クニと光忠を連れ、向かった先は政府管轄の病院。以前、シロちゃんが入院していた病院だ。

今回の特別任務の内容は戦闘になるような危険なものではなく、ただの調査。しかし敵が現れる可能性も零ではないということで、刀剣を二振連れてくるのがこの任務の条件だった。



「で? 調査対象は?」


「肥後国の審神者。女の子だって」



歩きながらクニと光忠に調査内容を説明する。

二十代の審神者の女の子が何者かに襲われ、現在その病院に入院しているらしい。
事件が起こった場所は現世。帰郷した時に敵と出会したそうだ。偶然にも近侍を一振連れていたため闘いながら政府まで逃げ帰ったが、その刀剣は重傷まで追い詰められていた。審神者は幸い命に別状は無いらしいけれど、怯えきっていて政府の役人では事情聴取もままならないんだとか。



「そこで何故、特別部隊がその審神者に事情聴取しなければならないんだ?」


「その子を襲った敵は恐らく…"あいつ"だからね」


「えっ!?」



指令に書かれていた審神者の襲われ方というか、傷つけられ方が間違いなくあいつがやったと物語っていた。このタイミングであんな悪質なことをやるのはあいつ以外にいないだろう。

事情聴取する役として特別部隊が選ばれたわけではなく、あいつと関わりがある"俺"が選ばれたということだ。



「そっか…。
お見舞いっていう名目での調査ってことだよね? 男の僕らが行って大丈夫なのかな?」


「さぁ? 任務と言えどその辺はちゃんと配慮してると思うけどなぁ」



病院の自動ドアを潜り、待ち合わせ場所として指定されていた受付前に行く。既に真黒先輩と瑠璃、彼女の付き添いで石切丸と蛍丸が待っていた。



「瑠璃と初任務か…」


「何よ、文句あるわけ?」


「まぁまぁ」


「ほら主、すぐ喧嘩腰にならないの」


「はは…。二人とも仲良くやってね?」



本来の俺のパートナーはクロちゃんだ。彼女がパートナーでないなら俺は特別部隊を辞めるとも言ってある。

だが今回の任務は特例として瑠璃と共に行うことになった。と言うのも、クロちゃんが敵と接触し、更にはその標的が俺であることがわかった。万が一、クロちゃんの位置情報が敵にバレていた時を考えると、共に行動するのは危険すぎる。敵の勢力がどれ程なのか、まだわからないからだ。

幸か不幸か、彼女はもう政府との直接的な繋がりは絶たれている。暫くの間は何か大事が無い限りは政府に赴くこともしないらしい。これは政府からの命令ではなく、被害が拡大することを彼女自身が望まず自ら志願したのだ。

ということで、一時的にパートナーをチェンジしろと政府のお偉いさんたちから命令が下り、クロちゃんからも謝罪と共にお願いされ、瑠璃と組むことになったというわけだ。



「悪いね、瑪瑙。この件が終わるまでは瑠璃と仕事してね」


「わかってるッスよ」



これは俺の問題だ。クロちゃんがあいつに目を付けられたのも、俺のパートナーだからという理由だろう。パートナーと言えど彼女をわざわざ危険に巻き込むつもりは無い。

早くケリつけないとな…。



「でも今回の任務は調査でしょ? 翡翠じゃなくて良いんスか?」



パートナーになるのは翡翠でも良かった筈だ。チェンジしなくても瑠璃と翡翠チームで良かっただろうし、寧ろ調査なら翡翠の方が観察眼も優れている。万が一、審神者が呪いを掛けられていた場合にも、術系が得意な彼なら呪いの類にも詳しい。

対して瑠璃はそういった術系よりも戦術に長けている子だ。敵地に乗り込む時の方が彼女は活躍できるのに、調査で俺と組まされる理由がわからない。



「むぅ、あたしだって調査くらいできるわよ!」


「うん、まぁ瑪瑙が心配するのもわかるけどね。言葉は悪いかもしれないけど、今回は瑠璃の方が都合が良いから」


「都合?」



行けばわかるよと微笑む先輩に疑問符を浮かべていると、時間を確認した先輩に連れられてその審神者がいる病室へと案内された。










「刀剣たちは廊下で待機ね」


「わかったよ」



クニたちはあくまで主である俺たちを守るためについてきてもらっただけで、病室の審神者を萎縮させないために室内には入らせないらしい。

先輩がノックをすると、少し間を置いて「どうぞ」と声がかけられる。中では目を真っ赤に腫らして啜り泣いている女の子がいた。

先に聞いていた通り、歳は二十代前半といったところか。瑠璃とクロちゃんよりは上な感じがするから二十二か三くらいかな。髪は結べないくらいのショートカットで大人しめの雰囲気だ。



「こんにちは、夏乃(なつの)さん。お加減いかがですか?」


「…………」


「今日は昨日話していた通り、二人の審神者を連れてきました。彼らならきっと親身になって話を聞いてくれますよ」


「…………」



優しく声をかけるが審神者は悲しいくらいの無反応。これじゃ事情聴取にならないのも頷ける。

先輩は一言二言その子に話しかけたが、拉致があかないと判断したのだろう。俺たちに顔を向けると苦笑して一息吐いた。



「…それじゃ、私は寄るところがあるので席を外しますね。何かあればすぐに呼んでください。
瑠璃、瑪瑙、彼女を頼んだよ」


「はーい」


「了解ッス」



審神者を俺たちに任せると決めた先輩は、彼女に会釈すると早々に退席した。


 

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