02.5
あれから暫くして女の人が木製のドアから顔を覗かせる。私はあの後、また眠ってしまったようで目を覚ました頃には部屋が暗闇に包まれていた。
パチン、というスイッチの鋭い音と共に部屋が一気に明るくなる。
「……そろそろ起きたらどうだい。」
ほら、食べな。そう優しく言う女の人は持っている木製のトレーの上からおにぎりを一つ取って此方に差し出す。私はゆっくりと起き上がるとそれを受け取って、ありがとうございます、頂きますと呟いた。
大きく口を開けて思いっきりそれを頬張れば、塩の味が舌を包み込む。
……美味しい。
一口、また一口と食べれば食べる程食欲が出た。今の今まで気にもしていなかったが、そういえば昨日の朝から何も食べていないことを思い出す。食べているうちに目頭が熱くなり、気付くと目から涙が次々と流れ落ちて白い布団に幾つもの染みを作っていった。女の人はそんな私を見てとても驚いた様子で、どうしたんだい?と恐る恐る背中を擦ってくれた。
それから泣き止むまで女の人は何も言わずに傍に付いて、ずっと背中を擦ってくれていた。私が泣き腫らした顔を上げる頃、恥ずかしいけれどお手洗いに行きたいと思う程、自分が安心していた。食事が終わり、お手洗いにも無事に行けた今、私は女の人に宥められながらこれまであったことを事細かに話す。
「……そうかい。そんなことがあったんだね。」
辛かっただろうに。女の人は私のことを疑う様子もなく、そう言った。
私がもし逆の立場だったならきっと信じられなかっただろう話の内容を目の前の女の人は目の色を何一つ変えずに聞いてくれた。純粋に嬉しくて、また目頭が熱くなってきたけれど今度はぐっと我慢する。
これは事実だ。もう受け入れるしかない。そうと決まれば後は前に進むだけ。
私は心の中でそう自分に言い聞かせると、俯いていた顔を上げる。丁度、女の人が口を開こうとしているのが見えた。
「私はレイナ。名乗るのが遅くなって悪いね。あんたはなんていうんだい?」
「私は、名無しのごんべいです。なんだかいろいろ有難うございます。」
私がそう言うと、嗚呼、宜しくね、ごんべい、とレイナさんが微笑む。
「ぇ、よろしくって……。」
「なんだい?ここで私を手伝ってくれるんじゃないのかい?」
その言葉は居場所を無くした私にとって、とても優しい言葉だった。
「嫌だったら良いよ?でも、外は大雪だからねぇ……。」
本当に心優しい人だと思った。
私は安堵感で緩む頬をそのままに、元気良く口を開く。
「これからよろしくお願いします!」
レイナさん。と言った私は少なくともここに来てから今この時までで一番元気だったと思う。
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