はめられる
心にぽっかりと穴が空いたという言葉を聞いた事はあるだろうか?人と別れ、信用している人に裏切られ、かけがいのない物を失くした時などにそれが出る。あの時あれを言っとけば良かった、こうしておけば良かった、なんで行動しなかったのだろうと後悔が後ろに着いて心にもぽっかりと穴が空いたような空虚感がつきまとい行動に移そうとしても時間が流れてしまってそれが出来なくて途方に暮れて全て投げ出そうとしてしまう
これはそんな女が隣人の尾形に振り回されるお話
好きな物も大好きな趣味をしていても何も感じない
自分の好きだった物を一つ一つゴミ袋の中に入れて取っ手を縛り手に持つと女はゴミ捨て場へ向かった
(すべてどうでもいい。なんでこんなものに時間をかけていたのだろう)
ゴミ捨て場へ一つ一つ袋を置いていくと「おいおい捨てすぎじゃねえか?」と隣人の尾形が手に家のゴミ袋を提げて声を掛けてきた「いいんです。いらないものですから」と顔を見ながら言うと「お前自分の顔を鏡で見てこいよ、ひでえ顔しているぞ」と怪訝そうに私に言った
「そうですか?ちょっと寝不足なのかもしれません失礼します」
何か言いたげな男を通り過ぎて部屋へ戻った。「…」何も無い部屋を見て何処か自分の心のようだと他人事のように思いながら尾形の言葉を思い出していた「ひでえ顔か…」鏡を見るために洗面台へ向かい自分の顔を鏡でみると顔が青白く目に生気がない。虚ろだった
(本当にひでえ顔)
蛇口を捻り水を出すとジャアアアと水が流れ出ていくのを無言で見つめているとピンポーンとチャイムが鳴った(出たくない)そうして居留守を使うと最初はゆっくりと押していたチャイムがどんどんと間隔を刻み早く押していく「…」女は眉間に皺を寄せてぎゅっと膝を抱え耐えた
ドンドンドンとドアを叩き始め「おい、おい!」と大声で叫ぶ尾形の声が響き渡る。(このままだと近所の人から警察を呼ばれるかもしれない)そう思うほどの騒音だった。騒音を出す男を放置すると、明らかに面倒なことが起きる。そう考えて尾形を出迎えるために玄関へ向かいドアを開けた
するとでかいハンマーを持った尾形が構えており「…何してるんすか」と聞くと「隣で死なれると…嫌だから」とハンマーを壁に置くと「入るぞ」と言い勝手に部屋の中に入っていった
「本当に何もねえな」部屋を見渡しながらそう言って水の流れる音がする洗面台の方へ向かい蛇口を閉め水を止めるとぐるりと振り返り「お前は、何してえんだ」と聞いた「特に何も」と答えると前髪を撫で上げ「何もないなら俺と一緒に住むか?」と言ったので「嫌です」とすぐに答える
「ははっ、即答かよ」
「よく知らない人と暮らしたくはないです」
笑う男にそう答えると「なら知ればいいんだな?」と無表情になり「じゃあ行くぞ」と腕をつかみ連れていく「どこに…?」「俺の行きつけの店がある。そこでお腹を満たしながら俺の事でも話してやるよ」何故か嬉しそうな声色でいう尾形を見て文句を出そうと思ったがこいつの事だ、どうせ何を言っても無駄なのだろうとこれ以上無駄な気力を下げないために口を噤む。尾形の行きつけの所は意外にも庶民的なイタリアン料理を出すこぢんまりとした店だった。慣れた様子でテーブルに誘導し椅子に私を座らせると店員にメニューを勝手に注文していき、し終えると正面に座りじっとこちらを見る。居心地が正直に言って悪い、1人になりたいのに何故させて貰えないんだろうか。
注文したメニューが運ばれてくると尾形は黙々と食べ始めた。それを女はじっと見て(帰りますと言おうそして帰ろう)と口を開くと男が口に付けていたフォークで私の口にパスタを入れてきた。咀嚼し呑み込むと「美味しい」と無意識に口に出してしまう。それを見ながらニヤリと笑って「食え」と次々と口に入れられ「いや自分で…むぐぅ」と意見を言おうとした瞬間に口にまたどんどんと入れられた。
皿が空っぽになるとレジに向かいお会計を済ませ、まだ何処かへ連れて行かれるのかと思いきや自分が住んでいるアパートだった。(ようやく離してくれるのかな)と安心すると私の部屋の隣の部屋。尾形の部屋に連れて行かれ混乱をする
「ちょ、ちょっと待ってください」
と気力を振り絞り声をかけるとまた怪訝そうに私を見た
「なんだ」
「もういいでしょう?帰らせてくれても」
「言っただろ隣で死なれると嫌と」
「いや死にませんから」
「信用出来ない」
「えぇ…」
と押し問答が始まり、通じないと分かると私は諦めて隅っこの方で膝を抱えると尾形はそれを見て「借りてきた猫のようだな」と笑った
□
次の日もそれで止められ
仕事に行った時を狙って家に戻ってもまた連れ戻され
いつの間にか尾形と一緒に暮らし始めていることに気付き
「おい飯まだか」とご飯を催促する尾形を見て「嵌められた…」と口に出すと
「今頃気付いたのか」
尾形は可哀想な子を見るような目で私に向けられた