馬を宥め終え、厩に空いた穴を塞ぎ(継ぎ接ぎのようになってしまいました…)、疲れたとグダる瑠璃を連れて広間に向かった。

私たちが行くと皆さん大人しくお茶とお菓子を嗜んでいて、なんというか…刀とか神様というより本当に人間のようだ。
空いている座布団に座るとスッと湯飲みが置かれ、見ればお盆を持った一期がにこりと微笑んだ。



『ありがとうございます』


一「どういたしまして。厩の方は…」


『大丈夫です。継ぎ接ぎですが修理もしましたから』



そう言うと厩が気掛かりだったらしい面々は安心したようでほっと息を漏らした。いつも思いますけど皆さん優しいですね。

さてと。お茶を頂く前にまずは紹介しなくては。



『改めて紹介します。このお騒がせ厩破壊女が、私の義姉の瑠璃です』


瑠「ちょっと何よ″お騒がせ厩破壊女″って!もう少し言い方ってモンがあるでしょ!?」


『煩い、力馬鹿女』


瑠「クローーーーッ!!!」



ああ煩い煩い。ガミガミと怒鳴る瑠璃を余所にやっとお茶を一口。
…うん、渋味がちょうど良いです。一期はお茶を淹れるの上手ですね。

…と、そろそろ鎮めないと。五虎たちがオロオロしているし、長谷部も黙ってはいるものの拳が震えている。
怒り爆発十秒前といったところか。爆発させても良いけれど。



『自己紹介。早くやらないと印象悪くなるぞ』


瑠「はっ!」



やっと視線に気付いたのか、瑠璃は居住いを正してコホンと一つ咳払いをした。



瑠「はじめまして!クロの義理の姉で、瑠璃っていいまーす!姉って言ってもクロとは同い年よ。あたしも他所で審神者やってんの。どうぞよろしくー!」



笑顔で明るく挨拶したけれど、皆さんは固まっていたり微笑んでいたり(おじいちゃん限定)…、どう反応すべきなのかとキョロキョロしたり。
もはや印象は手遅れのようだ。ご愁傷さまです。

でも、彼らはついこの間まで私のことも警戒していたのだ。いきなり私以外の人間が来れば警戒するなと言う方が難しい話。

瑠璃も黒本丸を修復したのだからわかっているのだろう。特に彼らの反応に何を言うでもなく障子の外の景色を見ていた。



瑠「それにしても、結構綺麗にしたのねぇ」



……″綺麗にしたのねぇ″?
なんか言葉がおかしいような…。



『……瑠璃、まさかとは思うけど掃除してる?』


瑠「…………」


『…………』



おや…あからさまにそっぽ向かれた。予想は当たったらしく、反対隣に座っている石切丸さんが苦笑している。



『してないんですね?』


石「主に掃除は専門外だよ」


『だと思いました。だって瑠璃は根っからの…』


「『力馬鹿』」


瑠「だぁああもう声揃えて言うなぁ!!」



事実を言っただけなのに。
瑠璃の腕力は男にも勝る程強いし頭も良いけれど、その他私生活の術はてんで駄目なのだ。彼女の家では炊事、洗濯、掃除も全部、使用人さんたちや私がやっていたから。

そうなると瑠璃の本丸は今どういう状態に…?
……ああ、石切丸さんが刀剣たちに割り振ってるんですね。瑠璃の近侍は楽じゃないでしょうに…お疲れ様です。



瑠「そ、それよりクロ!久しぶりに手合せしない?」


『嫌』


瑠「即答!?なんでよ?」


『瑠璃と手合せする理由が無い』


瑠「むぅぅ良いじゃん!おにぃから大太刀貰ったんでしょ!?」


『(……真黒さん…口滑らせましたね?)』










真「ふぇっくしゅん!!」


「??風邪ッスか?」


真「否、違うと思う。
(この寒気はクロかな?何かわからんけどスマン、クロ)」










瑠「その為に石切丸も連れてきたんだから!」


石「ちょっと待ってくれ、初耳なんだが」


瑠「今言ったもの」


石「はぁ…」


三「はは、大変だな石切丸よ」


今「おうえんしてます!」


石「応援するなら手伝ってくれないか?三条の刀として」


今「いやです!」


岩「がはははは!同じ三条でもそれは勘弁だな!」


小狐「この小狐の手はぬしさまの為にあるのでな。ぬしさまの義姉と言えど貸す手は持ち合わせておらん」


三「ははは、愚痴ならいつでも聞くぞ」


石「………はぁ」



あああ…石切丸さんに茸がにょきにょきと…。

でも瑠璃のとこに何人の刀剣男士がいるのかはわからないけれど、今の石切丸さんの様子なら一応ちゃんとやっていけてるのだろう。
なんだか良い父親のような印象だし。

それより気になったのは瑠璃が手合せの為に石切丸さんを連れてきたと言ったことだ。



『真剣で手合せする気?』


瑠「もちろん!」



見たところ石切丸さんは大太刀のようだし、刻燿も大太刀だ。下手したら大怪我じゃ済まないのだけど?

チラッと皆さんを見ると…あらあら、やめておけという視線を寄越す者多数。中には腕でバツを作る者もいる。笑っているのは次郎と鶴丸だけど、手合せすることには反対してるみたいだ。



『瑠璃、百歩譲って手合せするのは構わないけど真剣はダメ。竹刀で…』


瑠「何よ、逃げる気?」


『…………』





逃げる?

私が?

誰から?





『上等』


瑠「そう来なくっちゃ!」










燭「え?え?嘘でしょ?やるの?」

薬「あーあ。大将の奴わざと乗りやがったな」

乱「わ、わざと?」

薬「長谷部の旦那とやった時にも「持ち掛けられた勝負は受ける」って言っただろ」

五「だ、大丈夫かな…主様……」

薬「心配すんな。大将は負けねぇさ」


 

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