11:50
宴会が始まって少し経った頃、涼介の元に電話が入った。ディスプレイを見た表情は一瞬曇りはしたが、すぐに無表情に戻り、電波を繋ぐ。一分あっただろうか。要件のみなのかさっさと通話を切り、ポケットへしまう。
「もしかして須藤か?」
「よくわかったな史浩」
「お前の顔を見ればわかるさ」
京一からの電話を、妹へ伝えるべきかどうか。オレに伝言を頼むくらいなら直接妹に電話をすればいいのに、律儀な男はまず自分に電話をしてきやがった。間違えるな京一、主催はオレじゃなくて啓介だ。
「午前の仕事が長引いて、これから向かうそうだ。来なくていいのに」
「そう言ってやるなよ。須藤が来たらあきらちゃんが喜ぶからって啓介が誘ったんだろ?」
「……ちっ」
恐らく、京一が那須へ着くのは道が混んでいなければ一時間ほどだろう。その一時間、涼介はなぜ京一に声をかけたのかと啓介に詰め寄っていた。
清次たちエンペラーメンバーの姿は見えても、京一がいないとわかったあきらは、少し、残念な面持ちでいた。碓氷の彼女たちと華を咲かせているテーブルでこぼした小さな溜息を、沙雪は聞き逃さなかった。
「…あっやしー。なあに、今の溜息」
「え…」
「何か悩んでんの?話してラクになるなら言っちゃいなよあきら」
「なやみ…じゃないんだけどね…気になってて…」
峠のような暗闇と違い、日中の賑やかなところは苦手なのだろうか。『須藤も誘った』と啓介から聞いたときから、会える日を楽しみにしていたのに。
(京一さん…)
那須へは来ないんですか?と、メールをしようか。出しゃばりだと思われないだろうか。迷惑に思われないだろうか。考えると、つい、溜息が出てしまう。沙雪に心配されたのは、このせいだ。
何かが、那須の草原に木霊した。
まわりの連中は気付いていない。清次も、涼介も。だから気のせいかと思っていた。
それが、もう一度。
「なに?今の」
「ブースト音かしら、誰か来たの?」
「沙雪ちゃん、真子ちゃん、わたし、お出迎えしてくる!またあとでね!」
恋なのか、憧れなのか、まだ、よくわからない。好きか嫌いかと言われれば、間違いなく、好きなのだけれど。
「おいあきら待っ…!クソッ!京一め、事故ればいいものを」
「良からぬこと言うなよ涼介」
涼介と史浩のそばを駆け、芝生広場を抜ける。駐車場の脇に咲いているコスモスと明らかにミスマッチな漆黒の車がちょうど到着したところだった。
「遅れてすまんな、あきら」
「いらっしゃい京一さん!」
降りてきた京一に遠慮なく抱きつくと、ほのかに香る車内の芳香。猫のように胸に懐けば、しっぽのようにひとつに結わえた髪に触れ、大きな手で頭を撫でてくれた。それが嬉しくて、少し汗ばんだ京一の胸元にもっと顔を摺り寄せた。
(おい小柏、誰だあのおっさん)
(え、豪さん知らないんスか須藤さん)
(知らね。つーかいつまであきらとくっついてんだよ離れろよ)
(もてぎじゃかなり有名ですよ。富士のジムカーナにも何度か参戦って聞いてないですねオレの話)
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