Non
From>>お兄ちゃん
To>>trf_takahashi@xxx.ne.jp
Sub>>明日
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夜、空いてるか?
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「…私、スケジュール渡してなかったっけ…」
突然の兄の誘い。かく言うそちらの都合は大丈夫なのだろうかと逆に心配に思うのだが。
「なに、涼介くんから?」
「ハヤト、明日の公式テストって17時までで合ってる?」
「うーん…予定はそうだけど何が起こるかわからないからね、信憑性はないよ」
次のGT戦に向けての公式テストが行われる予定の明日。家族にはいつも月間予定を渡しているので、明日のテストのことも涼介も既知のはずだ。何か、急なことだろうか。しかしあちらの団体だって週末は忙しいのではないか。近いうちに、いよいよ神奈川入りすると、聞いたばかりなのに。
「…もしもしお兄ちゃん?さっきのメール、あれ、なにかあるの?」
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「あ、きたきた。あきらさーん!こっちですー!」
高崎市内の、大衆居酒屋。兄の誘いは、コレだった。
「ごめん、遅くなって!高速めちゃくちゃ飛ばしちゃった」
「はは、神奈川まで通勤するのも大変だろうに。お疲れあきらちゃん」
「ありがと史浩くん。えと、私、どこ座れば」
「あきらさんはー、オレのとなりですー」
神奈川に向かうその前に涼介が企てた決起大会という名の呑み会。Dのみんなが集まるからお前もどうだとの声に、即座に返事をしたあきら。公式テストではテキパキと作業をこなし、無駄を一切出さず、欲しいデータをくまなく拾い、なんとか予定時刻に切り上げられるように仕事に没頭した。お疲れ様でした!と元気に富士を出たのは17時30分頃。通常なら約2時間のルートなのだが、土曜の休日ラッシュもありやや渋滞に引っかかってしまった。呑み屋に着けば既に盛り上がっている最中で、やいのやいの楽しそうだ。
「わ、拓海くん顔真っ赤よ!」
「ずーっと待ってたんですー、今日、あきらさん来るってきいてー」
「ちょっと!未成年に飲ましたの、だれ?!」
「あー…オレ?なのか?史浩」
「いや、多分、全員じゃないか?」
「オレは、止めたからな」
着くなりゴロゴロ甘えてくる下りのエース。とろんと目が泳ぎ、彼のとなりに座るとすりすりと顔を寄せてくる。
「もー、お兄ちゃんが居ながら何やってるのよ」
「だからオレは止めたって」
「あきらさんはー、なに飲みますか〜?」
人数が人数なだけに、小上がりの個室を貸し切っているらしい。その方が気兼ねなく楽しめるというものだ。だが今は、この図体はしっかり青年の甘えん坊な猫を、どうにかしなければ。
「拓海くん、お水飲める?」
「あきらさんが飲ましてくれたら飲みます」
「てめッ、藤原いい加減に…!」
「しー、啓ちゃん。拓海くん、もう眠いんじゃない?お水飲んだら、少し寝ちゃいなさいよ」
「ん…あきらさん、そばに、いてくれますか?」
「いるよ、だからはい、お水」
ふにゃりと微笑む拓海はそれはそれは可愛らしく、今日一日作業していたあきらにとって最高の癒しの笑みだった。少しグラスを傾けてやれば、ゆっくりこくこくと嚥下していく。そのままひとつあくびをした拓海は、あきらの膝を目掛けて倒れ込んだ。
「すまんな、面倒見てもらって」
「かわいいからいいの。ふふっ、本当、弟みたい」
「あーったくよー、アネキって何で藤原に甘ェんだよ!」
「あら啓ちゃん、拓海くんが居たら自分が甘えられないから不満?」
可愛い寝息を立てて眠る拓海の柔らかい髪を弄りながら、ぽんぽんと背中を叩いてあやしていると、実弟がどかりととなりに腰を下ろした。
「藤原、ちょっとどかそうか。あきらが身動き出来ないだろう?」
「お兄ちゃん、そっとね。拓海くん起きちゃう」
あきらの膝からそっと拓海をズラし、座布団を丸めた簡易枕に横たえてやる。安らかな寝顔に、こちらもつい笑顔になった。
「オレとしては、お前にも藤原みたいに甘えてもらいたいな」
「え?」
「一緒に呑みに行くこと、最近なかっただろう。だから、今日どうかと思ってね」
す、と差し出されたピンク色のカクテル。いつの間に兄は頼んだのだろう、それは甘く溶けるピーチフィズ。
「…妹、酔わせてどうするつもり?」
「…あきらは、どうされたいの?」
肩肘をついてこちらを覗き込む涼介の仕草は、店内の薄暗い照明効果もあって更に色気が増している。まだ呑んでもいないのに、頬が火照って仕方がない。照れるあきらに気を良くした涼介は、トドメとばかり耳元へ口を寄せる。
「ほら、教えて?オレにどうしてほしいか」
「〜〜〜っ、しらないっ」
常日頃から涼介はあきらを苛めて可愛がっているので、涼介さんてあきらさんに容赦ないなあとメカニックふたりがのんびりと見守っていた。
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