地獄


>「英雄になりたかった」

英雄という言葉に憧れた。小さい頃からずっと人を守り助ける存在に私は憧れていてそれを親が愛おしそうに「なれるわよ」と言ってくれた。英雄は戦場にて英雄になれる、それはどういう意味か分からなかったが今なら分かる。目の前で人を撃ち殺したくなくても殺さなくては生き残れないこんな場所で私は何を英雄になれると言うのか。友人も仲良かった者も全てぐしゃと音を立てて地面に崩れていった。英雄は人を殺し、殺し尽くし生き残らなければなれない、英雄は人殺しなのだと

誰もかもが死んだ目をしていた。次は私なのかもしれない、それか仲のいい戦友なのかもしれない。みんなみんな生き残るのにも疲れて自害をする者も出てきた。この世の中の地獄を現したものそれが目の前に溢れている

隣にいる者は震えていた。全身を震えさせ瞬きをずっと繰り返し立つことさえままならない。私はそれを見てこいつも狂ったかと私は呟いた、当たり前だ、人がたくさん殺し合っているのだ。この場で精神が異常にならない者こそ異常であり無表情で感情も込めずに淡々と銃を打てるほうがおかしい、私もそのおかしい者の一人であった

「おい、そいつはもうダメだ。放っておけ、お前は大丈夫みたいだな」

三十年式歩兵銃を手に持ち匍匐前進でこっちへやってくると尾形上等兵殿はそう言った

「…いえ、私は狂っています。これを見ても尚何も思わないんですから」

深刻そうに言う私に、なら俺も狂っているなと無表情で言い命令を下してきた

「命令だ。弾薬が欲しい、集めてもらえてくれるか?あそこに行ってな」

指を指した方には沢山の戦友だったモノがあった。もう人ではない。しかしそこは身を守るものがなければ反対に敵にとっては攻撃しやすい所である

「私に死んでこいというのですか?」

「運が良ければ死ぬことは無い。それに俺が狙撃援護をする」

「…そうですか」

死に未練などなかった。反対にこの場では死ねた方が楽かもしれない。ただ未練があるとすれば

「尾形上等兵殿お願いがあります。」

「なんだ」

「私が撃たれた時には頭を撃って貰えますか?」

尾形上等兵は目を見開いたが私はそれに構っているほど心に余裕がなく言葉を続けた

「死ぬ時は痛みなど感じたくないので…それに尾形上等兵殿なら狙えるでしょう」

「…ははっ、そんなお願いをされたのは初めてだな。仕方がないその要望は俺が聞き入れてやろう」

「お願いします尾形上等兵殿」

その言葉を聞いて笑いかけると私はその場所へ向かい走っていく。銃弾がかすれていく中、前を行く戦友も倒れて行く中、私はその場へ向かう。足が震えた、手も震えた、恐怖で声も出なかった。その場へつくと戦友だったモノ達から銃弾を取りまた戻る。銃弾が肩に当たる、尾形上等兵殿は私を撃つだろうか?いや撃ってくれ、腕に当たる、撃ってくれ、撃たない、何故だ

なんとか戻ると私は上官である彼を睨んだ、だが彼は笑う。痛みに顔を歪ませている私に応急措置をしながら、お前を殺すのが惜しくなったと言い私の顎を掴み口付けをした。英雄にはなれそうにはないが、この男に捉えられそうだと危機感を感じ離れようとしたが、腰にも手を回され身動きが取れないまま、男のされるがままになる、私は目を閉じ男の体温と息遣いを感じなから早くこの地獄よ終われと願い続ける