地平線に咲く花



「ぶえっくしょい!」
「……なんだ。風邪でもひいたかネ」
「いんやぁ、違いますよォ。きっと、どこかの美女がボクの噂話でもしてるんでしょ。……へくしょい!」
「……口ぐらい押さえたらどうかネ。飛沫を撒き散らすんじゃあないヨ、汚らしい」
「なんや、よォみたらえらい顔色悪いやんけ。ほんまに風邪ひいたんちゃう?」
「言われてみれば確かに、喉がイガイガするような……あれぇ、風邪薬とかウチにありましたっけ?」
「普通の風邪薬なんてここにあるわけないだろう。それくらい自分で作ったらどうだネ」
「そうですよねぇ〜。えー、面倒だなぁ……」
「いや、あるで。風邪薬」
「え、ホントっスか!?さすがひよ里サン、気が利くっスね!」
「『風邪薬が無いと自分で作った変な薬を飲みそうな人達だから、これでもかというくらい仕入れておきました』って、朝緋が四番隊から貰ってきとったで」
「……見透かされてるね、君」
「い、いやぁ。さすが朝緋サン、気が利きますねぇ」
「ついでに『栄養取らない人達ばかりだから、定期的に旬の果物を送ってもらうように八百屋と契約しておきました』って、美味そうな八朔がソコに届いとる」
「「……」」
「自分がおらんなったらお前らが睡眠と食事を疎かにしてすぐ体調崩すだろうから、って。ほんま、面倒見のいい女やでな〜、朝緋は」
「……素晴らしい分析能力だネ。見事、我々の長がその通りになっているじゃないか」
「ほ、ほんとに朝緋サンがそんなこと言ってたんスか?」
「なんや、疑ってんのか?ここまで他人に気使える奴なんてウチには朝緋しかおらんやろ、アホか」
「そ、そりゃそうかもしれないっスけど……」
「ええから早よ薬飲んで寝とき!フラッフラやんけ」
「まあ、薬は飲んでおきますけど……ボクはまだやる事がいっぱいあって、」ゴクン

 ――ドサッ

「……」
「おー、即効性バツグンやなー」
「……なんだ、何を飲ませたんだネ。睡眠薬か?」
「せや。ウチと阿近と朝緋の三人で共同開発した、その名も『体調不良のくせに動き回る奴を速攻で眠らせる』薬や!もちろん風邪薬としてもちゃんと効くで」
「――何故?」
「あ?んなもん、決まっとるやろ。朝緋がおらんなったら誰が病人の面倒見るんや」
「……」
「オマエやって、朝緋と関われんでもアイツがようさん働いとったんは知っとるやろ」
「……浦原喜助が出したあの小娘との干渉禁止はもう解かれたヨ。私は死神に近づいたあの小娘にはもう興味が無いからネ」
「そーか。ほなら、オマエが朝緋の仕事手伝っても問題ないっちゅーわけやな」
「……貴様、何を企んで、」
「よっしゃ。そんじゃ、そこで倒れとるアホはマユリが部屋まで運んどいてや。ついでに栄養補給の点滴もしたり。明日にはピンピンになっとるやろ」


 ――かくして。朝緋の読み通り、徹夜の研究に明け暮れる者たちを制止していた彼女が去ったことにより、技術開発局では体調を崩す者が後を絶たない状況へ。しかし、その事態を予見していた朝緋のおかげで、例の薬を飲み丸一日寝ていれば寛解し、被害は最小限に抑えられていた。
 この話は後に技術開発局全体へ広まり、朝緋へ礼を伝えたいと彼女と連絡を取りたがる者たちが、局長である喜助の元へ押し寄せてくることになるのであった。



(朝緋サンは今頃、何してるんスかねぇ……)
(勉強ばっかしてないで、少しは学生生活を楽しんでくれてるといいんスけど)



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