで。ぐるぐる巻きにされた包帯を翌日外してみたら、火傷の痕ひとつ残らない、綺麗な肌が顕になっていた。
完璧すぎる新薬の効果に、だらしなく口角を上げて二つ指を立てる彼の顔が思い浮かんだ。
しかし、その日は彼の姿を見ることはなかった。別に要件があった訳ではない。強いて言うなら、新薬の投薬結果を一言お礼とともに述べようと思ったくらいで。ただの日常会話、業務上必要な『状況把握』の一環として。ひよ里に彼の所在を問えば「知らん」と一蹴された。「オマエが知らへんのにウチが知るか!!」とも言われた。……いや、一介の平局員の私が、副隊長の彼女よりも彼について知ることなんて何も無いと思うのだが。なんで私の方が詳しいみたいになってるんだ、ありえないでしょう。勘弁して欲しい。
彼の姿が一日二日見えないことはよくある。没頭してしまえば何日だって自分の研究室から出てこない科学者だ。それはいつも唐突に訪れるから、全く気にもとめてなかったのだが。――彼の個人研究室にも、隊首室にも明かりが灯ることは無いまま、二日が過ぎた。
そうして、あの日の火傷の手当をしてもらってから三日目の今日。二日ぶりに見た彼は、私の右腕を満足そうに見つめた後に「ちょっといいっスか?」と呼び止めた。彼に促されるまま着いていくと、研究室を通り過ぎ、技術開発局の外へ。そして、あれよあれよという間に十二番隊隊舎の外へ出ていた。
私にとっては大変久しく、この世界に来てから二度目の“瀞霊廷”を歩いている。一度目は言わずもがな、ほぼ無理やり押し付けられた休暇と称して、真子さんと流魂街へ出かけたあの時だ。二度目であるのにこんなにも懐かしさを感じるのは、私の中に眠る、特別な記憶のせいなのだろう。
右も左も同じような作りの建物ばかり、どこを歩いているのかはさっぱり分からない。けれど、記憶の中、いや、物語の中にしか存在しなかった世界を、物語の中にしか存在しなかった彼と歩くのは何とも奇妙な感覚だった。お腹が痛くなって蹲りたくなるような緊張感と、目を瞑りたくなるような罪悪感と。必死に隠して平然を装って、彼の一歩後ろを歩いていたら「そういえば、朝緋サンとここを歩くのは初めてっスね」なんて声をかけられ、私の動揺が悟られたのではないかと心臓が縮み上がりそうになる。
「まあ、私だってここを歩くの二度目ですし」と返せば「あれ、そうでしたっけ。窮屈な思いさせちゃってスイマセン」と彼は眉を下げへにゃり、と笑った。
死神ではない私が、死神の住まう瀞霊廷の中にいるのは本来なら有り得ない事。尸魂界の“掟”を破ってもなお、私が技術開発局の局員であり続けられているのは、全て局長であり隊長の彼のおかげだ。彼が、私という得体の知れない人物に対する責任を全て背負ってくれているから、私はここにいられる。隊舎の敷地から出ないように暮らしてきたことを、窮屈だと思ったことなんて一度もない。――だから、そんな辛そうな顔で謝らないでほしい。
私が少しでも、見た目だけでもこの世界に馴染めるようにと選んだ、死覇装に似せた黒の作務衣。その上から技局の白衣を被っている今、遠目から見たら私はただの局員にしか見えないだろう。私が死神でないことを知ってるのは、前を歩く彼のみ。まるで二人で悪巧みをしていて、この世界に嘘をついているような感覚。悪いことがバレないようにとひやひやしながら、ひたすら彼の後ろを歩き続けた。
春を迎える暖かな陽射しが降り注ぎ、真白に塗りたくられた建物達が容赦なく光を反射する。視界いっぱいに広がる白は、強烈に目に焼き付いた。まるで、少し前に見た妙にリアルな夢と酷似しているようで、すっかり忘れていたあの奇妙な空間のことを思い出した。
(結局、あの夢はなんだったんだろう……?)
暫く歩き続けていると、気がつけば辺りは鬱蒼とした森に移り変っていた。瀞霊廷を出たようには思えなかったから、ここは流魂街ではないのだろう。
彼の要件も目的地も、例に及ばず私は知らない。不意に足を止めた彼の背を見つめながら、この先の展開について思考を巡らせていると「さて、ここまで来れば平気そうっスね」と一言呟いた。およそ独り言に近いその言葉に私は返事をすることなく、ただ歩みを止めて彼の動きを待っていると「朝緋サン、失礼しますね」と、何かの配慮と共に彼の両腕が遠慮がちにこちらに伸びてきた。
「へ、あ、はい」となんとも気の抜けた返事を返すと、途端に両足が地面から離れてしまった。一体自分の身に何が起きたのか、状況からして恐らく答えは一つしかないだろう。けれど、私のどうしようもなくいじらしい乙女心が、そんなはずは無いと無意味に否定したがっていた。
しかし、そんな葛藤も束の間。いつもよりも近くに感じる彼の口元から発せられた「ちょっとだけ目瞑ってて下さいね、じゃないと酔うと思うので」という脅しのような気遣いに、反射的に目を瞑る。背中と膝の下に回された彼の腕に更なる力が込められたのを感じた次の瞬間――
「え、ちょ、待っ――!」
今まで感じた事も無いような浮遊感が全身を襲った。背骨が抜かれてしまったような、胃がひっくり返ってしまいそうな、なんとも言い表し難い感覚。人は、どんなに信頼を寄せている人が近くにいたとしても、感じたことの無いものを経験すると少なからず恐怖を覚えてしまうのだな、と、私はひとつ学んだ。瞼をこれでもかと言うぐらい固く閉じて、心もとない手元は、手近にあったものをぎゅっ、と掴んで握りしめた。
それが彼の隊長羽織だったことに気が付いたのは、それからすぐのこと。「もう目開けていいっスよ」と言われ恐る恐る目を開くと同時に、私の足裏が再び地面に触れた。先程の森で感じていた木々の香りとはまるで違う、土煙のような埃っぽい匂い。
――目の前に広がっていたのは、まるで洞窟のようにくり抜かれた巨大な空間。いくつもの切り立った崖がそびえ立つ、荒廃した大地だった。こんな場所に来るのは初めてなはずなのに、見覚えしかないその光景に思わずはっと息を飲む。
(……ここは、)
「どうでした?初めての『瞬歩』を体験した感想は」
「……胃がひっくり返りそうになりました」
「ありゃ。まだまだ三半規管の鍛え方が足りなかったっスかね」
それなら貴方には配慮が足りないですよね。何も言わずに抱きかかえたかと思ったら急に瞬歩なんてするから。私に心構えをさせてくれる余裕を少しでもくれたら、あんな居心地の悪い体験をせずに済んだのではないか。……という文句は、言っても仕方ないので全て飲み込む。
「まさか、ここでこれから三半規管を鍛えようって言うんですか……?」
「いえいえ。今日はまだ何もしないっスよ」
「……(まだ……?)」
未だに彼の目的が分からず、訳の分からぬまま荒地の上に立ち尽くす。見渡す限り黄土色の土景色、天は鎖されていて昼夜の区別がつきそうにない。ずっとここにいたら、時間感覚もおかしくなるだろうな、と。漠然とした予感を持ちながら、足元に転がる小さな砂利を意味もなく眺めていた。
「実は、朝緋サンに渡したいものがあって」
「……え?」
「――はい、どうぞ。晴れてボクの弟子になった朝緋サンへのお祝いっス」
唐突にそんな言葉を切り出したかと思えば、まるで小遣いでも渡すような軽々しさで、彼は“それ”を私に差し出した。
おどけたように口角を上げて、私の反応を期待するような眼差しで。差し出された“それ”はお祝いの品と呼ぶにはあまりにも物騒なもので、落とさないよう両手でおずおずと受け取った。
「こ、これってまさか……」
「ええ。これが『浅打』です」
「……すごい。浅打ってこんなご褒美みたいに渡されるんだ」
「いや、朝緋サンが特別なだけで普通は違いますね」
「でしょうね」
「ハイ」
「じゃあ何故私だけ」
「えー、なんでだと思います?」
「分からないから聞いてるんですけど!」
つい意地になって声を張ってしまったけれど、彼は全く意に介さない様子でこちらを見ていた。
……そもそも、この場所は喜助さんと夜一さん、二人の秘密の遊び場だったはずだ。なぜ私がそんな大切な場所へ?いくら喜助さん本人に連れて来られたとはいえ、場違いな気がしてならない。尊いものを私が汚してしまってるようで、胃がキリキリと痛む。
そんな状況で突然、なんの説明もなく浅打も渡されたのだ。どうしたらいいのか分からなくなってしまった私は、ただ手元の浅打をじっと見つめるしか出来なかった。
「朝緋サン、あんまり喜ばないんスね」
「……?」
見つめていた浅打の鞘に、大きな影が映り込む。それに反応するように顔をあげれば、不思議そうにこちらを覗く彼の顔がすぐそこにあった。
「朝緋サンなら、目を輝かせるんじゃないかなーと思ったんスけど……浅打を手にするって、死神へ一歩近づいた気になりません?」
「……んー、見てくれだけ近づいてもなぁ。……浅打を持ったからといって、急に強くなるわけでもないですし」
「………」
「まあでも、浅打がこんなにも冷たくて鋭くて、重っ苦しいものだったとは思いませんでしたよ」
「……竹刀や木刀とは、全然違うでしょ」
「ええ、全然違う。……だけど、すごくかっこいい」
「かっこいい?」
「責任感とか、覚悟とか。そういうのを背負わせてくるような重苦しさが、かっこよくて気合い入りますね」
両手でぎゅっと浅打を握りしめながら、顔は前へ。神妙な面持ちでこちらを見ている彼に向かって、ニカッとひとつ笑顔を送る。
私が斬魄刀を手にして、力を得ようとすること。どんな正義を振りかざしたって、それはただのエゴでしかない。もう後戻りは出来ないところまで来たのだと、改めて突きつけられているようだった。
手元の浅打へ視線を落とし、この先長い付き合いになっていくだろう刀を注視する。鞘に反射して歪に写っているのは、未来を知りながら語ることなく、愛する人を守ろうとするどこまでも傲慢な人間の顔。……こんな頼りないエゴイストが主でごめんよ、と。鞘の上から浅打をそっと撫でた。すると――
「……っふ、はは、!」
「え、あ、あれ?なんか笑うところありました……!?」
突然、堪え切れずに漏れ出したような笑い声が耳に届いた。声の主はもちろん、目の前にいる彼しかいない。普段は滅多に見ないその反応に、反射的にバッと顔を上げた。え、な、何……?
「いやぁ、スイマセン。やっぱり朝緋サンは朝緋サンだな、って」
「……はい?」
「その様子なら大丈夫そうっスね。良かった」
「……はい??」
「来週、真央霊術院の入学試験があるんスけど、朝緋サンの受験手続きはもうコッチで済ませといたんで。頑張って下さいねん」
「……はい????」
「一応“ボクの推薦”って事になってるんで。この前みたいな無茶苦茶な事はくれぐれもしないように」
「……あの、私はいつになったら『はい?』以外を喋らせて貰えるんですかね」
「今喋ってるじゃないっスか」
「そういうことじゃない!!」
背後に「バーン!」と効果音でも着きそうなぐらい、全身全霊、心の底からのツッコミだった。私の勢いに彼は目を丸くしているけど、悪びれる様子は全くない。こういうのを癪に障ると言うんだろう。ひよ里が蹴り飛ばしたくなる理由が少しだけ分かったような気がした。
――前者についてはまあ、いい。彼の個人的な感情に触れるような事、聞いたって答えないだろうから。だけど、後者については本当に何も分からない。霊術院の入学試験?ボクの推薦?何一つ心当たりのない話で全くついていけない。しかし、当の本人は至極楽しそうな表情を浮かべてこちらを見ている。その様子から、私が揶揄われているということだけは理解出来た。……随分楽しそうだな、オイ。
「真央霊術院の入学試験って何の事ですか。しかも来週って、私なんにも聞いてないんですけど!」
「だって今初めて話したんスもん」
「じゃあ事情も説明してくださいよ」
「仕方ないっスねぇ。何が聞きたいっスか?」
「全部ですよ、全部!最初から話して下さい!?」
「え〜、朝緋サンってば欲張りっスね……」
やれやれとでも言うように、彼は肩を竦めて踵を返す。そして、カラン、コロンと心地よい音が数回地を鳴らした後、手頃な大きさの岩に腰を落とした。
「どれも単純な話っスよ。浅打を渡した理由は、朝緋サンに必要だと判断したから。だから霊術院の受験手続きをしてあるんス」
「『だから』と言われましても……そこがイコールで繋がらないんですが……」
「ヤダなぁ、朝緋サンってば知らないんスかぁ?霊術院に入学しなきゃ浅打なんて手に入らないっスよ」
「……まだ入学してませんけど?」
「貴女が入学試験に落ちるわけないでしょ。超がつくほど負けず嫌いなのに」
「…………」
「どうせ貰えるなら先に貰って、修行の続きをした方がいいかと思って。あ、もちろん、先に浅打を貰ったことは他言無用でお願いしますねん」
「……勝手に取ってきたんだ」
「違いますよぉ、“前借り”ですって」
私に浅打が必要だと思ったから。それはつまり、私にもいよいよ斬魄刀の力を手にする資格があると判断されたということ。それは自体は喜ぶべき事なんだろう。だけど――……。
穏やかだった水面が波立つように、心に靄がかかっていく。しかし、彼はそれすらお見通しなのか、名を呼ばれ顔を上げれば、伏し目がちな薄緑の瞳が私を捉えた。冷えた炎を宿すような眼差しに目を奪われ、射抜かれたように動けなくなる。
「朝緋サン」
「……はい」
「貴女はボクに育てられて、ボクに見守られた環境で過ごして。……それで堂々と胸を張って『死神になった』と言えるんスか?」
「――!」
「いいえ、絶対に違うでしょうね。貴女はそんな自分に自信を持てなくなる」
「………」
「貴女はボクが辞めろと言っても、自分の力にボクの名前を背負うでしょう。だから、『師に恥じない弟子』で居たいのなら、正しい教育を受けるべきなんスよ」
ただ、静かに諭すような落ち着いた声が響く。
――彼の言ってることは間違っちゃいない。それどころか、全てが的を得ている。……私がどういう人間なのかを、よく理解しているな、と思った。
けれど、私は彼のこういう『貴女の為だから』と善意を建前にして、物事を押し進めるところが苦手だった。好きな人だからって、盲目になんでも許せる訳じゃあない。そして私は、素直に従えるほど良い子でもないのだ。
「――それが、私の為を思ってくれた、浦原隊長の選択なんですよね?それなら私は従いますよ。だけど、」
「……?」
「『私の為』を思ってくれているのに、一人で勝手に決められちゃったら寂しいじゃないですか」
「………寂しい、?」
「ああもちろん、相手が喜ぶだろう事を一人でするのは構わないですよ。恋人の誕生日に、欲しがっていたものをプレゼントするサプライズとか。素敵だと思います」
「え、あ、はい……?」
「でも、誰かが傷つかないようにする為に、一人で勝手に決めてしまったら。その選択に対する責任は、その人だけのものになってしまう」
「…………」
「それは、たとえ優しさだと理解していても、守られた側は寂しいもんなんですよ」
私がそう言えば、鳩が豆鉄砲でも食らったかのように、彼は目を丸めてぴたりと固まった。森羅万象を知り尽くす彼が、まるで未知にでも出会ったかのように心底驚いている様子はなかなか珍しい。……そんなに驚くような事を言ったかね、私は。
ザリッ、ザリッと足元の砂利を踏みしめて。彼と向かい合うようにして、岩場に腰掛ける。呆然と何かを考えている彼を横目に、「それで――」と会話を続けた。
「私は、身元不明で、記憶喪失で。保護とは名ばかりの、
技術開発局に監視されている立場だったはずです。そんな私を、外に晒していいんですか?」
「……え、ああ……はい、それはもう大丈夫です。でも、」
眉を下げて笑う。所在を彷徨う手を頭の後ろにやる。
……いつもの、取り繕う時の仕草だ。
「気づいてたんスね。……監視の為に、貴女を局員として迎え入れたこと」
「最初から分かってましたよ、身の程は弁えてるつもりです。自分で言うのもなんですけど、私ってめちゃくちゃ不審人物ですよねー」
「……まぁ、かなり怪しかったっスね」
「だから心配してるんじゃないですか。私の存在が外に知られても平気なのか、って」
昔、綜合救護詰所に入院していた時も同じ事を考えていた。あの時には聞けなかったことを、今、こうして深く考えることなく言葉に出来ている。……それくらいの信頼関係は築けた、ということなんだろうか。
「朝緋サンの事は、総隊長にも説明してありますから。もう大丈夫っスよ」
「え!?」
「でなきゃ、霊術院の受験手続きも出来るわけないじゃないっスか」
「……た、たしかに……」
「ただ、朝緋サンの身元については、西流魂街の出身ということにさせてもらいました」
「……普通に捏造じゃないですか。バレたら大変な事になるんじゃ……」
「だからじゃないっスか。朝緋サンにも口裏を合わせてもらう為に言ってるんスよ」
「……共犯のお誘い?」
「まあ、そういう事っスね!」
喜助さん曰く、私は彼の研究の被検体として、西流魂街から連れて来られた事になっているらしい。被検体として過ごしている中であの事故に巻き込まれ、偶然霊力が宿った。その後のことは概ね事実を語ったようだが、絶妙に嘘が混ぜられていて、実に浦原喜助らしい言い分だと思った。護廷十三隊にも真央霊術院にも、それで話が通っていると言うのだから、彼の入念な根回しと事を運ぶ速さに感心してしまう。
……その負担や労力は、私には想像もつかない。もしかしたら、不在にしていたこの二日間、その件に関してあちこち駆け回っていたのかもしれない。いや、彼のことだからきっと、もっと前から――……。私には悟らせずに、ずっと、一人で。
(貴方にそこまでさせる価値が、私にはあるんだろうか)
(守りたいのに、迷惑しかかけてないや)
……上手くいきませんね、愛するということは。
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