部屋から刻燿を持ち出して庭に出る。今回は鍛練場を破壊しないようにするためだ。お互い大太刀ですからね。
皆さんには観覧するなら本丸の縁側から見るようにと伝えてあり、そちらを見れば……はい。皆さん雁首揃えて見守ってくださっている。
今日はもう仕事は終わりですね、仕方ありません。
『ちゃんと寸止め出来るようになったか?』
瑠「大丈夫!殺しはしないから!」
石「当たり前だろう」
『…付き合わせてすみません』
石「いや、寧ろこちらがすまない。何しろ瑠璃は…」
「『力馬鹿』」
瑠「もうそれは良いから!!」
瑠璃が石切丸さんに手を差し出し、彼の本体を受け取って鞘から抜く。キラリと光る大きな刀は彼女の手には大きい。まぁ私も人のことは言えないけれど。
石切丸さんも縁側から見るようで、擦れ違い様にまた一言「すまない」と謝られた。こちらこそ、我儘な義姉で申し訳無いです。
私も刻燿を抜いて構えると、瑠璃の表情も真剣なものに…でも楽しそうに目をギラつかせ、どちらからともなく駆け出した。
ガキィィンッ
瑠「二年ぶりくらいだっけ?」
『そうだな』
瑠「クロってば敬語取ると途端に男口調になるの、変わらないね」
『使い分けが難しくてな』
瑠「それがクロの普通?」
『知らん』
ギリギリと鍔迫り合いをしていた腕に力を入れて弾くように押し返す。けど流石は怪力。扱っているのが大太刀でもスピードは衰えない。
交えては弾き、交えては弾き…。薙いでは避けて、防いでもまた次の攻撃が来る。楽しそうに無邪気に笑いながら攻めてくる瑠璃は好戦的過ぎるから困るんだ。
もう少し怪我をしないようにとか気を配ってほしい。
お互いにもう″主″という身で、自分だけの身体じゃないんだから。
──トクン……
『?』
瑠「ほらほら次はこっちだよ!!」
キィィンッ!
──縁側では…
加「あぁああもうハラハラするなぁ!!」
縁側の刀剣たちはお茶を啜ることも無く、瞬きする間も惜しむように主たちの手合せをガン見していた。
大和「煩いな、ちょっと黙っててくれない?」
加「だってさ安定!主が戦ってるんだよ!?しかも真剣で!!」
大和「わかってるよ!だからいざという時に動けるように見てるんだろ!?」
堀「はいはい、二人ともそこまで。主さんのこと見なくて良いの?」
「「!!」」
和泉「国広…。二人の扱い上手いな」
堀「えへへ」
放っておくと喧嘩に発展する加州と大和守を堀川が宥め、また主の手合せを観戦する。
仕事に戻るも良し、見るも良しと言われて結局全員がこの場に残ったのだ。
理由としてはやはり主が心配だったから。そして主の本気が見れるなら見たいという、ちょっとした好奇心もあったりする。
乱「薬研も主さんの本気はまだ見てないの?」
薬「ああ。函館の出陣は大将にとっては準備運動みてぇな感じだったな」
五「じ…、準備運動…ですか?」
前「今日の出陣、戦場を駆ける主君はすごく強くて綺麗でした。今の主君と同じように強い眼差しをしておられて」
一「そうか。では私たちも主のように強くならないといけませんな。いつまでも守られてばかりでは刀剣として格好もつきません」
狐「あるじどのに負けてはいられません!鳴狐も頑張らねば!!」
和やかに会話する粟田口だが、誰一人として目を合わせて会話をしていない。怖いくらいに全員目に映しているのは己の主、ただ一人。
瑠璃の挑発に乗った主だが、真面目に手合せしているものの本気は出していないように見える。逆に瑠璃の方はと言うと、まるで怪我することも厭わない子供のようにはしゃいでいるような…。
もしや主は瑠璃に怪我をさせないことだけを考えて動いているのか?
石「まったく、主も困ったものだ」
三「幼子のようで良いではないか」
石「明るくて素直なのは良いけどね、行動する前に周りの迷惑を考えてくれないから」
小狐「ぬしさまとは正反対じゃのぅ」
今「あるじさまはたたかっていてもしずかですし」
岩「どちらも良き審神者なのだ。人それぞれ違っていて良いではないか」
石「それもそうだね。………ん?」
今「どうしました?」
石「…いや。なんだかクロさんの刀が…」