「海だぁーーーっ!!!!」
歓喜に叫ぶ瑠璃の声は耳を塞いでいても普通に煩い。
先日から計画していた通り、俺たちは政府のイベントで海水浴に来ている。四本丸の審神者と刀剣男士が各六振。それに加えて今年はシロちゃんも一緒のかなりの大所帯だ。去年のお祭りでは別行動だったわけだけど、今回は皆混ざって遊べるかな?
因みに俺の今日の近侍は今剣。他五振は御手杵(ギネ)、山伏、長谷部、秋田、平野だ。皆で話し合って決めた結果らしい。
この海は鈴城家の別荘がある小さな無人島。当然他の審神者たちはいない。特別任務で黒本丸修復を任されている俺たちだけが、今日一日貸し切りで使って良いらしい。真黒先輩もたまには良いこと言うよね、たまには。
で、それぞれに宛てがわれた部屋で早速水着に着替えて出てきたわけなんだけど…。
「なんで男より先に着替え終わってんの瑠璃」
翡翠と男士たちを連れて行けば、既に砂浜から海に向かって仁王立ちしている瑠璃。
流石に早すぎるだろ。あ、もしかして日焼け止めとかまだ塗ってないとか?
「えっへへ! 楽しみ過ぎて準備万端だったのよ! 服の下に水着着て来たし、本丸で日焼け止めも塗りたくってきたわ!」
「小学生か」
俺もプールに行く小学生が思い浮かんだよ。
水着が完璧に下着代わりだ。瑠璃らしいけどね。
……にしても随分と大胆な水着にしたなぁ。隠さなきゃいけないとこは隠してるけどそれだけっていうか……。
ビキニっていうより……、ヒモ?
赤い紐だ。
瑠璃といえど失礼だしあんまりまじまじと見ないようにしたいとこだけど、コレは……
「……瑠璃嬢、それ万屋でクロネコに薦めてた水着の色違いだろ」
「え……」
「そうよ〜、クロってば結局買ってくれないんだもん! お揃いが良かったのにぃ!」
あ、クロちゃんは断ったんだね。良かった……。
彼女にこの水着は危ないよ、色んな意味で。視界に入れただけであの子の近侍に殺され兼ねない。
クロちゃんがまともな子で良かった。
瑠璃、いい加減その水着で仁王立ちはやめて。
「はぁ〜あ……」
大きな溜め息が聞こえた先には、瑠璃を見て頭を掻いている同田貫正国がいた。
彼は確か瑠璃の初期刀だった筈だ。いつも石切丸と共に瑠璃の暴走に巻き込まれては頭を抱えている光景をよく見るのだが……
「珍しいね。今日の瑠璃の近侍は同田貫? 石切丸じゃないんだ?」
「おう。あの野郎、祈祷場籠ってたせいで熱中症になりやがってよ」
「熱中症……。大丈夫なの?」
「大丈夫なんじゃねぇの? 同室の岩融がずっと看てんだが、「はらえたまへ〜、きよめたまめ〜」って譫言のように言ってるらしい」
うん、きよめたまめって全然大丈夫じゃないね。
というか、いくら同じ部屋でも岩融って看病できるの? 正直そういうことするイメージが無いんだけど……。まぁ人様の本丸事情に俺が何言ってもしょうがないんだけどね。
「すみません、お待たせしました」
「あ、来たねクロちゃん。シロちゃんたちも」
ペタペタと静かに響くビーチサンダルの音。シロちゃんと手を繋いでやってきた彼女は、俺たちが揃っているのを見ると一言謝罪を述べた。
全然待ってないけどね。女の子の着替えってこれくらいが普通だろうし。瑠璃が論外なだけだ。
日焼けしたくないからか二人とも水着の上からパーカーを羽織っている。猫耳の。
双子の猫だ。可愛い。
「わぁああああっ海キラキラしてる!! クロ! クロっ! 遊んできて良いっ!?」
「良いよ。大和守たちと一緒に行動してね」
「はーい! 大和くん、行こ!」
「わっ、ちょっとシロ!」
言うが早いか大和守くんの手を引いて一直線に海に向かっていくシロちゃん。初めての海に大興奮だ。走らないように体重掛けてるね、大和守くん。彼は今日もお世話係か、大変だね。
「大将ももっと近くまで行こうぜ」
「え、でも……」
薬研くんに手を差し伸べられ、何を思ったのかクロちゃんは言い淀んだ。彼女のことだからシロちゃんのことを心配しているのだろう。大和守くんに世話を頼んでいてもやっぱり姉妹だし、今までずっとベッドで過ごしてた子だもんね。心配するなという方が無理だ。
それにクロちゃんは今まで何をするにも控えめだったこともあって、我慢する癖がついてしまっている。もう自由になって良いのにね。
「行ってきなよ、主」
「そうですよ。僕らもシロさんたちと行動しますし、今日はゆっくり羽を伸ばしてください」
「俺たちも気にしてるしさ、行っておいで」
「……では、お言葉に甘えて」
「よし。足元気を付けてな」
俺たちに背を押されたクロちゃんは、薬研くんの手に手を重ねて砂浜を歩いていく。時折二人の視線が合えばふわりと微笑み合う。
美男美女。まさに理想のカップル像。
「じゃ、俺たちも遊ぶか」
「わーい! すなのおしろをつくりましょう!」
「あ、僕も作ります!」
「では僕も一緒に」
「主、こちらを」
「?」
砂遊びに行く短刀たちを見送り、どこからか長谷部が取り出してきたのは真っ黒なサングラス。
「日差しが強いので念のためにと」
「おう、サンキューな」
「あちらにサマーベッドも用意してあります。マッサージなど必要でしたらいつでもお申し付けください」
「はは、気が利くなぁ長谷部は」
そんで早いな、準備すんの。
“あちら”とやらにはサマーベッドとビーチパラソル。でかいクーラーボックスには大量の飲み物がキンキンに冷えているのだろう。準備良いなぁ。
……さて、まぁまずは海で一泳ぎしてくるとしようか。長谷部のマッサージはその後でやってもらおう。