凶器


些細な事で怒ってしまった。百之助はいつも私が怒るとじっと無表情で聞いていて…やってしまったと頭を抱えた。いつもは百之助の横でスマホをしたり腕をぎゅっと抱きしめたりすると頭を撫ででくれたり頭を撫で返したり、私はそんな時間が好きで…とても好きで、だからいつも横にいるのだけれど今日は私が一方的になってしまったから、流石に行けなかった。謝ればいいのは分かっている、でも謝るって自分の非を完全に認めて言いたかった、よく言葉だけで非の心を持っていないのに謝るようなそんな人間にはなりたくなかったから。それに正直な事を言うと…気恥しいというものもある、ちらっと様子を見ると百之助は禍々しいオーラを放っていたし、チッと舌打ちもしている。やっぱり今日は横で寝るのではなくソファーで寝よう…近くに私が居るのは嫌だよねそう思い、ブランケットをリビングへ持っていく姿を百之助がイライラした顔で見ていたことは知らなかった



朝はいつも百之助のために弁当を作る。食べたくないかもしれないけどこれは私の仕事だからきちんと弁当と水筒の用意と朝ご飯も作る。彼は汁物がないと駄目な性格なのでお吸い物も作り百之助が起きてくる時間帯には出来上がるように動いた。

「あれ、いつもなら起きてくるのに…今日は遅いな」

いつもだと早朝の六時三十分には起きるのに彼は四十分になっても起きてこない、もしかしたら体調が悪いのかもと思い慌てて寝室へ向かう。大丈夫なのだろうか、お腹壊しやすい人なのでお腹でも痛いのだろうかと思いドアを開けて見るとベットの上にドアの方を向いて座っていた。見た所体調も悪くなさそうだとほっと一息を付きながら百之助の方を見ると物凄く機嫌が悪そうで私はすっと目を逸らし、ご飯出来ているよと声をかけて台所へ逃げるように向かう。

リビングへ来たと思うと、もそもそと朝ご飯を食べて何か言いだけな表情でこちらを見るが私はそれを無視をする。いつもなら一緒に食べてニュースを見ながらこの事件嫌だねとか、そんな世間話もするだが私は皿洗いなどいつもなら早く終わる作業をゆっくりと洗い百之助が出勤する時間まで時間を稼いだ。百之助は出勤のためのスーツに着替え弁当と水筒を持ち玄関へ向かっていく、お出迎えはどうしようかと考えているといつもは玄関で少し待っている彼がすぐに玄関のドアを開けて閉める音が虚しく響いた




夜ご飯どうしようかなと思うとピコンと通知が来る。『今日はいい』と夜ご飯はいらないと言うメッセージがスマホの画面に表示されていて正直ほっとした。夜ご飯は流石に百之助1人ではなく私も一緒に食べなければと考えていたからである。それに食欲が全然出なかったというものもあり、今日はご飯いらないかなぽつりと言った言葉さえもが虚しく私の耳に響いた、何をしているんだろうが私は




百之助が帰ってきたのは二十二時だった、いつもは二十時に帰ってくる。カチャカチャと鍵をあける音がしたのであぁ、帰ってきたんだなとかそんなことを考えて彼の方を向くと、酒をしこたま飲んで来たのか身体がふらつき、よろよろになっている。倒れそうになったので慌てて近寄り身体を支えると、私の方へ全体重をかけてきて一緒に倒れてしまった。うぅと頭を押さえて目を開くと百之助の顔が間近にあり、驚きながらもじっと見つめた。するとぎゅうと腰を掴まれ身動きが取れない、どうしようかと考えている間も酒に酔ってほんのりと頬を赤く染め何かを訴えるかのような目で見られ、何かに目覚めそうな危険な香りを感じてしまい、そっと頭を撫でる。目を閉じて気持ち良さそうに手に頭を擦り付ける百之助に、これは飲み過ぎだねとため息をついた。それと同時にこの姿をほかの女に見せたのだろうかと言うめらめらとした何かが心に募る

「(私は何を考えているの)…あー、百之助寝室へ行こう?」

そんな思いを捨てるように彼の頬に手を当てて言うと目を開き私の唇にそっと口付けをし離れたくないと言っているように首元にもキスをされる。いや本当に勘弁して欲しいと思い「こーら、おいたはだめでしょ」と言って止めさせる、参ったなと心の中で呟くと反対に今なら謝れるのではないかと思い百之助を見る。うっとりと目をとろんとさせている彼を見ながら口を開いた

「昨日はごめん…言い過ぎだ。トイレの電気を消し忘れていたぐらいであんなに怒ることはないよね…本当にごめんね」

しょうもない発端と自分がやらかしたことを素直に謝ると目を丸くしぎゅうとまた力を込め始める彼のおでこにちゅっと口付けをする

「…なんで別々の部屋で寝たんだ、待っていたのに」

「近くに寄られるの嫌かなと思って」

「…嫌なわけあるか」

不貞腐れた顔で可愛い事を言う百之助にふふっと笑い話すと、嫌なわけないと無表情な顔で言って寂しかったと私に話す、もう本当に勘弁してくれないだろうか。酔った彼は私には刺激が強すぎる、お腹にすりすりと顔を埋める彼に酒は飲ませないようにしよう、本当にこれは凶器すぎると頭を撫でながらそう思った




次の日、頭を抱えて「飲みすぎた」という男に「もう酒飲まないように!」とごんべえは言うと百之助は首をかしげて前髪を撫でると俺は何かしたんだろうかと悩み、愛する彼女ごんべえに聞くが顔を赤くして「凶器すぎるからだめなの!」と怒られ意味が分からないと疑問を強くしたのは言うまでもない