落ちた先は一階…ではなく、更に下の床まで抜けてしまって地下一階。予想外の脆さでした。

うちの本丸には地下なんて存在していないのに。後から作られた空間なのだろうか?

ここも上にあった部屋と同じ和室だが、違うのはここの壁には爪痕が無いこと。先程の厚藤四郎の姿からすると爪痕を残していたのは彼だろう。だとすると、彼はこの地下には訪れていなかったらしい。

…まぁ、″こんなの″が大勢いる中に来ていたらそれはそれで結構大問題だったから良いのだが。

今剣を構えながら全神経を研ぎ澄ませる。いつ、どこから、どうやってこの状況を打破しようか。

ぐるりと囲んでいるソレらの気配。暫く見ていなかった姿だが、忘れる筈もない。



『何故こんなところに、時間遡行軍さんがいるのでしょうね?』



地下だからなのだろう、誰がやったのかほんのりと燭台に明かりが灯っている。

短刀脇差のみならず打刀から薙刀に至るまで敵さんは勢揃い。おかしな本丸だと思ってはいたけれど、これは本格的に何かありますね。

ジリジリとにじり寄ってくる敵さんを前に、私も今剣を構える。



『付き合わせてすみません、今剣』


今《なにいってるんですか、あるじさま?ぼくだってあるじさまのかたななんですから、おもうぞんぶんつかってください!》


『そう言って頂けると…!』


ガキンッ!


『振るい甲斐がありますね』



背後から来た脇差の攻撃を防ぎ、スルッと横に逸れながら今剣をその腹に一撃。倒れ込む脇差に思いっきり蹴りを食らわせれば、向かってきた何人かがそれの巻き添えになる。

敵の注意が逸れたのを良いことに、その部屋を出て廊下を走った。

どこかに上へと続く階段がある筈。
…無かったらどうしましょ?またあの部屋に戻って、何とかして天井の穴から抜け出す他無いでしょうか?ただでさえ身長低いのに…。



今《薬研たちはだいじょうぶでしょうか?》


『心配ですか?』


今《はい…。あるじさまはしんぱいじゃないですか?》


『心配ですよ』



というか、たぶん心配かけさせてるのは私たちだ。いきなり敵の攻撃で姿を消したのだから。焦って厚藤四郎にやられてなければ良いけれど。



『でも、わかりますからね。皆さんの様子』


今《え?》


『何をしてるのかまではわかりませんが、皆さんに宿した私の霊力は正常です。重傷を負うほどの怪我はしていません』



皆さんもそれを感じ取って私たちが無事なことをわかっているだろうし、まずは目の前の敵…厚藤四郎をどうにかしようとしている筈。

それに、向こうには薬研がいる。彼は頭の回転も早いし、″近侍″という責任も十分に理解している。





『万が一、私たちが二手に分かれてしまった場合。その時は薬研、貴方が皆を纏めて進め』


薬「それは絶対命令か?」


『絶対。そんなことにならないことを祈るけど、何が起こるかなんて私にもわからない。だから短刀の中でも一番強く私との戦歴もある薬研を近侍にしたし、今剣を私の刀として連れていくのもその為だ。念には念を…と言うだろう?』


薬「…わかった。だが大将、くれぐれも無茶なことすんなよ?」





近侍を頼んだ時にもそう伝えていたし、先程私たちが落ちる寸前にも言った。





『頼んだ』





大丈夫。私は薬研を信じている。彼だけでなく、乱も小夜も、ここにいる今剣だって皆、共に戦うためについてきてくれたのだ。私が信じなくて誰が信じるというのか。



今《!あるじさま、うしろからてきがきますよ!》


『はい』



今度は太刀か。真っ暗闇の中ご苦労様ですね。
見えているのかいないのか、闇雲に振り回しているのか知りませんが…



『お覚悟くださいね』



私の首目掛けて横に薙ごうとしたそれを屈んで避け、懐に入ろうとした時だった。



今《あるじさま!》


『!』










ザンッ!!!


 

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