ぬいぐるみ
「尾形さーん、すいません私はこれで」
「あぁ」
職場で彼女がお先に失礼しますと早足でその場を去るのを確認すると同僚がヒソヒソと話を始めた
「最近彼女帰るの早いよね」
「もしかしたら彼氏なのかもしれないよ」
「ありえるかも!あの嬉しそうな顔絶対そうだよ!」
キャピキャピと話す二人は女の子同士の会話に見えるだろう、しかし男同士の会話で話しているのは杉元と白石であった。尾形は気持ち悪そうな顔をしてなんだこいつら…と白い目で見ていたが話している内容が気になり耳にその話題がすんなりと入っていく、彼氏だと?会社内の野郎ではない確実に、額に青筋を浮かばせながら考える尾形は彼女に虫がつかないように徹底的に潰し排除してきた、しかしその努力が泡になって消えるかもしれないと思うと居ても立っても居られずに帰宅の準備をし後を付けることにした
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私にはバレたくない秘密がある。その秘密のためなら私は彼氏などいらないと思っているほど執着をしていた、きょろきょろと仕事帰りに周囲を見渡し見知った顔がいないと確認をするとそのお店へ向かっていく、あぁオアシスが目の前に広がっていく…!かわいいよ!ん猫ちゃん!!猫ちゃん!!むにっとした感触ふわふわモコモコとした物体、そう彼女はぬいぐるみ大好きな女だった。ぬいぐるみを触りながら恍惚の表情を浮かべていると後ろから、は?と声が聞こえたので振り向くと尾形主任が居た。二人の間に沈黙が流れ、ファンシーな店内の曲と尾形さんの厳つい顔がミスマッチをしていて似合わないなと脳内は現実逃避をさせるためかそんな考えを私に植え付けている…ちょっと待ってなんで彼がここに居るのだろうふと我に返り持っていたぬいぐるみを後ろへ隠すと尾形さんがため息をつきながらこちらへ来た
「…え、えっと尾形さん、もふもふしに来たのですか?」
「俺がそんなことすると思うか?」
「い、いえ滅相もございません」
もふもふしに来た尾形さんを想像してみて笑いが出たが尾形さんの低い声を聞いて訂正を入れる。横へ来たかと思うと私の手からぬいぐるみを奪い取った
「あぁ…!私の癒しが!」
返してと腕を伸ばすがじろっと睨み付けられ蛇に睨まれた雛のようにひゅっと腕を戻すとなるほどなと声を上げて彼はレジへと向かう、プレゼント用に包装してくださいとそう声を店員さんに掛けていた。綺麗に包装されていくにゃんこのぬいぐるみを恨めしそうに私は見ながら彼女さんにプレゼントするのかなと思い、おのれ私がそのにゃんこを手に入れていたのにとギリリと歯軋りをし睨み付ける。すると私の方へ戻って、行くぞと声を掛けられた。着いていく必要性も無いのだけれど何処か声に抗えなくて…はいと彼の後ろを着いていく
私が好きなお店は職場の近くのショッピングモールの中にあり、噴水広場や観覧車なども設置されている。尾形さんは噴水広場に私を連れていくと、さっき包装されたぬいぐるみを私に無理やり手渡した
「欲しかったんだろ」
「え?、で、でも尾形さん渡す人がいたんじゃ」
「渡す人はお前しかいねえだろうが」
混乱する私に前髪を撫で上げ真剣な眼差しで爆弾発言をする彼に開けてもいいですか?と聞くもちろん中身は知っていたが尾形さんの目の前で開けたかった、別にいいが中身は知っているだろと口角を上げて言う彼を後目にガサガサと音を立てながら癒しのぬいぐるみを胸に抱いた
「ありがとうございます…尾形さん。一生大事にしますね」
家宝にしますと言うと、尾形さんは目を見開いてそうかと呟いた。噴水のイルミネーションと彼の無表情な顔を見て思い出したかのように私は口を開いた
「あ、あの私が、ぬいぐるみが好きなのはみんなには黙っていて下さい…」
ぬいぐるみに顔を押し付けてもごもごと私は彼にお願いをする。この歳になってぬいぐるみが好きだなんてバレたらからかわれる、絶対に、特に白石君から…。
「分かった、但し条件がある」
条件って何だろうと顔を上げると尾形さんはニヤリと笑って口を開いた
□
後日尾形さんと私は一緒に店に出向くようになった。何故なら条件が『この店に来る時は俺も着いていく』と言ったからである、私はそれぐらいなら是非!と言うと満足そうに口角を上げていて…それを見た私は胸が高鳴った事を昨日起きた出来事のように記憶している。彼と一緒にお店に行くと私が欲しいものをすぐにレジに持って行こうとするのは辞めて欲しい…でもお揃いのにゃんこのストラップを私が買ってプレゼントをした時はすぐにスマホへ付けてくれて「お揃いですね」と言うと「そうだな」と耳が赤くなりながら無表情で彼は言った事も心の中に記憶していて私が尾形百之助という男に夢中になっていったのも仕方がないことだと思う
ちなみにお揃いのにゃんこのストラップをスマホに付けている所を杉元君にバレて色々と問題になった話はまた別の機会に