軍人♀の未来の話 1
砂漠に囲まれ太陽が天高く照らしだし、それを忌々しく見上げた。身体に熱が篭もり、熱さに苛立ちと疲れが募る。こんな所に住もうなんて考えたくもない程の暑さであった。周囲を見渡しながら街へと進む。砂に囲まれた土地だからだろうかヴァナキュラー建築を用いた家が多く気候に応じて石と土を主流に作られた家が周囲に並ぶ。母国とは違う雰囲気に圧されながらも注意深く辺りを探索する。物音が聞こえれば銃を構え足音を消しながら向かい様子を見に行き何も無いと分かると胸を撫で下ろした。ここは敵の陣地である。
イラク戦争、2001年に3.11テロをきっかけに始まった戦争である。昔から米とイラクではいざこざがあった。それは湾岸戦争の時からずっと。
イラクは1991年4月に「国連安保理決議687」を受託した。それはイラクの経済制裁の解除の条件として大量破壊兵器の破棄を義務付けた物。もちろん破棄するだけではなく製造もダメである。国連はそれをきちんと行っているかどうかイラクに何度も武器考査を試みたが何度も拒み続けていた。口ではしていないと言うがそれを実際に確認出来ていないのだから認めようもない。
そして1993年にイラクに対し米、英国、仏國が制裁処置として空爆を行っても未だに拒み続ける。1995年、フセイン大統領のいとこに当たるフセイン・カーメル中将が亡命し、イラクの生物兵器開発計画を暴露した。イラクはこれまで生物兵器の開発を否定していたものの、これ以降は認めざるを得なくなった。そしてこれ以降では抜き打ちの考査が行いイラクの反感が更に高まることとなる。
2003年12月31日にフセイン大統領は拘束されたがまだ戦闘は続いておりななしのごんべえはまだ、この地に居る。無線で配置に着いたと伝えると各各々が返事を返していき目標に向かい銃を構えた。銃はSDM-R、弾は5.56x45mm NATO弾。M16をベースとして作られた狙撃銃である。子供を盾にして喚いている男をスコープ越しに狙う。子供は少女であった。泣いていたのであろう。鼻水と涙でくしゃくしゃと顔を歪ませて目の前を見ていた。
「泣かないで、もう少しで助けられるからね」
いつでも銃弾をクソッタレの男の頭を撃てるように指をトリガーへ掛ける。あとは指示を待つだけ。一分、二分と時間が過ぎて行く中『撃て!』と命令が掛かり引鉄を引いた。頭から血を流し膝から崩れ落ちる男、少女は泣き叫び走って逃げろうとするが撃たれて倒れる。撃たれた犯人を探そうとスコープで周囲を見渡す。
あいつだ
殺意を込めながら無線にて情報報告。指を引鉄へ込めようした。その瞬間に『待て』と静止がかかる。何故だと反論をすると『敵は我々の位置を探っている、死んだものは戻って来ない。今は仲間の命が優先だ』冷静でありながらも冷淡で適切な命令に顔を歪めて「…分かりました」と答えた。少女はそこへ横たわるままごんべえは無線に従いその場を後にした。
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満月の夜。イラクに設置された基地の中に、横長いテーブルとパイプ椅子が置かれた所でごんべえはウイスキーを呑みながら戦友である菊田に愚痴を言っていた。菊田は慣れた様子で空いたグラスにウイスキーを注ぎながら話を静かに聞いている。いつものことだ。何かある度に愚痴を聞かされるのは、菊田はウイスキーを一口、口に入れると机に頬杖をしながら鋭い目でこちらを見てまた舌打ちをする。
「反吐が出る…!」
「指揮官はお前達の命が大事なわけだ。仕方があるまい。」
「…もっと早く気付いてれば、あの子は救えたかもしれないのに」
顔を手で隠しながら可能性を話すごんべえ。これは重症だなとため息をついた。飲み過ぎると後に響く、そして恐怖体験はアルコールを飲むと忘れにくくなってしまうと、ある大学の教授が論文を発表したのをふと見たことがある。嫌な事が起きた日に忘れろうと酒を飲むが反対に記録してしまうとの内容だった。これ以上飲ませるにも彼女の身体が危うい。そう感じて彼女を抱き上げて寝床へ連れて行こうとした。
「…まだ飲む」
「ダメだ。俺もお前も明日は帰るんだぞ?体調管理は軍人として当たり前だし、何よりお前は今精神不安定だ。自分の体調をよく考えろ」
「…わかったよ。肩貸して」
今日は聞き分けがいいな。珍しいものもあるものだと感慨深くなりそのまま肩を貸して寝床へ連れて行く。その夜は満月であり、不意にごんべえが足を止めて空を見上げる。菊田はそれに気付き横顔を眺めた。
こいつは前と変わらない。昔鶴見中尉の前に現れたという未来の女、ななしのごんべえと変わらない。本人だから当たり前だろう。しかし、生まれ変わって彼女の生きる年代に来れるとは。そう思いながら満月を見上げた。そう言えば未来の女がやってきたと言うのも満月の夜だと聞いたな。背中に悪寒が走り回り固まる菊田。それをえみは不思議そうに見つめて口を開いた。
「どうしたんだ?」
「あー、いやなんでもないんだ。何でもない。」
なんとか誤魔化すとごんべえはそうかと足を進めた。明治時代ごんべえが使っていた銃はまだ作られて無いはずだ。恐らくの話だが寝床へ帰ったら銃を片っ端から調べ尽くさなければ。ごんべえの腕を強く握り決心を抱いた。
翌朝、菊田が急いで私のところを見に来た汗だくで何だよ騒々しいなと目を向ける。
「良かった、だよなあ!またお前の銃出ていないもんなあ!昨日必死に記憶と戦っていたぜ」
「は??うわ気持ち悪い!」
泣きながら抱き締められてあまりの気持ち悪さに股間を蹴ってしまうごんべえ。
「…股間はないだろ」
涙目になりながらも「良かった」と安心する男を横目に見て腕をさする。股間の痛さに蹲りながらも安堵した菊田であった。
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酒云々の論文は実際にあります。興味のある方はどうぞ調べてご覧下さい。
発表論文・掲載誌:
Ethanol Enhances Reactivated Fear Memories, Hiroshi Nomura and Norio Matsuki「Neuropsychopharmacology」(電子版で2月20日に既に掲載済み)。