03
閉ざした瞼の中、今の今まで真っ暗だったそれは外部からの強い光を浴びてちかちかと光の粒が暴れるのが見える。
眩しいなぁ、なんてゆっくりと重い瞼を開けた私は目の前のそれについて、まだ完全に覚醒仕切っていない頭を必死に動かした。が、思い当たるものはない。全く。
よく見るとその黄色いふかふかの体は、ゆっくりと上下していて、背中には二本の茶色い線が入っていた。黄色い体に茶色の線。私はそれが当てはまる奴を一匹だけ知っている。しかし、それはゲームや漫画の中の生き物であって、現実には存在しない筈なのだ。
だったら目の前のこいつはなんだ。目の前で丸くなり、ふてぶてしくも私のお腹の上に乗っているこいつはいったいなんなんだ。
私は考えれば考える程混乱する頭を抑えながら、自分のお腹の上のそれに視線を移す。自分は起きていると思っていたが、実はまだ寝ていてこれは夢の中なんじゃないだろうか。混乱する私を他所に、黄色いふかふかは不快そうにもぞもぞと動くと、大きな欠伸と共に体を伸ばした。
「……うるせぇなぁ。」
空耳だろうか。今、この黄色いふかふかから不機嫌そうな声が聞こえた気がする。此方を振り向いたふかふかは赤い頬から電気を漏らして、真ん丸な目を細める。その視線はまるで私を品定めするかのように、上から下までゆっくりと移動していく。
「あー、こいつあんまタイプじゃないや。ていうか、なんで此処に人間が……。」
いよいよ頭がはち切れそうだ。動物、いやピカチュウが喋っている。その内容は酷いものだが。
「……な、んで。」
よく分からなくなった私の口からそんな言葉が零れた。
「何でってこっちが訊きたいよ。まぁ、聞こえてないんだろうけど。」
目の前のピカチュウは私をキッと睨み付けてふてぶてしくそんなことを口にする。ピカチュウはそのまま続けた。
「あーあ、此処は俺の部屋なのにさぁ。全くもう、あっち行きなよ。」
成る程、此処は元々このピカチュウの部屋でそこに私がいきなり入って来てベッドに寝てしまったから怒っているらしい。どうやら図々しいのは私の方だったようだ。
私はゆっくりと立ち上がるとベッドからひんやりとした赤色をベースに織られた立派な絨毯に足を降ろした。どうぞ、と言わんばかりに視線をちらっとピカチュウの方に投げる。私だってこんな酷く言われて黙っている程お人好しでもびびりでもないのだ。と、言ってみたものの、一瞬振り返り際に睨み付けるぐらいしかできないのだが。私はまだ死にたくない。
それを見たピカチュウはしめた、と言わんばかりに布団の中にその小さな体を潜らせると、数秒もぞもぞと動いたのが認識できたがそれっきりで布団は動かなくなった。
それにしても、変な話だ。あんなに小さな体にこんなに広い部屋。明らかにいろいろ可笑しい。この部屋の机も、ベッドもその横にあるサイドテーブルも普通の大きさで、見たところピカチュウサイズの物はなさそうだった。それに、昨日レイナさんにこの部屋を案内して貰った時も、この部屋は大丈夫だと言っていた。
ひょっとして、知らないんだろうか。このピカチュウのことも、此処が毎日使われていることも。でも変だ。毎日この家で生活しているレイナさんがこの家の一室にいるピカチュウを知らないだなんて。この部屋は、よく掃除されていて埃っぽくないし、布団もお日様の匂いがして心地良い。
考えれば考える程可笑しな点ばかりが記憶の中で揺らめいた。取り敢えず、このピカチュウのことは後でレイナさんに訊くとして、今は自分の身支度を整えることにした。混乱していた思考が段々と纏まっていく。そうだ、私が考えても仕様がないことだ。
昨日レイナさんに借りた服を着て、私はドアノブに手を掛けるとゆっくりと回した。
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