霧散する叫びは誰のもの




 ――ガキン!!

「!?」
「――やあやあ。危ないところだったね、翡葉さん」
「え、り、輪堂先生……!?」
「あはは、そんな熱い視線を向けないでよ。もしかして今ので惚れちゃった?」
「……うわ、本当に輪堂先生だ……」
「ちょっと。助けに来た人に向かって『うわ』とか言わないでよ。傷つくんですけど」


 そうは言いつつも、敵の攻撃を“刃”で防いでいる輪堂先生の横顔は、ちっとも傷ついた顔なんてしていなかった。月明かりを受けて煌めく銀髪に、夜空を溶かして作ったような美しい羽織を纏ったその姿が――今は少しだけ、ヒーローのように思えた。


「輪堂先生、どうしてここに」
「どうしてってそりゃあ、この実習は君の卒業試験なんだから。担任の僕が居るに決まってるじゃない」
「いや、そうじゃなくて」
「うん?」
「――なんで、刀もって、こんな戦場に、」
「……」
「『刀なんて握れないただの霊術院講師』だって、再三自分で言ってたのに、なんで、」
「それこそ、君を一人で戦わせる方が“霊術院講師”の名が廃るからだよ」
「……」
「まあ、だけど、僕のことは戦力としては期待しないでね。君ほど強くないから」
「……でも、」
「僕はただ、君を助けに来ただけ。戦いに来たんじゃない。……この意味、分かるよね?」
「……」


 柔らかい声色とは裏腹に、すっと細められた双眸には有無を言わせぬ強い意志が宿っていた。それはまるで――


「翡葉さん。始解して」
「!」
「大丈夫、君なら出来るよ。……修練場で鍛錬してたの、ずっと見てたから」
「……でも、」
「倒そうとなんてしなくていい。尸魂界に救援要請はもうしてるから、援護が来るまで耐えて」
「……」
「卒業試験は、“生きて帰るまで”が審査の対象だよ」


 ――まるで私に、一人で戦うなと言っている眼だった。



- 90 -


戻る  |  次へ


表紙

TOP