荒くれ者たち
萎びた街に大勢の人が賑わう。食料も乏しく水もまともに補充が出来ないほどの枯れ果てた土地…貧困街。木は枯れ果て草花さえも生えていない、路地裏には死体が山ほど重なっていた。死体にびっしりとついた蛆、カラスが内蔵をつつく中人々は慣れた様子で行き交う。賑わう価値もない街、行く事さえも意味が無いかのように見えるこの街にどうしてこんなにも人が集まっているのか。ガラの悪い人相が集まっている集団、宝石を煌めかせ護衛を固まらせ優雅に笑う貴族、旅支度をしている者、そして貧相な服とも思えない布っキレを着て座り込む者たち。様々な人種、思想がこの場へ集結していた。
生暖かい風が街を通り過ぎて死んだ眼のような男の頬に当たる。カチャカチャと腕と足を手錠を嵌められており動けなくされていた。その男だけではない。隣に座る女も子供も屈強な兵士だったであろう男も動けなくされている。どこから湧いたのか蝿が顔の近くに飛び回るが男は見向きさえもしない。体力を温存させる為に無駄な動きをしたくなかった。
ズルズルと足を引きずりながら歩く独特の足音が聞こえ始めると周囲に居た人達は息を呑みながら様子を窺う。子供は何処か涙ぐみながら必死に身を寄せ合っていた。くちゃくちゃとガムを噛みながらこちらへ寄ってくるスーツを着用し、手の指にはシルバーの髑髏の指輪を付けてニヤニヤと笑いながら話す。
「もうそろそろ時間だァ。競売の時間だよォ?お前らはどれくらいの価値がつくか楽しみだ」
鳴り響く男の笑い、人を人と思っていない。家畜同然かのように物を扱うかのように笑い始める。まだ道具のほうがいいかもしれない。舌を噛み千切り死ねたらどんなに幸福だろうか。口に嵌められた猿轡がそれを出来ないようにしていた。所詮人はこんな者だと諦めの境地に堕ちた心には希望さえも持つことが出来なかった。
この街には名前が無い。ならず者が集まり拉致同然に連れてきた人という家畜を売る街。人身売買の街。政府からも見放された地図にも載っていない捨てられた街である。
「…相変わらずジメジメしてて気持ち悪いところ」
死体の腐った匂い、香水の匂い、風呂に入れていない人々の汚臭が混じり合う中に女は居た。チラチラと女を見て男が数人ついてきていることも知っていた。この街には法律などない。あるのは力が全て。自分の身を守れない者はならず者に捕まり売られるか、身体バラバラにされて内蔵を売られるか、ペットになるか、どちらにせよ身体を好き勝手にされるのは目に見えていた。
ジジジとトランシーバーが受信を知らせ、耳に掛けたイヤホンから声が聞こえる。
『聞こえるか?そちらの方はどうだ?トンガリコーン』
「…男が着いてきているオーバー」
『違うだろ。そこはたけのこの里だ!』
少女が声を女に発信した。緊張感のある通信なのに何故かお菓子のネーミングで呼び合うノリには着いていけずに無視をすると大声で拒否を唱える。頭を押さえる女に
『アシリパさんやっぱりお菓子の名前はないよ』
『えぇー?杉元までそんなこと言うのか?』
と漫才を無線の向こうでし始める二人。貴方達は今私が危険な状態に居るって事を分かっているの?と聞けばお前なら問題ないだろとアシリパに自信満々に言われて、私の腕を信頼してくれている事が分かり頬を緩ませる。
『俺はきのこの山がいいと思う!』
と無線に遅れながらも参加した白石。私と現地集合なはずなのに白石はどこにいるの?と聞けばキロランケと女を買っていたと恥じる様子もなく胸を張る声。それに誰も声を掛けず作戦の内容を事細かく失敗が無いように無線で確認し合った。ちなみに私はアルフォート派だ。
「さあー!今回の商品は活きがいいよー!バラバラにしてもよし!奴隷にしてもよし!愛玩ペットにしてもよし!選り取りみどりだ!!」
競売が始まり戯れたことを抜かす司会。ステージの上に並ばされる商品達。目に涙を浮かばせながら身体を震えさせる少女を見て舌なめずりをする男や屈強な男の身体を見て顔を赤らめさせる貴族の女等が観客席の方から視線を寄越してくる。反吐が出そうだった。
次々と並べられた者達に値段が付けられていく。どうやら値段が付けられてもすぐに手渡したりはしないらしい。金の勘定を確認するためだろうか。周囲を見渡して隙を窺う。手に嵌められた手錠は付けられたままだったがステージに並ばせられる前に足の手錠は外されていたので逃げる事は出来るはずだ。
「十万ドルのお客様が出ました!他に誰か居ませんか!?居ないのなら落さ…」
と高らかに言う司会の声に合わせて爆発音が響く。ドンッと揺れる建物、崩れ落ちる照明、暗くなるステージ。並べられた商品達は驚きの余り立ち尽くしていた。…俺も含め。
「何よこれ!明かりつけなさいよ!」
「早く逃げろ!奴隷など知った事ではない!」
悲鳴と怒号が場を侵略していく。何が起きているか分からない状態で動くのは得策ではない。どうするか。安全を確保しながら考えを導かせる。頭を使え、場を見極めろ!
「ねえ、この火薬量少し多すぎじゃないの?え?白石が間違えて多めに設置した?…はあ、私は救出に手を貸すから、分かった…後で落ち合おう」
女の声が聞こえる。内容から推測するにどうやらこの爆発音の主犯のメンバーらしい。救出と言うからには人身売買に使われた商品を助けるために、この大掛かりの仕掛けを設置したのだろう。いいご身分な事で。
「ヴぁ、」
「!?ー貴方は?」
声を掛けた瞬間に銃を構えて俺を見抜く。俺の姿を見て戦うべき人間ではないと分かると銃を下げた状態で俺に声を掛けた。戦いに慣れているらしい。なら、こちらも使わせてもらおうじゃないかと女に助けを乞いた。
猿轡と手の錠を外されて自由の身になれた事を心の底から喜んだ。顔には出さないが。女はそんな事に見向きもせずに救出活動を進んで行っている。途中交流した坊主頭の男も仲間なのか、それと共に。
ガラガラと立ち崩れる建物、二人が率先して人身売買があった建物から商品を引連れて外へと誘導する。外に待っていたのは長髪の男だった。ワゴンを2台用意してありもう1台はセンチュリー。見るからに軽装甲仕様の物だった。こんな大掛かりな物を揃えられるこいつらは何者だ?
ワゴンに救出した者を乗らせ始めるが俺は乗らなかった。何故なら人数オーバーだからである。男二人は女に向かい話しかけている。センチュリーに乗るのはあの女らしく、俺と女の楽しいドライブになりそうだった。全くもって楽しくねえが。
センチュリーに乗り込む俺と女。ワゴン車2台が先へ進みその後に車が発進された。乗り心地は悪くないが、後ろを気にしながら運転する女の姿に眠ることさえも出来ない。
「キロランケ、後ろに追跡者が2台。」
『了解。C4点火するぞ。』
次々と追尾車が地面に設置されたC4爆薬で爆破されていく。しかし、追跡する者はそれが最後ではなかったらしく、また新たにやって来た。軽トラのようだ。でも何処か様子がおかしい。車間距離を詰めるところが離れ始めたのだ。それに気付いた女は俺に話しかける。
「ねえ、運転出来る?」
「…人並みには出来る」
唐突の質問に数秒遅れて返事をすると女は口角を上げてハンドルから手を外し後部座席へと移動をする。ハンドルが自由になりジグザグと動き始める車に慌ててハンドルを握り運転席へと座る。
「あぶねえだろうが!離れるなら早く言え!」
怒号を浴びせるが女は気にすることも無くアタッシュケースからライフルを取り出し組み合わせて行く。その形はみたことがある対物ライフル…バレット M82 バレット・ファイアーアームズが製造したセミオート式狙撃銃…対戦車用にも使われていたが現在の戦車にはもう歯は立たねえが軽トラなら充分通じる品物だ。
しかしどこから撃つ?上からは撃てねえぞ。様子を見るとその場で二脚を設置し始める。
「おい、まさか、車内で撃つ気か!?」
女は親指を立てて同意を示した。いやいや、待て。この車は装甲車でまた追手が来るかもしれないのに後ろの窓ガラスから軽トラを撃つだと!?
「ーー待」
口を挟む前に銃声が鳴り響く。窓ガラスが粉々に砕け散り何とか身を守りながら運転を進めた。女の姿をバックミラーで確認すると清々しい笑顔を横顔から確認出来た。なんなんだこの女。軽トラの運転席に座っていた男は頭を撃たれてハンドルの方へ身体が傾き、クラクションがなり始めたかと思うと爆発した。唖然とする俺に女は何事も無かったかのように俺に話す。
「あの軽トラにRPGつまりはロケットランチャー積んでたのが見えてね。悠長に準備と説明をする時間なんて無くて…まあ、命は助かったからいいんじゃないかな」
「俺はこの後追尾車が来たら蜂の巣になる事が気に掛かるんだがな」
「その時はその時なんとかしますよ」
「…そうかよ」
態と段差のある所を走り衝撃を走らせると女は頭を打ったのかうっと苦悶の声を上げて俺を睨んだ。俺はこれぐらいならいいだろうがと舌打ちを返す。
「ねえ、名前は?」
「…尾形、尾形百之助。」
久しく名前を聞かれて自分の名を発すると女は笑って
「よろしく、尾形。安全運転よろしくね」
と安全運転を強調しながらふわりと笑う。顔面と行動が見合っていない女だとバックミラー越しに女を見つめる。
「さあな、久しぶりの運転だから腕が鈍っているから…安全運転は無理だな」
俺はそう言って運転を続けた。