拘束


太腿と手首に赤い拘束具ががっちりと嵌められている。鎖が手首と太腿を繋ぎ、太股の拘束具は腰のギプスの様なものに繋がれていた。身動ぎをし外そうとするが特殊な物なのかビクともしない。両手首を擦り合わせても鎖が虚しく音を立てるだけだった。

足音が聞こえると音の鳴るほうへ女は双眸を向ける。男がこちらへ歩いてきていた。足取りはとても緩やかである。獲物が捕らえられ逃げられないと分かっているからか顔には穏やかな笑顔さえ見せた。その笑顔がとても今は恐ろしく感じ後ろへ下がるが太腿と手首が固定されているため立つ事も難しい。この状況を作り出したあの男だろう。こちらの姿を見ても驚きもせずに笑顔を見せて来ているのだから。しかしどうすればいい。このまま何をされる?嫌な予感しかしなかった。男は蒼白の顔を見せる女の前に足を止める。女はその男の磨かれた革靴を眺めて口を開いた。

「…私をどうする気なの」

掠れた声だった。自分の声だとは思えない掠れた声。どうやら私は声をだすのも久しぶりのようだ。ここへ捕えられてどのくらいの時間が経ったのかさえも分からない。ただ分かるのは仕事帰りに何かを嗅がされ気絶したかのように暗闇に包まれる意識だけ。

「男と女がする事など分かるだろ?」

男と女。その言葉に全てを悟った。この人に私が何をされるかさえも。分からないままで居たかった。恐怖で身体が震え、身体が精神を安定させるために涙を流させる。なんで私なのだろう。どうして、と放心する女に男は笑いしゃがみ込むと顔を掴み顔を上へ向けさせた。男の顎に独特な手術痕があり、整えられた髪型、素人でも分かる高級ブランドの服を身に纏う。女など不自由はしてなさそうに見える男がどうして私を…。

「どうして、私なの、どうして…」

男の指に涙が伝う。それを眺めている男に聞くと手を顔に当てて心底面白そうに笑う。嗤う。嘲笑う。

「どうしてとは面白いことを言うなお前は…ここまでスムーズにお前を監禁するのにどれだけの時間と金がかかっていると思っているんだ?その質問の意図は私でなくてもいいはずだと考えているのか?それは違う…違うぞごんべえ。俺がどれだけお前の事を恋焦がれていたか…」

恍惚な表情をしながら指に付いた雫を舌で舐めながら言う男に身体が危険信号が走る。逃げろと。逃げないとお前はこの男に捉えられたままだと。身体を捩る。先程試したので分かったはずなのに、もしかしたら外れるかもと脳が囁く。目の前に男が居るということさえも忘れて必死に身を動かした。

男はそれさえも感慨深く見つめる。目の前に求めていた物が居るからだろうか?それとも蝶を剥製にし壁に飾るあの高揚感が男を包んでいるからだろうか?それは尾形にしかわからなかった。歪んだ執着心、加虐心、好奇心、慈愛心が満たされていくのを感じながら尾形百之助は愛おしそうに女を見つめる。

「愛している、ごんべえ」


鎖が虚しく音を立てる空間で愛の言葉を囁いた