研修
キーボードの打つ音、電話に応答する声、書類をめくる紙の音が聞こえる中、ごんべえは困惑していた。1人で困惑するより質問した方がいいよね…?隣に座り仕事をしている月島さんに質問をした。
「あの…」
「どうした?」
「なんで薩摩弁の講習動画を見させられているのでしょうか」
研修が始まったと同時に何故か【薩摩弁を覚えよう!Part1】を流す月島さんにそう聞く。薩摩弁を習わなければいけない職場とは…?聞かれた本人は手を止めてどこか遠い目をしながらこう言った。
「…後でわかる」
「そ、そうなんですか」
「それPart10まであるのでまずはそれを見てくれ。ななしのくんほら、集中集中」
「Part10…まであるんですね」
「覚えなくてもいい。ただ見るだけで大丈夫だ」
「み、見てるだけですか?」
「あぁ、あの人は鶴見社長の前にしか薩摩弁で話さないしな」
なるほど、薩摩弁で話す人が居るから見せられているのか…。モニター越しから聞こえる薩摩弁を聞くとまるで外国語の勉強をしているみたいでなんとも言えない気持ちになったが、覚えることには損は無いはずと気を持ち直し画面に集中する。
訳)どうして、こんなことをしたのだ!
訳)そうは言っても、仕方が無く…
訳)文句を言うんじゃない!
「おぉ…どうなるんだろうこれ」
Part10に差し掛かり内容がどんどん面白くなっているなと楽しくなってきた。今は三角関係のもつれの話です奥さん…ドキドキしながら見ていると昼休憩らしく「ななしの、休憩の時間だ」と月島さんから声をかけられたと同時に腕を私の前に伸ばしマウスを取ったかと思うと一時停止ボタンを押した。尾形の匂いと違う、石鹸の匂いが鼻に届く。さっき変なことを言ってしまったから意識してしまう私を何とかして欲しい。首を振り気を持ち直すと月島さんは首を傾げた。
「どうかしたか?」
「あ、いえ、もうそんな時間なんだなーと」
「集中してたからな。あんなに集中して見る奴なんてなかなか居ないぞ」
み、見られていたんですか?と言えば「目に入った」と言われる。そりゃあそうだよね。うん、隣に座っているもの!目に入るよ!でも、恥ずかしい…。
「まあそれはさておいて…ななしのは弁当持ってきているか?持ってないなら食堂に案内しようと思っているが…」
「是非行かせてください!」
続きが気になるが仕方がない…お腹も空いていたし、何より、ここの食堂に行ってみたかった。タ○タ食堂とかそんな感じの食堂なのかもしれない!まずはお腹を満たしに行こう。月島さんは「行くぞ」と言いながらキビキビと歩き始めたので慌てて後ろについていった。
□
食堂の前に着くと様々な料理の香ばしい匂いが辺りに充満しており席はソファーとカフェテーブルのようなオシャレな所もあれば大人数が座れる席や一人用の席など各ニーズに合わせた作りとなっている。凄い……料理も物凄く美味しそうだ!
「第七支部では派遣社員も食堂が使えるからいつでも使っていい。」
「本当ですか!?」
派遣は食堂が使えない所がよくある中、ここは使ってもいいとか何て素晴らしい所なんだろう。会社に採用されて良かったと初めて思った。何食べようかなと考えていると私のお腹の音がタイミング良くなってしまい月島さんが口を手で押えて肩を震わせた。
「…ち、違うんです。これは不可抗力で」
「…っ、んん"、大丈夫だ…いや、ちょっと待ってくれ」
全然大丈夫じゃない。月島さんは笑いが止まらなくなったみたいで2分ほどその場で笑っていた。泣きたい。月島さんは笑いがおさまると食堂の使い方などを教えてくれた。悩みに悩みながら、ご飯を選び席に着くと何処か聞き覚えのある声で誰かが月島さんを呼ぶ。
「おい月島!」
「…鯉登さんどうなされましたか?」
肌黒い特徴的な眉毛のイケメン…どこかで見たような…ジロジロ見ているとこっちに気付いたようで
「…!おまんは鶴見社長に手を握られた…女!」
「あ!ハンカチを噛んで殺気漂わせていた仏教徒@1!」
「なんだその覚え方は!!キエエエエエエ(猿叫)」
互いに指を指しながら叫び周りに注目されるのを月島は確認し、めんどくさいと思いながらもこれをどう終着させるか頭を悩ますのだった