神ではなく君に誓うよ



 雨が降ってしまえば、霊圧の痕跡をこれ以上辿るのは難しい。そう判断して、既に採取したサンプルだけで調査を進めようと技術開発局へ戻ってきてすぐの事だった。


「――浦原隊長!隊長宛に通信が来てます!」
「おや?どなたからっスか?」
「霊術院の、輪堂と名乗る方からです」
「……分かりました。隊首室から繋ぎ直します」


 霊術院からの通信。通信機器の普及が追いついていない瀞霊廷内では、特に珍しい相手だった。そういえば、今調査している案件の被害者に、霊術院の生徒が居たと聞いている。もしかしたらそれについてかもしれない――なんて、悪い予感から目を背けて、隊首室に設置した受信機器を手に取った。


「――どォーも、輪堂サン。お久しぶりっスねぇ、どうしました?」
『ごめん。僕じゃ止められなかった』
「……はい?」
『翡葉さんが危ないかもしれない』
「ええ?……一体、何があったんです?」


 悪い予感とはすべからく当たるものなのだと――受信機器を持つ手に力が篭もる。


『彼女、きっと今、例の虚襲撃があった現場に向かってると思う。あの子……その事件で亡くなった学生と親しかったみたいで……弔いに、向かってる』
「……そうなんスね」
『僕は止めたんだけど……念の為、寮まで確認しに行ったら霊圧消えちゃってて。悪いんだけど、心配だから様子見に行ってもらえるかな』


 ――彼の言う“心配”とは。彼女の精神面を心配してのことなんだろうか。親しい人を亡くして精神的に堪えている状態で、虚が出現する可能性の高い場所へ向かっていること。それが危険だと言ってるんだろうか。

 ……否。きっとそれだけじゃない。彼女だって現場に向かうリスクが高いことは分かってるはずだ。そんなことが分からないほど、あの子は鈍くない。それに死神見習いとはいえ、ボクが真面目に相手をしなければならないほどの実力があるんだ。確かに心配ではあるし、様子は見に行くが……この男が焦って連絡して来るほどの要件じゃない。


「……要件はそれだけっスか?」
『うん。……忙しいところ悪かったね、』
「ヤダなァ、そんなわけないでしょう?……“その程度のこと”で、アナタが焦って連絡してくるわけがない。……何があったんです?」
『…………怖い人だよね、君って本当に』
「褒め言葉として受け取っておきましょう」
『でも。君なら一から十まで聞かなくたって、あらゆる可能性を想定して動けるはずだよね』
「……」
『彼女に関する危険を極限まで排除するために、全部聞こうとしてる。……違う?』


 その言葉に、ほんのわずか一瞬――息が詰まった。


「――ボクはもう、“隊長”なんです。今までと同じようにはいかないんスよ」
『……そう?君がそう言うなら。まぁ、そういうことにしておくけど』


 腑に落ちない声が通信機器越しに聞こえてくる。……やっぱり、相手の顔が見えない通信は苦手だなぁ、と。顔が見えないのをいい事に、思い切り苦笑いを浮かべた。


「……それで。アナタがわざわざ連絡してきた“本当の理由”は何なんスか?教えてくださいよ、一から十まで」
『いやぁ、そうしたいのは山々なんだけど……説明してる時間はあんまりなさそうだから、端的に事実だけ伝えるね』
「? はい」
『翡葉さんね、怪我してるんだ。しかも斬魄刀まで置いていってるから、絶対に戦えないと思う』
「――!」
『あと、上級生が君たちの悪口言ってるの聞いて怒っちゃってね。暴力沙汰になりかけて、あの子いま謹慎中なんだ。それなのに黙って勝手に抜け出して……普通に命令違反だよ』
「……おかしいなぁ。ボク、そんな風に育てた覚えはないんスけど」
『あはは、まぁそう言わずに。――様子見、お願い出来るかな』


 彼はそう言い残し、ブツリ、と通信が途絶えた。



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