代償


目の前の男は感情が制御出来ずに男の上に跨り殴りつける。血飛沫が飛び、殴られている者は身動き一つさえも動いていない。彼の表の顔だけを知っている人はこの姿を見ても尚関係性を持とうするのだろうか。驚愕するだろうか?それとも逃げるのだろうか?

「クソがっ!殺してやるッ!」
「杉元…もう死んでいる」

声を掛けるとピタッと握り拳を顔の横で止めて私の顔を見て悲しそうに笑う

「はは、はははは、まだやっちゃった…どうしよう」

頭を抑えて狂ったようにどうしよう、どうしようと壊れたスピーカーの様に何度も繰り返し問い掛ける

見慣れた光景だった

それは過去も今も何度も繰り返してきた負の螺旋
なぜこの男の記憶を消さなかったのだと運命を呪った、神を呪った、全てを呪う
幸せに生きて欲しいと願ったアイヌの少女の願いを踏みにじる行為じゃないかと全てを呪った

転生されて杉元佐一に会ったのは偶然で、奇跡で…会うことが義務付けられたかのように思える。私も記憶持ちであった

過去の歴史を無理矢理頭に植え付けられたかのような感触と昔とは違う目の前の光景を見て発狂した。発狂した私を気味悪がった親は精神科へと入院させると薬漬けにされる毎日。過去の記憶が頭に流れると言ったところで、それは普通の人ではありえないことだったから仕方がない事だと何処か冷静な頭でそれを受け入れた

その時に出会ったのだ杉元佐一と

「不死身の杉元だッ!!」

病院で聞いた時は心臓が止まるかと思った。過去の歴史は偽りではなく本当の出来事なのだと嬉しさを噛み締め、声の元へ駆け寄るとそこで見たのは狂ったように壁を殴り付ける彼と必死に止める医療関係者の姿

「…すぎもと」

震える声で呼び掛ける。怖かった。もしかすると私もああなっていたのかもしれないと冷水を頭に掛けられたような、そんな感触を覚えた
彼は私の方へ顔を向けると嬉しそうに笑い「ごんべえ見つけた」と言う。血塗れの壁と、壁を殴り付けていたからか皮膚がめくれ上がりぽたぽたと血が流れ床へと落ちていく、その手を私に差し伸べながら純粋な顔で笑いながらそう私に言ったのだ

私達は今を生きながらも過去に縛られている

それが私達の人殺しの代償なのかもしれない

身体を震えさせている男の背中を抱き締めると血塗れの手で私の手を掴んだ。どうか瞳の綺麗な少女がこの男を見つけないようにと天に願った。あの少女だけは幸せに生きて欲しい。優しい子だ、記憶持ちでなくても杉元を助けたいと動くのだろう。そして記憶持ちでなかった場合、この男は何をしでかすか分からない。思い出させる為に違法な行為を使ってでも思い出させようとするのだろう。そう考えてこの男に捕まらせる訳には行かないと心に刻んだ。


あの子は私の希望で救いなのだから