この男から逃げられない


シャワーを浴びながらもうこの関係を終わらせたいと考える女がいた。下を見るとシャワーから出た水が排水溝へと流れていくこの水のように関係も流してしまえばいい。簡単な事だ男が寝ている間に荷物を持ち玄関から外に出て鍵をポストに入れればそれで終わりな関係なのだからと女は思案する。




男と出会ったのは1人で酒をのみ子洒落たバーのマスターに愚痴を言いながらマスターの困った顔を見、それを笑うと言うクソみたいな遊びをしていた時に男に「お前くそみたいな女だな」とハッキリと横目で見て言われたのが初対面だった。まぁその時は私も自分でもクソだと分かっていたので「悪い?」と言うと「…悪くない」とニヤリと笑い持ち帰りをされたのが始まりだ。それから男は普通に色んな女を取って食い捨てるを繰り返していたらしくバーのマスターから入店禁止を貰ったとの噂を聞いた。勿論私も捨てられるだろうと何の感慨もなくそう思ったよくある話だ。されたくなければ1人で酒飲んで得体の知らない男の誘いに乗らなければいいそれだけで男が悪いだの女が悪いだのは関係ない。自分がそうしたからその結果になったそれだけの話なのだから


漢字ふりがな仕事が終わりストレス発散に行きつけのバーに行く所で男は待ち伏せしていた「よお」と笑いながら近付いてくるので無視をして歩くと目の前にわざわざ来て足を伸ばし通せんぼをした

「無視するとは酷いじゃないか?さすがに俺も傷付くぞ」

「ごめんなさい、あなたにはもう興味がないの」

目線を合わせずにそう言うと男は愉快に笑った。変質者として警察に通報した方かいいか等と考えていると「俺がやり捨てされるとはな」と鼻で笑った。




ぴちゃん、ぴちゃん、ぴちゃん

水滴が床を叩きつけ音が鳴り波紋が広がるのを私は見ながら何故今、昔の記憶を思い出しているのだろうかと自問自答した。分からなかった。男が使っているシャンプーや髭剃りなどを見てふふっと笑い「私、迷っているのかな」と声を出すとその声が脳内に響き渡った風呂から出ると替えの洋服を着てリビングへ向かう。すると「長かったな」とツートンブロックのオールバックの髪型をし整えた髭、表情のない顔の男。尾形百之助はその顔を私に向けて咎めるように呟いた。「悪い?」「いや悪くねえ」尾形は女の方へ向かうと「何を考えていた」と責めるような口調で問う。私はそれに対して「…考えていたとしてもあなたに言う必要なんてないわ」とあしらうと無表情で私を見つめた。この男の癖のようなものだ猫が意味なくじっと天井を見るみたいにこの男も意味もなしに人を見つめる癖がある。「…寝ないの?」「寝て欲しいのか?」と尾形は間髪入れずにそう言った。

そして面白そうに尾形は話し始めた

「なあ、俺を捨てる気だろ?寝ている間に荷物を持ち玄関から外に出て鍵をポストに入れればいいとか考えていたのだろう?」

女はギクリと身を震わせた何故この男はそれを知っているの

「俺はなあ?ちゃんと人を見ているんだよ 特に執着を持った人間の行動、表情、呼吸の仕方、ほら今瞬きしただろ?それは驚いた時にする癖でその手を動かす癖は恐怖を感じているな?ははっ!」

男が笑うそれに対して声を荒らげた

「どこに笑う要素があったの!?」

「笑えるさ、だってお前は俺のことを知らない。知ろうともしないこんなに俺はお前のことを知り尽くしているのに、お前は知ろうともしないんだ。なあもうお前は逃げられないんだ一生な、諦めろよ。お前の友達関係、家族構成、親族さえも調べ上げたんだ。凄いだろ?次はお前が俺のことを全て知る番だ」

手を引かれ寝室のベットへ私を押し倒し尾形百之助の表情のない闇のような瞳を私は見つめた瞳の中に恐怖で怯えている私の表情が写し出されていて

それを男は愉快そうにもう一度笑った