六月も半ばに差し掛かってきたその日はどんよりとした雲が空を覆い、大粒の雨が地面をびしゃびしゃに濡らしていた。

これは暫く止みそうにないな。広い畑に水やりしなくて済むのは良いんだけど、折角実ってきた作物が腐らない程度に降ってほしいな…。

仕事を終えてそんなことを考えながらなんとなく広間に向かうと、短刀と脇差たちがテーブルを囲んで黙々と何かを作っていた。



「何してんの?」


「あ、主君!」


「皆でてるてる坊主を作ってるんです」


「主君も作りませんか?」



秋田と平野に誘われ皆の手元を覗き込むと、なんとまぁ可愛らしいてるてる坊主が山のように生み出されていた。

晴れていれば皆外で駆け回るのだろうが、ここ最近は雨ばかりだからな。梅雨時期だし仕方ないんだけど、やはり晴れてほしいのだろう。その願いの結果がこの大量のてるてる坊主…。これは叶えないわけにはいかないね。

折角だし俺も参加しようかと空いているスペースに行けば、そこには短刀脇差に混じって贋作嫌いの打刀、蜂須賀虎徹が同じ様にてるてる坊主を作っていた。



「珍しいな、お前がこういうの作ってるの」


「浦島に誘われたからね」



成る程な。弟の誘いじゃ蜂須賀が断るわけないか。隣に座る浦島も兄が一緒だからか普段よりずっと楽しそうだ。



「えっへへ!蜂須賀兄ちゃんがいるとご利益あると思ったんだ!」


「ご利益?」


「ぷっ!確かに」



何て言うのかな、神々しい?
いや、皆神様だから人間の俺からすれば神々しいのは当たり前なんだけど…。

中でも蜂須賀は戦装束も内番服も金ぴかだし、晴れを呼び込む力は凄まじいと思う。



「庭に蜂須賀の銅像でも建てれば後光が射すんじゃない?あ、待てよ。お前の場合は銅像じゃなくて金像になるのか?」



天使が舞い降りてきそうなやつ、天使の梯子だっけ?スポットライトみたいに空から射してくるのが簡単に想像できる。



「主、それは俺を馬鹿にしてるのか?」


「虎徹の真作なら天候まで変えちまう力が備わってそうだなってこと」


「なら良い」



良いのか。冗談なんだけど。

そんじゃ、俺もてるてる坊主作るとしようか。
皆が作っているそれらにはまだ顔が描かれていない。必勝達磨みたいに晴れたら描くってことなんだろう。本来はそうするものだって何かで読んだことがある。



「はやくはれるといいですね」


「うん…」


「てるてる坊主〜てる坊主〜」


「あ〜した天気にしておくれ〜」



短刀の何人かはてるてる坊主の歌を歌いながら首にリボンや毛糸を巻いていく。歌って言っても秋田と乱が歌ったその部分だけなんだけど。

…ま、てるてる坊主って歌詞も由縁もちょっと残酷だし、テンション下がりそうだしな。歌わなくて正解か。



「さっきから聞いてりゃ、その続きは歌わねぇのか?」


「え?続きなんてあるの?」



薬研が聞けば乱や他の短刀たちは顔を見合わせて疑問符を浮かべた。歌わなかったんじゃなくてそこしか知らなかったのか。

て、薬研まさか教えるつもり?



「つづきってどうなるんですか?はれるんですか?」


「さてな?続きがあることは知ってるが、歌詞は知らん」


「なーんだ、結局薬研も知らないの?」


「はは、すまんすまん」



歌いたくないからなのか、本当に知らないのか。笑って誤魔化す薬研だったが短刀たちの意識は手元のてるてる坊主よりも歌の方に移っていた。

この歌はいつ頃に作られたんだったかな?刀剣の彼らが知らないのは当たり前なんだけど、その意味を知ったら晴れどころか雷雲を呼び込みそうだ。

薄紫の毛糸を解しながら聞かれた時にどう説明しようかと悩んでいると、脇差グループの方からそれが聞こえてきた。



「いつかの夢の空のよに〜、晴れたら金の鈴あげよ〜。じゃなかったっけ?」


「記憶にない」


「そうだね、それが一番の歌詞だったかな」



ズオたちは知ってたのか。バミはまぁ仕方ないとして、堀川もその辺は詳しそうだな。俺が説明するまでもなかったか。



「一番…ということは、二番もあるのですか?」


「二番は、わたしの願いを聞いたなら〜、あまいお酒をたんと飲ましょ〜」


「おさけですか!なんだかたのしそうですね!」


「…三番もあるの?」



二番があるなら三番もあるだろうと考えるのは普通だ。特に童謡は三番まである歌が多いしね。
しかし、ズオと堀川も三番の存在は知っていても歌詞はここまでしか知らないらしい。


 

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