飲みすぎはダメ


ネオン街が怪しく光り続ける夜中の二時、尾形は白石から呼び出されていた。

「そこのお兄さん、いいお姉さん揃っているよ!」

「あ?俺が女に飢えていると思ってんのか?」

キャッチの男が尾形へ向かい声を掛ける。尾形は笑いながら答えると顔を見て小さな悲鳴を上げて逃げるように去っていく、何故なら尾形の顔は青筋が立っており、殺意が込められていた。

『尾形ちゃんの彼女飲ませすぎちゃった…』

あの馬鹿女が飲み過ぎてしまっていると連絡が入り、詳細を聞くとテーブルに突っ伏しているとの事。居ても立っても居られなくなり、仕事終わりにも関わらずまた外へ出て行かなければならなかった。普通そこまで飲むか?俺なら飲まない。ごんべえが一緒に飲んでいたのが白石だったからいいものの、これがもし好意を持つ人間だったら持ち帰りされたに違いない。


居酒屋の前に着くと白石がごんべえを抱えており、こちらに気付いて片手を振った。

「尾形ちゃん!こっちこっち!」

白石に近付き受け渡される人物に溜息をつきながら「悪いな」と伝えると「いや、大丈夫」受け答えが返ってきた。頬が赤く、目を閉じた顔はとてもそそられる物があり何とか堪える。

「じゃあ俺は帰るわ、ごんべえちゃんによろしく伝えといて」

そう言って背中を向けてその場を去っていくのを確認するとごんべえを揺さぶり起こさせる。一言言わないと収まらねえ。お前は何しているんだと言ってやりたかった。

女は目を少しずつ開けて見るとへにゃりとした笑い方を尾形に向けて口を開く。

「ひゃくのすけだ…」

「あぁ、…って何をしてやがる」

ごんべえはぎゅっと尾形の腰を抱き締めると胸にぐりぐりと頭を押し付けて「ひゃくのすけの匂いだ…」と嬉しそうな声色で言われて頭を押さえる。何だこの可愛い生き物は。

「おい、少し離れろ」

「やだ…離れたくない」

いつもはそんなに甘えないだろお前…。 酔うとこんなになるのか?俺は聞いていないし、知らなかった。頭を撫でてやりながら考えていると邪な気持ちが頭によぎる。お前はこんな姿を他の男に見せていたのかと。

「もしかしてお前、俺以外のやつにもこんな姿を見せていたのか?」

口に出すと、俺の顔を見て頭を傾げて困惑するが、質問の意図が分かったのか答えを口に出して言った。

「ううん、百之助しか見せてないよ。だってこんな風に抱きつくのも百之助だけだから」

それに百之助がいいと小声で言ってまた顔を押し付けた。こいつ、わざとしているのか?俺の心を弄びやがってクソ女が。付き合って何か月か経ったがキスも身体を重ねたこともない。だがここで欲のまま襲ったら今までの努力が無駄になる…信頼を築き上げじわじわと攻め立てるやり方を好む男はぐっと我慢しごんべえを家に送り届けようとした。

「家へ帰るぞ」

「帰りたくない…」

目を潤ませて帰りたくないと言われて張り詰めていた糸がプチンと切れた。この女は言っていることがわかっていない。今まで俺がどんなに我慢していたかも知らないで俺の体に自分の身体を密着させる。クソ女、くそ、くそが!

「今日は俺の家に連れて帰る…それからもずっと、お前は俺の家で俺を待ってろ」

そう言うと嬉しそうに顔を弛めて「分かった」と俺に告げる。俺の家で何をされるか、この女は分かってもいないし、多分だが、こいつは今日のことは覚えてないだろう。明日俺の横で、どんな反応をするか楽しみだ。ごんべえの身体を抱き上げてネオン街の夜を歩く尾形はそう思った。





翌日、尾形とごんべえは裸で抱きしめ合っていた。身動ぎをし始めたごんべえを胸元に引き寄せる。どうやら起きたみたいだなとほくそ笑みながら、目を覚ましたごんべえは眺めていた俺が起きたことは気付いていないらしい。胸元でおろおろと困惑する彼女を見てぎゅっと力強く抱き締めるとびくりと身体を震わせる女の耳元に唇を寄せて囁いた。

「俺の家で暮らすんだろ?」

「ひぇ!?」

「思い出すまで、ここから出さないからな」

何も思い出せなくて慌てるごんべえを見てざまあみろクソ女が俺の心を弄んだ罰だと思いながら次はどう結婚へと繋げていくか計画を立てて行った。