弁当屋


弁当屋を営んでいる私は猫の手が借りたいほど忙しかった。ここの立地は近くに大学や中小企業が多く、昼になると弁当を求めて沢山の人がここへやってくる。その前に炊事場で弁当をいくつか作っておき、出来上がった弁当を保温庫へ入れる作業を進めていた。いつもバイトに入ってくれる杉元君は用事があるため行けないと心底申し訳なさそうな顔で私に告げていたため休みにした。あの子は頑張りすぎな所がある為、もっと休んでくれてもいいのにな。

「…すいません」

「はい」

お客様が来ていたらしい炊事場からレジの方へ向かうと男性がそこへ立っていた。眼帯を付けていて何処か痛々しい。

「お待たせして申し訳ありません。ご注文は如何になさりますか?」

「アンコウの唐揚げ弁当を」

金額を告げて支払われると私はお釣りとレシートを渡して「5分ぐらい掛かりますが大丈夫ですか?」と告げると頷いた。そのまま炊事場へ向かい、店で仕込んだアンコウを衣にまぶして油の中へ入れる。視線を感じて後ろを向くとレジの向こう側から男性がこちらを見ている。アンコウを調理するのは珍しいのかもしれないなと思い、そのまま手を動かし調理に専念をするために手元へ集中させる。

「お待たせして申し訳ありませんアンコウの唐揚げ弁当です。」

差し出した袋を持ってお店を出ていく姿を見守りながら「ありがとうございました」と伝えて調理場へ戻った。仕事をまた進めるために。





飲食業は身体が疲れる、お店をいつもより早い時間に店じまいさせた。立ち仕事なので腰が疲れふくらはぎは痛み、単調な仕事なので肩と腕が悲鳴を上げる。それでも続けられているのは自分のお店を持つことが出来たからだと思う…でも一番の理由は頑張り屋さんのバイトくんのお陰かな。お店の戸締りをきちんと確認し終えるとゆっくりと帰路へつく。

「久しぶりに1人で回したなー。今日はゆっくりとお風呂に入りたい」

肩をとんとんと叩きながら歩いていくと、どこかで見たことある男性が路地の隅っこで座り込んでおり、体調でも悪いのかもしれないと近くへ寄ると朝来ていたお客様で慌てて声を掛けた。

「ねえ、大丈夫?」

「…放っておいてくれ」

顔に青タンが出来ており所々血が付いている。こんな状況で誰か放っておけるものだろうか。

「ちょっとここで待っていて」

近くの薬局へ向かい薬や包帯などを買い男性の元へ向かうと、目だけこっちを向けて様子を伺っていた。

「選ばせてあげる。病院へ行くか、私の家で治療もどきを受けるか、どっちがいい?」

にこりと笑って男に話し掛けると顔を顰めて口を開く。

「放っておいてくれと言ったはずだぜ」

「それが嫌だからここに居るんだけど」

そう言うと無理やり立とうとしてふらつく身体。転ぼうとなりそうになる所を上手く支えると「じゃあ、あんたの家で頼む」とそう言って自嘲気味に笑った。

家へ着くと傷口を処置していく。「慣れたもんだな」と言われたため「いつも怪我してくる子が居るからね」と答えると男は何か考えるように前髪を撫で付ける。応急処置が終わるとじっとこちらを見つめてきた。

「あんた、杉元って奴をバイトで雇ってんだろ?」

「雇ってはいるけど…杉元くんとは知り合いなの?」

「なんで雇ったんだ、あんなやつ」

あいつはカタギじゃねえんだぞと言いながら。杉元くんを雇ったのは店の前で倒れているのを発見したのが始まりだった。怪我では済まない大怪我を全身に受けており、救急車を呼ぼうとしたら腕を掴まれて「救急車…は、やめてくれ」と言われたので途方に暮れながら家へなんとか運び入れて素人同然の応急処置を施した。目を開かない杉元くんに焦りを覚えながら看病していったが、いつの間にか寝ていたようで目を開くと上半身を起こして杉元くんが私を見ていた。

「どうして、俺を助けてくれたんだ」

「人を助けるのに理由はいるの?」

私なりの答えを言うと眉を下げて泣きそうな顔で「俺を人として扱ってくれるんだな」と笑った。それで、恩返しをさせてくれと頼み込む杉元くんが店で働き始めたことを彼に伝えると無表情でこちらを見ていて私も男を見つめる。

何かこの人取っ付き難い人だなと思いながら見ていると顔が赤いことに気付いて男のおでこに手を当てると、びくっと驚きながらされるがままになっていた。

「やっぱり熱があるね…休んだ方がいい。」

手を下げようとすると手を掴まれると男は熱に浮かされた目をしている。

「俺も手懐けようとしているのか」

挑発的にいう彼に私もそれに返した。

「えぇ、野良猫を手懐けるのも面白いかもね」

「じゃあ手懐けてみろよ」

顔を近付けキスをしようとした男の頭を押さえて寝かせるとむっとした顔で言いたげな表情をした。

「まずは名前からね」

「尾形、尾形百之助」

「了解、百之助くん寝ようか」

にこりと笑って告げると百之助くんは「いきなり名前呼びかよ」と何処か呆れた表情で私を見て「たらしめが」と呟いた。