一「主。では、"特別任務"というのは?」


太「話を聞いた感じですと、会議とはまた別で話を振られたようですね」



話がジャンケンに逸れていくのを修正してくれたのは一期と太郎だった。お兄さん組は真面目ですね。



『この話は政府に勤めている私の義兄から聞いた話です』


堀「"義兄"ってことは…、この間の瑠璃さんの?」


『はい。瑠璃様の実兄です。政府登録名は"真黒"。特別任務は政府上層部での会議で決まったことだそうで、その内容は"黒本丸の修復と刀剣男士の更正"です』


「「「「「!!!」」」」」


鶴「…はは、なんか聞いたことある話だな」



"ここ"と同じじゃねぇかと鶴丸は失笑した。自分たちが過ごしてきた黒本丸と同じ…、或いはそれ以上の黒本丸の修復がその特別任務。まさか今度は修復する側になるとは夢にも思うまい。



『この任務は政府から任命された審神者だけがこなすもので、先月指名された審神者は三名。翡翠さんという方と、今日顔合わせをした瑪瑙さんという男性。あと瑠璃様』


和「げっ!あの暴れ馬もやってんのか」



あ、暴れ馬って…。間違ってはいませんがそんな露骨に毛嫌いしなくても…。



一「ちょっと待ってください主。先程、"新たに与えられた特別任務"と仰っておりましたよね?」


『はい。その任務、黒本丸修復更正部隊の要員に私も含まれることになりました』


「「「「「!!!?」」」」」


加「っ、なんで!!?」


『私がこの本丸の修復に成功したことと、その期間が思いの外早かったこと、霊力の大きさから目をつけられたらしいです』



言われたままを伝えると皆さんの表情が強張って俯き勝ちになっていった。加州に至っては半泣き。

え?待ってください、何故ですか?



加「主…どっか行っちゃうの?」


『え?』


加「俺たちのこと置いて…出ていくの?」



…ああ、そうか。

今の説明で特別任務を与えられたのは私個人だと捉えてしまったようだ。
薬研と大和守は一緒に聞いていたからわかっているけれど、他の皆さんには大きな誤解を招いてしまったらしい。



大和「バカ清光」


加「っ、バカってなんだよ!!」


大和「普段主にベタベタしてるくせに主のことわかってないからバカだって言ってんの!主が僕らのこと置いていくわけないでしょ?」


加「!主、ほんと?」


『はい。瑠璃様も通常の審神者業務をこなしながら特別任務を行っています。仕事が増えただけで、私がここから去ることはありませんよ。説明不足ですみません』


加「っ良かった!!」


鶴「驚かせないでくれよ主。驚かすのは俺の役割なんだぜ?」


『すみません』



そんな役割があったかどうかはさておき、目に見えて嬉しそうな顔をした皆さんに胸がほっこりするのを感じた。

…私がここにいることを望んでくれている。間違いなく私は彼らの"主"なんだと、彼らの反応でそう再認識した。



『…………』



さて。次は"私"についてですね。

立ち上がって一段下がり、私は皆さんと同じ高さのそこに正座した。



長「主?」


『…ここからの話は、私個人を知ってもらうためのことです。主としての言葉ではなく、"私"という一人の人間の言葉を聞いてください』


薬「…………」


大和「…………」


『私の…全ての過去を打ち明けます』


「「「「「!!!」」」」」


『ただし、その内容は貴方たちの心の傷を抉るものも含まれています』


鯰「え?」


骨「主…?」


『そこそこ長話になりますし、聞くに堪えられなくなった時は席を外してくれて構いません。今現在、私の過去に興味が無ければ部屋に戻って休んでいてください。聞かなかったからと咎めるつもりはありません。…でも、これを話すのは今夜限りです。聞くも聞かぬも、皆さんが個々に決めてください』



私は勝手に語るだけ。真黒さんに言われなければ、もっとずるずると先伸ばしにしていたことだろう。

ただの思い出話と言うには鉛のように重い私の記録。記憶の奥底に沈んだそれを掘り起こすだけでも大変で、そう何度も語って聞かせるようなものでもない。



薬「聞かせてくれ、大将」


『!薬研…』


薬「言ったろ?俺たちにも心がある。大将が勇気出して語ろうとしてんのに逃げる奴なんてここにはいねぇよ」


今「そうですよ!きかせてくださいあるじさま!」


和「今度は、俺たちが聞く番だからな」


『…………』



…私は彼らを侮っていたらしい。私の忠告さえも笑って受け入れてくれるとは…。こんなにも彼らの心は強く美しかった。

ありがとうございますと礼を言い、一度深呼吸して落ち着いてから私は語った。










……全ての始まりは
私たちが生まれたその日にまで遡る…


 

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