同じ毎日の繰り返し。
真っ白な箱の中で目を覚まし。朝の検査をしてから運ばれてきた食事を食べ。姉がくれたお下がりの本たちに目を通してる間に点滴が換えられて。また時間が経ったらお昼の検査。お昼ご飯。夜の検査。夜ご飯…。
そうして目が疲れた頃に電気を消して、眠くもないのに眠りにつく。

二歳の時からずっと同じ、私のスケジュール。

でも、これが退屈かと聞かれたらそうでもなかったりする。この箱の中は小さい頃に姉がくれたぬいぐるみで溢れているし、姉のマーカーだらけの教科書で姉が今どんな仕事をしているのかを知り、それを想像するのは楽しい。

今頃あの表情の乏しい姉は審神者としてうまくやっているのだろうか?なんて、中身はしっかりした人だから心配なんて必要無いし、姉なら大丈夫だと信じている。

だから私はこうしてお医者様の言いつけを守り、早く姉の元に…クロの隣に戻るんだと逸る気持ちを抑えながら同じ毎日を繰り返す。

……例え目の前に気に食わない人物が来ようとも。



真「今日も元気そうだねシロ」


シ『何か用?真黒』


真「うん。せめて″さん″くらいは付けようか。私としては是非とも″お兄ちゃん″て…」


シ『誰が誰の』


真「辛辣!!」



お兄ちゃん悲しい!!とか言いながら腕で目元を覆う真っ黒い男。通称″真黒″。

クロを政府に連れて行った張本人であり、私を政府管轄のこの病院に移動させた張本人であり、彼も知り得なかったクロの能力値の高さから私たち双子を養子にした″鈴城家″の人間。

こいつは私たちの義兄で、私はこいつが嫌いだ。こいつだけじゃなく、鈴城家の人間が大嫌い。

瑠璃のことも最初は嫌いだったけど、ある時お見舞いに来た彼女と真剣に話し合って、今では″鈴城家の人間″ではなく″瑠璃″として見れるようになった。
その話はまた後日語るとしよう。



真「うぅ〜…、シロってば冷たい」


シ『元はと言えば誰のせいで』


真「わかってます、はい」



目に見えてしょぼんと肩を落としているけれど、私の内にある怒りがそれくらいで治まると思ったら大間違いだ。
こいつがクロを政府に連れて行かなければ、あの子を縛り付ける鎖はまだ少なかったのに。


百歩譲って、クロを親戚から引き離してくれたことは感謝している。私は知識でしか知らないけど、それでも地獄のように思える日々から抜け出せたのなら良かったと安心した。あとは私が頑張るだけだと。

でもその後、お見舞いという形でやってきたこいつら鈴城家の人間から話を聞いて、再び絶望に落とされた。

クロを親戚から買って連れて行ったのは政府が取り締まる審神者養成所で、霊力の高いクロには審神者になって働いてもらうのだと。
それだけならまだ良い。地獄から救ってもらったのだから、働かせてもらえるだけ幸せなことなんだとクロからも聞いていたから。

けど、霊力が高すぎるから制圧チョーカーを付け、万が一その力が暴走した時に対処しやすいように養子にしたってどういうこと?
どう考えたって、クロの力が怖いから首輪で繋ぎましたって言ってるのと同じだよね?何それ?獣扱い?

しかも″養子にした″ってことは必然的に私も養子になったということだ。これは私が了承する前に進んだ話で、クロは頷いたということだろう。
義母となった女のニヤニヤした笑い顔が憎たらしくて堪らなかった。メスでズタズタに切り裂いて脳味噌グッチャグチャに掻き回したいくらいに。
グロい?本心だよ。


恐らくこいつらは、クロが頷いたのは妹の私が人質という形になっているから断れなかったと思ってるんだろうけど。違うよ。
クロはわざと断らなかったんだ。

クロの眼中に、こいつらはいない。
今はどうかわからないけど、少なくとも養子の話が出た時には無かっただろうことはわかる。だって私もクロの立場だったら頷くもの。

私たちの心にあるのは、物心ついた頃に亡くなった母の「私の分まで生きて」という遺言と、お互いの存在だけ。

私たちは双子。離れていても二人で一つ。
お互いが絶対の存在なのだ。

母の遺言を全うするために、互いが互いのために生きる。生きるためには人間だろうと権力者だろうと使えるものは全て使う。

依存し過ぎてるくらいの姉妹愛だと笑われるだろうか?呆れる?引く?
でも構わない。片割れのために生きることこそが私たちの生き甲斐なのだから。


 

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