俺にしとけば良かったのに
「別れよう」
雨の音が響く中で「お前の傍に俺は相応しくない」と苦しそうな表情で言われた。雨を降るたびに思い出し、じくじくと胸に痛みが走り思い出さないように蓋をしたがそれでも思い出してしまう。相応しくないってなに?そんなの誰か決めたのだろう?誰か最初にその言葉を言って別れの常用句にしたのだろう。違う、言葉を最初に使った人が悪いのではない、ちがう
「あいつが私と別れたかったからその言葉を使っただけなんだよ…」
空は曇り止みそうにない。
窓に打ち付ける水滴を女は冷めた目で見つめ涙をまた流した
六月は雨の季節だ。何度も何度も雨が降り続く嫌な季節私はそれに耐えられるのだろうか、耐えなければいけない
「休日出勤がしたいだって?でもいいの?」
「はい。全然大丈夫です」
「分かったよ。じゃあよろしく頼むね」
肩をぽんっと叩かれ席へ戻っていく上司を見遣ると私も席に戻りカタカタカタとキーボードを叩き打ち込みに専念をする。前から目線を感じたのでそちらに向けると無表情にこちらを見つめる男がいたがすっと目線をそらした
休日の日はやっぱり雨で空を忌々しげに睨んだ。職場へ着くとカードキーを使いドアのロックを解除し中に入る。やはり休日出勤になると人は少なく仕事に集中出来そうだとほっと一息をつき席へ着く。パソコンを起動させパスワードIDを入力し起動されるそれを見るとまた視線を感じた(またあの男だ)と舌打ちをしたくなったがぐっと我慢をし「なんですか?」と聞いた
「いや、珍しいなと思ってな。いつもは休日出勤なんてあんたしねえじゃねえか」
「今月厳しいので入っただけですよ」
「へぇ、そうか」と自分から聞いておいて男は仕事を進め始めていた
私もさっさとしなければ
マウスのクリック音、キーボードの叩く音と雨の音だけが聞こえていた。そう言えばと同僚から変な男の噂を聞いたなと思い出す確か女を寄りつけない男がいると名前は「尾形百之助」と思い出した途端に声に出していた
「なんだ呼んだか?」
「…あ、いえなんでもないです。すいません」
「そう言われると反対に気になるじゃねえか、なあちょっと不躾な質問をしていいか?」
不躾な質問だと言うことを知っておきながらこいつは問うのかと
女は男をみてため息をついた
「いいですよなんですか?」
「…お前男と別れたのか?」
手が止まった。何故それを聞いた。確かに不躾すぎる目が泳ぎキーボードの上に置いてある手を見つめ「…それを聞いてどうするの」と敬語を外し答えにならない質問を男に問いかけた
「その様子だと別れたみたいだな」
心が痛い、思い出したくないのに休日出勤までしたのにここでさえも無理だなんて答えるのも億劫になり震える手でキーボードを打った。尾形が椅子を引き女の席へやってくると隣の席に座りパソコンを起動させていた
「尾形さんの席あっちですよね?」
「あっちはログアウトさせた。そしてこっちでも自分のIDパスワードを打てばなんの問題もない」
「…じゃあ私が向こう行きます」
「なあ、泣きたかったら泣けよ。俺は隣に居るから顔も見れねえからな。お前顔が酷いぞ、泣きたくて仕方ねえのに我慢している顔をしている。我慢していても仕方がねえからな吐き出すもん吐いてうまいもの食って忘れろ。人間それで生きられるだろ」
ログアウトさせようとすると尾形が隣から慰めの言葉を私に言っていた。驚いたそんな言葉を吐ける人とは思わなかったから、それと同時に悲しくなった。いつも慰めてくれていた彼が隣にもう居てくれないんだなと気付いてしまったから
涙が零れて頬につーっと流れると隣から無言でポケットティッシュを差し出す尾形の手を女がぎゅっと握るとぎゅっと握り返してくれた「少しだけ手を貸してください…」震えた声で女は言うと尾形は「いくらでも貸してやるよ」そう言って手の力を強く握り締めた「っ、…ひっ、うぅ」と涙を流す女を見て、気まずそうに頭を撫でる
「馬鹿な女だな、本当に」
頭を撫でる手を頬に移し涙を指で