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すごく好き。
どんな言葉も受け流して、気持ちが沈むのを待とうと思っていたのに出来なかった程に。手の届く距離に居るけれど手を伸ばそうとは思って居なかった。だから、私は、

「好きだけど、五条さんとそういう…関係に踏み出すのが怖いです」

雨の音がまるでカウントダウンのように聞こえた。窓を滑る雨で外の景色は私の心みたいに歪んでいる。
お互いの気持ちが合致しているのに逃げ腰になるのはずるい。そんなの分かってる。まっすぐ私を見て言葉の続きを待っている五条さんの誠意に甘えている。

「諦めるべきなのに出来ないくらいに大好きで、でも私は五条さんが欲しい、とは全然…だからどうしたらいいのか、」

五条さんへ視線を戻すとニヤニヤニヤと唇を緩ませてこちらを見ていた。あの、聞いてました?

「そう。とりあえず今からデート行こっか」
「話聞いてました?」
「うん。僕のコトが大好きで仕方ないんだね」
「…そうですけど、都合良すぎませんか」
「どこ行こ〜あんま歩かない方がいいか。ホテルは?…ごめん嘘だから、ちょ、シートベルト外さないで」

スマホを取り出したかと思えば「近くに映画館はあるけど見たいの無いなー」とそれらしき場所を調べて吟味している。元々話を聞いてもらえた試しはないから仕方ないと私は助手席に深く身を預けた。3分ほどして「プラネタリウムとケーキバイキング」と五条さんが私の足をつついた。

「……プラネタリウムで」
「了解〜ちなみに興味ある?」
「そんなに…。五条さんはあるんですか」
「全然!人工的な星を見て何を感じて欲しいのかさっぱり分からない」

ナビをセットした五条さんは早速とエンジンをかけた。ゆっくりと動き出した外の風景は良く見えない。ワイパーがいったりきたり。以前なら"帰ります。家で降ろしてください"と言えたはずなのに、私は大人しく助手席に座り続けている。車内には雨音と五条さんの鼻歌だけが響いていた。

プラネタリウムに着くまでの間、五条さんはいつも以上に饒舌だった。次に行きたいカフェがある、今度僕のうちにおいで、何もしないからとまるで関係が決まったみたいに続け、あっという間に到着した。

「上映、1時間らしいし夜はどっかで飯でも食おうよ。チケット買ってくるから調べといて」

と、チケット売り場に着くなり五条さんは私を置いて販売機に足早に向かった。五条さんの後ろ姿をゆっくり追うと、もう既にカードを読み込ませていた。ちらりと見えた値段は普通のシート席のものではなくて。

「ッあの…え、嘘でしょ!ちょ、カップルシート席って!!取り消しキャンセル!」
「無理〜」

発券されたチケットをひらりと掠め取った五条さんを睨むけれど効果は無いらしく、サングラスの下の瞳は楽しそうに細められていた。腕を掴まれ、邪魔になるよと売り場から私を遠ざける。

「ごめんね。"まだ"付き合ってないのに間違えちゃった」

サングラスを下げた彼から軽薄な謝罪を受けるも、「仕方ないですね」とは言えなかった。カップルシートは大人2人が寝転がるソファタイプのもの。それに1時間他のお客さんが居る中で…?逃げ場がない、ダメ、これだけはダメ。

「確信犯じゃないですかっ!貸してくださいキャンセル出来るか聞いてきます」
「約束する、僕も教師だから人前でなんもしない。最低限のことは守るよ」
「………」

「…ダメ?」とおねだりする子どものようにぼそりと呟く五条さんに、以前ならもっと強く言えたはずなのに。私は五条さんとどうなりたい?本当に望んでいなかった、関係だって今まで通りで、良いはずなのに。

「……オフでお願い聞くの、今回だけですよ」
「これからもお願いするからもっと聞いてよ」

▽ △

あっという間に上映時間になり薄暗い中で席を探す。リクライニング型の座席の前にあるカップルシートは、ダブルベッドほどの楕円形のソファになっている。ご機嫌な五条さんは横たわると、横をとんとんと叩いた。

「おいで。もう始まるよ」
「……やっぱりこれは、」
「お願い聞いてくれんでしょ、ね?」
「……」

渋々ソファに入り、体が触れない距離まで離れるけれど視界の端っこに見える五条さんはこちらを向いている。徐々に暗くなると、上映前のアナウンスが始まった。

「僕が思うにさ」

2人だけに聞こえるよう、サングラスを外しながら五条さんが囁いた。

「君は僕への気持ちを抑制していたから、いざ解放するとなったら方法が分からない」

するりと五条さんの指先が私の指を絡め取った。一瞬のことに息がつまる。

「深く考えずに好きか嫌いかでいい、考えてる時間なんて無駄だよ。君さ、そーとー僕のこと好きじゃん」

慣れた手つきで指をさすられる。触れるか否かの強弱をつけて触れて大きな手でぎゅうと包み込まれたと思えば、するりと温もりが逃げた。

「僕からはここまで。君から繋いでよ」

ほらほらと私に向けて手が出す五条さんの唇はニヤリと釣り上がっている。五条悟という餌をまいて、私を試しているのだ。私に判断させようとしてる。
五条さんの体温が離れた時、惜しいと思った。もう少し触れたい、触れていたい。…なんて、それはもう、

「……繋いだ、ら…どうなりますか」
「関係が変わる、って事にしようか。君は僕が欲しくないって言ってたけど、それ気のせいだよ。手が離れてどう思った?」

好きなくせに、五条さんと関係を始めるのが怖い気持ちは変わらない。彼の隣を歩ける自信は無い。

──でも。アナウンスが終わってホールが一段と暗くなるのと同時に私はゆっくりと彼の手を握った。バカみたいに冷たくなった自分の手を、暖かく大きな手が覆うように包みなおした。

「よくできました」

クラシック調のBGMが流れ始めると、五条さんは仰向けになる。
その瞳は頭上いっぱいに映された星々の煌めきと儚さを反射させてきらきらと輝いていた。ずるいくらいにきれい。

すきです。
彼に聞こえないように唇だけを動かして言った言葉を見透かしたように、五条さんの唇はゆっくりと弧を描いた。