再び掃除に戻ろうとしたところで、薬研に…
「そろそろ昼の時間だよな?」
と言われ、腕時計を見れば正午を少し過ぎた頃だった。
別にお腹は空いていなかったけど、薬研は今朝のこんのすけの怒りっぷりを見ていたからか、それともお医者様だからなのか…
「食事はちゃんと摂れよ」
と、それはそれは素晴らしい笑顔で言った。人はそれを″黒い笑み″だとか言うらしい。笑顔に色があるなんて初めて知りました。
「……これくらいで足りるでしょうか?」
「うん!これだけあれば十分だと思うよ!」
その場に居合わせていた光忠は、薬研から事のあらましを聞くと「それなら全員分用意しよう」と言い、現在厨にて私とおにぎりを作っている。
光忠はこの本丸では料理長さんなんだとか。
因みに薬研と加州と大和守には掃除に戻ってもらった。加州はこっちの手伝いをやりたそうだったけれど、料理の人手よりも掃除の人手を増やしてさっさと終わらせたかったのです。ごめんなさい。
こんのすけが持ってきてくれた食材の中に梅干しと昆布の佃煮があったから、具材はこれで良いだろう。
「…刀剣も料理って出来るんですね。驚きました」
「(本当に驚いてる!?表情変わらないんだけど?)
あはは。まぁ僕の場合は前の主…、伊達政宗公が料理好きだったからね。色々見てたから覚えちゃったんだ」
見てただけでこれだけ出来るなんて凄いです。
「助かりました」
「え?」
「現代で竈はもう殆ど使われていませんから。使い方教えて頂けて良かったです。ありがとうございました」
「なんだ、そんなこと。これくらいどうってことないよ。僕も握り飯がこんな綺麗な三角に纏まるなんて知らなかったし、お互い様だって」
「当時は三角ではなかったのですか?」
「真ん丸だったよ。人によっては両手じゃないと持てないくらい大きかったりとか」
両手で?
…ちょっと想像してみた。
「………食べづらそうですね…」
「食べづらそうだったな…」
ああ、政宗公が食べてたのですね。
思い出したのか懐かしそうに苦笑いを浮かべる光忠は、比較的大きなおにぎりの乗ったお皿を持って厨を出る。もう片方の小さいおにぎりのお皿は私が持った。
「広間の縁側で食べましょうか」
「そうだね」
そこならさっき加州と大和守が掃除してくれたし、庭の桜も眺められるから、ただのおにぎりだけどより美味しく感じられるだろう。
おにぎりを置いた光忠は太刀の皆さんを呼びに行き、私は短刀と打刀に声をかけながら再び厨に戻ってお茶の用意をする。
瑠璃様の家にいた頃もお客様のお茶は私が出していたから、人数分のお茶を出すのも苦では無い。そう考えると良い経験をさせてもらっていたのかもしれない。
…良い思い出は無いけれど。