焼肉


どうやって帰ったかは覚えていない。気付いたら部屋で寝ていた。帰巣本能すごい!確か面接終わった後に尾形の車に乗ってそれからすやぁと寝てしまったような気がする…。スマホを探し出し画面を見ると夕方の17時だった。


「んんー!」

布団から抜け出して背伸びをしてトイレでも行こうかなと、もぞもぞと部屋から出ると尾形がいました。


「・・・・」

バタンとドアを閉めて顎に手を当て考えてみる。なるほど分からない。

「疲れているなもう一度寝よう」

ここに尾形がいる訳はない。そうこれは夢なんだ。もこもこの布団に潜り寝る姿勢を取ると少しずつまぶたが落ちていった。家にあんなやつがいてたまるか………ドアを開ける音がして襲いかかる眠気と闘いながら目を開く。


「おい、ここまで運んでやったのにお前はお礼のひとつもないのか」


青筋を浮かべながら言う尾形に最近の夢はリアルなんだなと感慨深い気持ちになってしまった。しかし私は騙されんぞ。これは夢だ。夢の中でもあの嫌味王尾形に会うのは私のストレスが尾形のせいだからに違いない。夢なのだから頬を抓るぐらい、いいんじゃないのかな。そう思い布団から出ると尾形の頬に手を添えようとすると驚いたのか後ろに仰け反り避けた。

「くっ、回避スキル付きか」

やるじゃないか。夢の中の尾形め…しかし、諦める訳には行かない。味わった屈辱を晴らすとき…!そう思いもう一度手を伸ばすと頭を叩かれた。

「…いっ!え?夢じゃないの?」

痛さに頭を抑えて夢じゃない事を確認すると尾形がゆらりと動き、独特の笑い方を漏らしながら拳を握る。その時間は約1.5秒、ごんべえはひくりと頬を動かした。





□□


「なんで居るんですか」

リビングのソファーに座り頭を押さえながら聞く。痛かったとてつもなく痛かった。涙目で尾形を見ると壁に寄り掛かりながらははっと笑った。笑うところが本当に分からない。私がこれ以上馬鹿になったらどうするんだ。


「覚えてないのか、鳥頭か何かか?」


はぁーとため息をついて馬鹿にした表情で語り始めた。


「面接終わって俺の車に乗っただろ?その時にお前疲れて寝たんだよ」

「はぁ」

「起こしても起きねえからお前を背負い家の玄関のドア前に置いて帰ろうとしたんだが鍵が開いてた仕方ねえからお前を布団に寝かせて帰ろうと思ったらお前が起きたって話だ」

「お手数をお掛け致しました…」

鍵閉めるの忘れてたとか一生の不覚過ぎる。前髪を撫で付ける尾形の視線に耐えきれず横を向く。気、気まずい、帰って欲しいけれど助けてもらった以上何も言えない…数時間前の私を殴りたい気持ちになりながら口を開く

「お、お腹すきましたね」

「・・・・」

「ご飯でも食べます?」

「叙〇苑」

「は?」

叙〇苑、それは高級焼肉屋の名前である。何故それを私に…?

「背負う時に腰痛めてしまってなぁ?仕事に支障が出る程の痛みが叙〇苑で済むなら安いものだと思わないか?」

「」


叙〇苑を支払う金などない、それを踏まえた上でこの男は要求するのだ、なんて奴だタチが悪い。目の前の男はニヤニヤと笑っており私は奥の手を使った。




□□



ジュージューと肉の香ばしい匂いが部屋に立ちこめ、煙が部屋の中で舞う。テーブルの上にはホットプレートが置かれ、ご飯とインスタントわかめスープも備えており解凍された肉を泣く泣く焼く女の姿が見えた。尾形は心底つまらなさそうな顔をしてホットプレートを見つめた。


「おい、誰か家で焼肉したいと…「あーーー!焼けましたよ!!尾形さん、どうぞどうぞ!!」…ちっ」


そう、奥の手というのは家で焼肉を食わせること…!特売日に買い冷凍してた肉を使うこれぞ貧乏人の知恵であり生きるための知恵であった。与えられた肉を口に放り込み咀嚼する男を目の前にしながらほくそ笑んだ。