墓穴
ビデオからDVDに、ガラゲーからスマホに、テレビはブラウン管から液晶にどんどん時代が移り変わりゆく中私は時代に置いてけぼりにされている気がしてならない、周りの人達はそれに上手く適応されていて自分だけ昔の時代に取り残された気がする。それを人に話すことはない話した所で何もならないから、もし話したとしてもどうした?と聞かれるだけで終わるだろうなとため息をついていると隣でレンタルDVDを一緒に選んでいた基が怪訝そうに口を開いた
「どうした?」
よりにもよってその言葉かと少し笑うと眉を顰めて私を見る
「私だけ過去に取り残された気がして辛いなって思って」
レンタルショップの店内には今流行りのJポップが流れており私の好きな映画が旧作コーナーの隅っこに置かれているのを見つめながら彼に言った
「過去に取り残された…か、昔の男でも忘れられないのか?」
何を言っているだろうかと基に目を向けると何かを堪えるような顔で私を見つめている。えっと、何か勘違いをしていない?と聞くと
「何がだ、もしかして浮気でもしているのか」
他の男の人よりは低い身長なのに何故か迫力は他の男性より強いためかじわじわと私に近づいて責めるような口調で私に問い掛ける彼に対して恐怖を感じ…こんな彼の姿を見るのは初めてだと息を呑んだ
「しているのかしていないのか」
「していない、それに過去の男は貴方と付き合い始めてから…幸せ過ぎて思い出していないよ」
本心を伝えると目を見開かせ視線を下に落とすと…良かったとそう呟きながらほっと息をつく彼を見て何故かもやもやとした気持ちが私の心にじわじわと侵食していく
「…基だって、」「なに?」
「はじめは初恋の人を忘れられないまま生きているの分かっているけど2つの想いを心に秘めながら…貴方のような器用な真似出来ないよ…あなたと一緒にしないで」
はっと気付けば私の口から彼の傷口を弄る言葉を伝えていて不味いと彼を見ると傷付いたような顔をしており…ああ私は彼の墓穴を掘ってしまった口に出してしまったと後悔をするが言ってしまったものは取り返せない。ごめんと基の顔を見ないように謝ると顔を背けて観るための映画を適当に選んでいく
その間お互い何も話さないまま無言で
◇
何を借りたかなど覚えてもおらず基の家へ行くと、気まずい雰囲気が漂い始める。今日はお互いオフの日で久しぶりに顔を合わせたのにこれでは最悪な思い出になってしまうなそれならネットカフェとかに泊まって時間を潰しそのまま始発行きの電車に乗り、家へ帰った方がお互いにこれ以上傷をつけ合うことはなくなると考えて
「ごめん、やっぱり用事思い出したから…そっち行ってくるね」
と荷物を持ち背中を向ける彼にじゃあねと別れの言葉を口に出していた。基に背中を向けながら今何を伝えても逆効果になる、だから時間を置いてまた謝ろう、それでも無理だったら別れようと最悪なパターンも考えながら玄関へ向かおうとするがポスンと背中に暖かい感触を感じたかと思うとお腹に腕を回されていて肩には基の顔が乗せられていた
「…はじめ?私行かないとダメだから離そう?」
このままだとまた私は傷付けてしまうそう思い、口を出したが何も言わないまま後ろから抵抗すれば外れるくらいの弱々しい力で抱きしめられていた。本当に嫌なら抵抗して先に行けと身体で示しているかのように
「私まだ貴方を傷付けてしまうかもしれない、だから行かせて?」
と言葉に出しても彼は何も言わない仕方が無い、抵抗をして私から腕を離させると彼の方へ向き正面から抱き締めて背中を優しく叩くと彼は静かに口を開いた
「…彼女の事は一生忘れられない」
知ってるよと口に出すと背中に腕を回してきて
お互いに抱きしめ合う格好となる
「お前が過去に取り残された気がすると言った時にもしかしたらお前も過去の男をずっと忘れられないと言われているような気がして…嫉妬していた。俺のことを大事にしてくれているのは分かっているはずなのに」
すまないと消え去りそうな声で私に言った。私は話を変えるために借りたやつ見ようかと誘うと彼は抱きしめる力を強くして私の耳に囁いた
「このままお前を感じていたい」
彼には過去の話をしてならない
月島基の墓穴をまだ1つ発掘してしまった彼女は近付いて来る彼の顔を見て忘れないように心に釘をさした