お茶を持って縁側に腰を下ろすと真っ白い毛玉が五つ、私の腰やら足やらに擦りついてきた。
グルグルと喉を鳴らしているけれど猫ではなく小虎だ。その内の一匹は見覚えがある。



「今朝のコ…ですね」



返事は無いけれど手をペロペロ舐めてくるあたり当たっているようだ。他のコたちもお腹空いてるんだろう、ぐりぐりと頭を擦り付けてくる。



「あっ、ご、ごめんなさい!」


「?」



聞こえてきた謝罪の声に振り向けば、おどおどした様子の男の子が私と小虎たちを見て涙を浮かべていた。

そうだ、手入れの時にこの小虎たちを連れてたのってこの刀剣だったような…。
手入れで自己紹介してもらった時に″五虎退″と言っていた。退けてはいないとも。



「五虎の虎ですね」


「えっ…、はっはい…あの……っ」


「″退けてはいない″のでしょう?日常では″五虎″と呼ばせて頂いても良いですか?」


「!は、はいっ!」



緊張したように、でも頬を染めて柔らかく微笑んだ五虎にちょいちょいと手招きすると、恐る恐る私の隣に腰を下ろした。



「す、すみません…。今朝、この虎くんがご迷惑を…」



一匹の虎を示して謝ってくる。そのコは今朝、私がパンをあげた小虎だ。



「迷惑ではありません。寧ろ可愛くて癒されました」


「よ、良かった…。前の審神者さんには、その…鬱陶しいって…言われて…」



効果音を付けるなら″しょぼん…″だろうか。本当に、ここの刀剣たちは前任に良い思い出が無いらしい。

落ち込む五虎を慰めるように小虎たちが擦りよったり舐めたりしている中、一匹だけは傍に置いてあるおにぎりの匂いを嗅ぎ始める。言わずもがな今朝の小虎だ。



「あっ!だ、ダメだよ虎くん…!」


「食いしん坊なんですね、このコ」


「ご、ごめんなさい…っ」


「大丈夫ですよ」



でもそれは皆さんが食べるおにぎりだ。塩だって塗ってるし味の濃い具も入っている。そのまま食べられちゃまずい。



「五虎。小虎たちと少し待っていてください」


「あ、はいっ」



五虎に小虎たちを見張っててもらい、また厨に行って平たいお皿にご飯を盛る。それに鰹節を振り掛けてサッと混ぜれば猫まんま完成。…虎だけど大丈夫ですよね?

それを持って縁側に行くと、五虎だけじゃなく薬研と乱と前田、今剣と小夜も一緒になって小虎を抱えていた。打刀や太刀の皆さんも揃っている。



「あ、主様…」


「お待たせしました。小虎たちのご飯はこっちですよ」



床に置くと小虎たちの目がキュピーンと光った。と思ったら…



「あっ」


「ぁてっ!」


「わっ!?」


「おっと!」


「わわ!」



それぞれの腕を蹴飛ばして一斉にご飯に群がった。

おーおー、凄い食欲ですね。尻尾だけをピンと伸ばし円になってガツガツと貪るその様子は物凄く可愛い。



「すげぇ食いっぷりだな」


「ほんとだね。尻尾可愛い!」


「虎くんたちも…ご飯は久しぶりだから…。あ、主様っ、ありがとうございます!」


「どういたしまして。では私たちも食べましょうか」



いただきますと言ってからおにぎりを手にとってそれぞれ縁側に腰を下ろす。一人二つずつくらいは食べられる筈だ。

私も一つ手を伸ばし、はむりと一口。…あ、梅干しだ。光忠が握ってくれたものみたいで、いつも自分が握るのとは違う味がする。美味しい。



「隣、失礼するぞ!」


「?」



どかりと座ったのは岩融だった。
……おにぎり、彼には小さかっただろうか?ほぼ同じ大きさではある筈なのに、手のサイズが違うだけでこうも小さく見えるとは…。



「まだ礼を言っていなかったからな!主には手入れしてもらって感謝している!」


「どういたしまして。でも、私は謝らねばなりません。あそこまで危うい状態だったのに気づけませんでした。申し訳ありません」


「がはははははは!俺は礼を言い、主は謝るか!
なに、助かったのだからそれで良いのだ。正直もう折れると思っていたからな。だが、またこうして皆と飯を食い触れ合えるこの状況を作ってくれたのは他でもない主だ。あのでかい傷を跡形も無く消し去っておいて謝る必要は何処にも無かろう」



身体だけでなく懐も大きな刀だ。あと一歩遅かったら冗談抜きで折れていたというのに。



「…貴方がそう言うのなら、もう謝るのはやめておきましょう」


「ああ!そうしろそうしろ!」



おにぎりを持っていない手でわしゃわしゃと撫でられた。「主は小さいなぁ」なんて言いながら。

…貴方が大きすぎるんです。



 

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