絆される


「隣に住むホモカップルがうるせえんだ。聞いてくれよ。ずっと毎晩毎晩あんあん泣いているんだ。ふざけるなよ。女の鳴き声ならまだしも男同士で姫とか親分とか大声で叫びながらヤってるのを聞かされて寝れるやつなんでこの世の中居るのか?壁ドンはしたさ、反対に止めるどころか悪化したし管理会社にも連絡したが何にもならなかった。という事で泊めてくれ」



夜中に来たと思えば死にそうな顔をしており理由を聞くと溜まっていたのか愚痴を吐き捨てていた。顔を覗けば隈が出来ている。同じマンションの馴染みだからと言って、付き合ってもない男を泊めさせてもいいだろうかと悩んでいるとゆらりと身体を揺らし台所へ向かおうとする。何をする気なのだろう。

「尾形?」

「ちょっと包丁貸してくれ。あいつらやってくる」

やってくるとは殺ってくるの意味で。それならば自分の包丁を使えと言えば、「道連れだ」と血走った目でこちらを見る。このまま放っておくと本当に殺人が起こりかねない。泊まっていいよと言えばそのまま器用に倒れて寝息を出しながら寝る。

「そんなに疲れていたの?」

そこで寝られると邪魔になるのだけれど仕方がない。夏布団を掛けてやり頭を上げて枕を下に敷いてあげた。何に対しても動じない男が隣室に住むカップルで動じるとは世の中は広いなと尾形の頭を撫でながらそう思う。何処か安心したような寝顔で寝る彼は可愛げがある。翌朝、彼は居なくなっていた。いつの間にか寝ていたらしく尾形に掛けていた布団が私に掛けられている。尾形の残り香がふわりと布団から漂っていて、なんとも言えない気持ちになってしまった。


仕事から家へ帰ると尾形が私の住む部屋の玄関ドアに背中を預けていた。もしかして自分の部屋と間違えてるとか?でも階数違うし…。私に気付き視線をこちらへ向けると近くに寄ってきた。

「尾形?どうしたの?」

「今日も泊まらせろ」

間髪入れずにそう言って私の手から家の鍵を取ると勝手に部屋の中へ入っていった。まだ何も言っていない。呆然としているとシャワーの音が聞こえ始めひくりと頬を動かした。自由奔放にも程がある。

それから次の日もそのまた次の日も家へ泊まりに来た。

流石にこれは度が過ぎているのでは?と思い、休みの時の日には居留守を使ってみる。が、いつの間にか作られていた合鍵を使われて入ってこられた時は固まった。
飄々とした様子でそのまま尾形専用になった座椅子へ座ると

「居留守を使っても無駄だな」

そう言って寛ぎ始めた彼の姿を見て諦めた。犯罪ですよと口に出すのも疲れていたのかもしれない。尾形が仕事休みの日も家に来て自分の我が家のように寛ぐ中で尾形の私物もどんどん増えて行く。彼氏が居なくてよかった。いたら修羅場になっているに違いないと遠い目をしながら男物の洗顔クリームを見つめた。


いつの間にか二人分のご飯を作るのも無意識になり始めた頃に私はふざけ半分に口を開く。尾形なら拒否をし自分の借りる部屋へ戻ってくれる事を期待しながら。

「もうこのまま一緒に住んじゃう?」

食パンを掴む手がピタリと止まり無表情で私を見つめるとそのまま何事も無かったかのように食べ始める尾形を見てそのパターンで来たかと苦笑いした。帰ることもなく一緒にテレビを見て、ご飯を食べて、別々で寝る。いつものようにその日は過ごした。


一週間後、寝ていると玄関の方から物音がうるさくて目を覚まし玄関へ向かうと尾形が段ボールをいくつか持ち運んできていた。

「尾形何してるの…?」

「マンションの契約打ち切ってきたから荷物をこちらへ運んでいる。」

「…何で?」

「一緒に住む?ってごんべえが言ったんだろ」

その言葉に何も言えなくなってしまい途方に暮れた。口は災いの元と言うがその通りなのかもしれない。そう言えば隣に住むカップルはどうなったのかと聞くと「ははっ、知らねえな」口角を上げてそう言った。


今日も尾形は彼専用になった座椅子で寛いでいた。私を後ろから抱き締めながら。家事が出来ないと反抗したがそれでも尚離れてくれない。ため息をつきながら仕方が無いなと呟く。彼の頭が肩に乗せられたので頭を撫でた。身動ぎをしたかと思えばさっきより強く抱き締められる。嫌ではないらしい。今日のご飯は何にしようかなと考えながら撫で続けた。

「あんこう鍋がいい」

驚いて尾形の顔を見る。一緒に暮らしているからか考えている事さえもバレてしまっているらしい。頭を撫でていた手を握り締められると「どんなもんだい」と誇らしげに笑った。