それは白からやってきた



「…………」
「(手紙、ねぇ……)」


 その日の晩。部屋に備え付けられた文机へ座り、急遽売店で購入した真新しい便箋を広げて、眩しいくらいに白いソレと睨めっこをする。筆を手に取っては文字を書けないまま、筆置きに戻すを繰り返すこと約一時間。目の前の便箋は未だに真っ白なままだ。


「……書くことが、無い」


 昼間、真子さんに言われた言葉の意味を私なりに解釈して、受け入れてみた結果。上手く言えないのだけど、たぶん、『社会人として休職中にお世話になった人たちへ連絡しないのはどうなん?』ってことなんだろうと、そう思うことにした。別に、私の事情で休職してるなら連絡しなくてもよくね?ほっといてくれよ。――というのが正直な気持ちなのだけど。きっと尸魂界ではそういうのが常識なんだろう。こうした些細な感覚のズレ?を感じると、自分がいかにこの世界に馴染めていないのかを実感して嫌になる。
 しかし、連絡してみるかと決めたとはいえ。一体何を伝えればいいのか分からない。電話と違って相手の反応を直接聞けず、その場で反応出来ない手紙は、何を言葉にすればいいのかが分からないままだった。……私が今までの人生で、手紙のやり取りをそこまで経験して来なかったのも悪いのかもしれない。自分の言葉を書き残すということが、こんなにハードルが高いなんて思わなかったな、と。深いため息を漏らした。


「お元気ですか……は、なんか上から目線だし……」
「私は頑張ってます、も、当たり前すぎて書くべきじゃないしなぁ……」


 うだうだと言い訳を連ねながら、視線を便箋の少し上へ。そこには、木製の額縁に収められている私の宝物が飾られていた。――以前、ここへ来る前に現像してきた花見の写真だ。大好きな彼らが映った写真を見つめながら、ああ、あの頃は――なんて思い浮かべて頬が緩む。


「…………」
「――うん。やっぱり、辞めよう」


 ぽつりとそう呟いて、白紙のままの便箋を綺麗に封へ戻した。……せっかく買ったけれど、きっともう、この便箋が日の目を見ることはないだろう。それじゃあ可哀想だから、このお手紙セットは隣室にいる友人にでもあげようかな。

 ――手紙は、書かない。連絡も、しなくていいだろう。一体私の何を、彼らに伝えるべきだというのだろうか。元気にやっています、楽しい学生生活です。だなんて、一体誰が知りたいというのだ。彼らは仲間だというのなら、尚更そんな必要がない。そんなどうでもいいこと、友達じゃあるまいし。もし万が一私の身に何かあったとしても、その時はきっと、輪堂先生が上手いことやって彼に伝えてくれるだろう。それで十分だ。私が手紙に記してわざわざ伝えるべきことは、ない。


 『みんなが寂しがっていた』なんて言うのなら。私に何を伝えればいいのか、そこまで教えて欲しかった。あなたが呼んでいるその『みんな』が、一体誰を指しているのかも教えて欲しかった。

 そこにあの人は含まれてなんかいないと、ハッキリ言ってくれたら。馬鹿だと思うこの気持ちを、少しも抱かずに済んだのに。


(会いたいと思われないことよりも)
(寂しいと思ってもらえないことのほうが)
(――きっと、もっと。苦しいのだろう)



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