尾形精神科医


苦しい辛い助けてと喚く男。この男はどこでスイッチが入るかは分からない。大体夏頃になると精神疾患者の症状の波が悪くなる方が多く、この男もまたそうだった。私に向かい「こんな事なら外に出なければ良かった」と口走る。措置入院した時は出たいと言ってていたのに次は入院したいと言っている。

この人の病気はもう治りにくい。何故なら発達と精神病を合併してしまっているからだ。一緒に居ても辛いだけだと周りに説得されるが、私には見捨てることなど出来なかった。人から言われた言葉で覚えているのは自分を否定した声だけ、してもらった事を忘れて否定された言葉だけが脳にずっと響き続けるこの男がとても不憫で可哀想でずるずると付き合っている

「よお、まだあの男と付き合ってるのか」

図書館で彼の病気を和らげる方法を探っていると精神外科の尾形がこちらの方へやって来た。元々彼の主治医だったが馬に合わず今は鶴見さんが主治医になってくれている

「…えぇ、それが何か」
髪を耳にかけながら本に目線を落としながら言うと「そうか」と横に座り私が机に置いた本をみて隣の席へ座る。

「・・・」

「・・・」

「…何かご用ですか?」

本を読んでいる間、目線を感じ横を向くと私を観察するように眺めている。この先生が苦手だ。まるで人間観察をするように眺められて私の闇を暴かれそうになるから。

「…お前が一旦診療しに来た方がいいんじゃねえか?」

そう言って席を立って去っていく、そうかもしれない。最近彼の動きが活発的で何をしでかすか分からなかったので心配で寝れない日々が続いていた。私もおかしくなっている事は自覚していたし、彼を何とかするためには先ずは自分から元気にならなければと、本を慌てて片付けると尾形を追い掛けた。追い掛けられるとは思ってなかったみたいで目を丸くしてこちらを見ている尾形に声をかける。

「…尾形先生、私」

「診療をする気になったのか」

「はい」

そう言うと尾形は携帯を取り出し何処かへ連絡し始める。話の内容は分からないが「入院の手続き」「病室の空き」などの単語が聞こえて来た。電話をし終えると私に向かい合い口を開く。

「じゃあ行くか」

「ちょっと待って下さい…診療をするだけですよね?」

後退りをしながらogtに聞くと何も答えずに無表情で、その顔に何か嫌な感触を覚えて「やっぱり次の機会にお願いします」と去ろうとした。

「もう決まったことだ。お前が俺の患者という事も」

「でも彼は…」

「あいつはあいつで何とかなる。まずはてめえの心配をしろ」

確かにぐうの音も出ないほどの正論で、何も言えずに居るとそのまま病院へ連れて行かれた。





時が流れ1ヶ月後、尾形先生と宇佐美看護師が居る空間の一室で診察をしてもらっている時にふと気付いた。

「尾形先生、一つ質問が」

「なんだ」

「彼は今どうなっているんですか」

そう付き合っていた彼の話だ。彼とは入院中、電話もおろか、顔さえ合わせて貰えないまま1ヶ月を過ぎていた。

「女作って遊び呆けていると聞いたな」

「…そう、ですか」

確かに彼はよく女性と浮気する性質だったので有り得る話なのかもしれないと納得したと同時に情けなくも感じる。

「他人の人生より、お前は自身の心配をしろ」

入院する前もそんな事を言ってくれていたなと、やるせない気持ちで診察を終えた。



ごんべえが退室した診察室では宇佐美が尾形を見て問い掛ける。

「尾形先生、あれは嘘でしょ」

アレとはごんべえの彼氏のことを聞いていた。宇佐美は尾形の思惑を知っている。どうしたいのか、どうするのか全てを。尾形は面倒くさそうに目をやると前髪を上げた。その目はごんべえに見せた時とは違う目。澱み、闇をまとった目でごんべえの姿を思い描きながら乾燥した唇を動かした。


「なに分かりきったことを聞いてやがる」

面倒くさい男に捕まえられちゃったねごんべえちゃん。見えない彼女に同情を浮かべながら、宇佐美はカルテを手に取り見なかった事にした。





設定

ごんべえちゃんの彼氏
精神病に悩まされている

尾形百之助先生
精神科医
患者は何人もいるがほぼ離れていく。なぜなら彼の診察は高圧的であるから。ごんべえには優しい。

宇佐美看護師
患者から好かれているが心の中ではイライラしている。尾形とは酒飲みに行く関係。

鶴見先生
患者に好かれている先生。ただ、それは好かれているのではなく魅了しているだけ患者の中でファンクラブが出来るほどの人気