言葉を交わすことはそれほど大切なことじゃあない
「……追いかけなくていいの?」
「!」
「まぁ、僕が頼んだのは“様子見”だけで、送り届けるところまでは頼んでないんだけどね」
「……はは、そうでしたっけ」
「嘘嘘、冗談。君じゃなくても、誰だってそうするよ」
「……」
「大丈夫、あの子にはもう無理させないから。怪我は明日にでも、四番隊に診てもらうよ」
「……ええ。お願いしますね、輪堂先生」
「……」
「……」
「……君。正しいことを言って傷付けてしまった、と思ってるでしょ」
「はい?」
「……はは、そっか。うん。……気がついてないなら、一つだけ教えてあげる」
「……何を、」
「あの子が傷ついたのは、君に頼ってと言われたからじゃない。君が、彼女の覚悟を――弱さだと決めつけたからだ」
「!」
これ以上はただのお節介だ。頭ではそう分かっていても……一途にこの男を想っている彼女の気持ちを考えると、このままにしておくのはどうも見過ごせなかった。
(僕も、あんまり人の事言えないなぁ)
「確かにあれは危うい自己犠牲だと思う。君の思ってる通り、大切なもののために命を賭けてしまえる子だと思うよ、彼女は」
「……」
「でもそれを――自分を軽んじてる、と呼ぶのは違う」
「……!」
「君の言葉が間違ってたとは思わない。ただ、一番読み違えちゃいけないところを間違えた。それは隊長だとか師だとか、それ以前の問題だ」
「……そうっスね」
「君が長年、人付き合いを放棄してきたツケが回ってきたんじゃない?どうせ十二番隊でも、ヘラヘラして表面上の付き合いしかしてないんでしょ。君、副隊長と仲悪いって風の噂で聞いたよ」
「……はは、痛いところ突いてくるなぁ」
「……君の言葉をあの子がどう受け取ったか。それを決めるのは、僕でも君でもないけどさ。……これからゆっくり、向き合っていけばいいじゃない。君たちならきっと、仲良くなれるよ」
「……そうっスね」
「まあもちろん、君があの子と仲良しでいたいなら、の話だけど」
「……」
彼はそっと目を閉じると、既に無用の長物と化した番傘をゆっくり肩から降ろして畳んだ。そして、足元だけは軽やかな音を奏でて、僕の追求から逃れるように踵を返す。……都合の悪いことをのらりくらりと躱すところは、
昔から変わらないな。そのツケが回ってああなったことを……彼は本当に理解してるんだろうか。
――「例の件、」と彼から小さな声が漏れる。続きを促すようにじっと彼の顔へ視線を投げれば「調査結果が出たらこちらから連絡しますから、それまでは現場に近付かないよう、他の生徒さん達にも伝えておいて下さい」とだけ言い残し、“十二”を纏った頼りない背中はどんどん小さくなっていった。
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